パーティを追放された鈺魔導士はパラメータチェンジ魔法を覚えたら誰にも負けなくなった

かにくくり

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第57話 遠征準備

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「できたぞ。ほら、持ってけ」

 ダンガルさんに依頼していた婚約指輪が完成した。

 しかし勢いで作ってしまったものの、どうすればいいか分からない。

 とりあえずローブのポケットの中にでも仕舞っておこう。
 別に完成したらすぐに渡せって話でもなかったしね。

 俺はダンガルさんにお礼を言い工房を後にすると、情報収集の為にギルドへ向かう。
 入口の扉を開けると、ギルドの中はいつになく大勢の人でごった返していた。

 掲示板の前にマリーニャ達の姿を見た俺は、人混みを掻き分けながら奥へ進む。
 マリーニャ達の下へ辿り着いた時には既にへろへろだ。

「いやあ参った。今日はやけに人が多いね。何かあったのかい?」

「これですよ」

 マリーニャが掲示板を指差す。

「なになに……レイド戦参加メンバー募集? 場所は東の国境付近にある嘆きの渓谷にある遺跡付近。対象は───国崩こくほう級モンスター、フェンリルだって!?」

「以前【ヘルクレス】が回収してきたという古文書に描かれていた魔物ですね」

「ホーロウの一件以降どこにいるのか分からなかったが、やっと姿を現したって事か。それじゃあさっさと退治してこようか。ん、待てよ。レイド戦って事は……」

 その時、俺は自分に注がれる周りの視線に気付いた。
 全員何かを期待するような目で俺を見ている。
 俺は瞬時に察した。

「こいつら全員レイド戦に参加するつもりか!? 経験ポイントのお零れ目的で!」

 国崩こくほう級モンスターを【フルーレティ】単体で撃破すれば5000程の経験ポイントが入ってくるが、これだけの大人数でのレイド戦となれば入ってくるのはせいぜいひとり頭1000ポイントだ。

「さすがに人数が多すぎる。ある程度ふるいにかけられない?」

 しかし、マリーニャが苦笑いをしながら言う。

「冒険者ギルドクリムド支部の意向で、この辺りの冒険者のレベルの底上げをしたいから連れてって欲しいんですって」

 確かに冒険者ギルド支部間の格差は問題になっている。
 ここクリムド支部でトップのパーティである俺達【フルーレティ】は遠征して不在の事が多く、強豪パーティといわれていた【ヘルクレス】も既に消滅している。
 それに次ぐパーティとなると俺も詳しくは知らないが、せいぜい平均レベル30程度のはずだ。
 冒険者個人としてはレベル48のプラリスがいるが、彼女は冒険者としては実質引退済みだ。
 今ならレベル62のホリックさんが町に滞在しているが、用事が済めばこの地を去るだろう。

 こんな状況では少し高難度の依頼が来たら誰も対応できなくなる。

 しかしうまくいったらクリムド支部から特別報酬が貰えるという話だったので、俺達はやむなくレイド戦を了承した。

「それでは明日の朝出発します。今日中に遠征の準備をして下さい」

 マリーニャがレイドのリーダーとして後輩冒険者達に指示を出す。
 その間に俺達も遠征の準備だ。
 ルッテとプリンとシズハナの三人が商会でポーション等のアイテムを揃えている間に、俺は教会へ足を運ぶ。

 目当てはプラリスだ。

 俺の≪リプレイス≫があるとはいえ、国崩こくほう級モンスターが相手だとなると何が起きるか分からない。
 後輩冒険者達にもしもの事があれば、先輩として寝覚めが悪い。
 高位の治癒士ヒーラーは必要だ。

「またあなたですか……」

 プラリスが不在となると、治療目的で教会を訪れる患者の足も遠のき、その分お布施が減る。
 俺は渋る神父を根気強く説得し、プラリスを同行させる許可を貰った。

「さて、次は……」

 俺達は次に酒場に足を運ぶ、店内を見回す。
 そこで昨日と同じ席で一杯やっているホリックさんを見つけた。

「こんにちはホリックさん」

「やあチェインさん。私は軽くアルコールが入っている状態の方が頭が回転するんですよ」

 そう言いってジョッキになみなみと注がれたエールを飲み干しながら、考古学の研究ノートを開く。
 どこが軽くだ。

 俺だけ素面でいるのも何なので、俺も軽く一杯飲んだ後に本題に入る。

「嘆きの渓谷の遺跡へ行くんですか。私も同行しても宜しいですか? いいですよね!」

 遺跡と聞いてホリックさんは興味津々で目を輝かせて懇願する。
 元よりそのつもりだ。俺は二つ返事で承諾する。

「ええ、勿論です」

 ホーロウの屋敷の魔道具や古文書の件で、古代の技術には何らかの秘密がある事は間違いない。
 考古学者のホリックさんと親交を深めておけば後々何かと役に立つ、という下心あっての事だ。

 これで今日俺がやるべき事は全て終わった。
 酒場を後にして宿屋へ向かうと、道端に人だかりができていた。
 俺は道行く人に尋ねる。

「これは何の集まりですか?」

「王都から行商人が来てるんです。珍しいお菓子を売っていますよ」

 こんな地方まで珍しい。
 そう言えば【フルーレティ】の皆は王都のスイーツが大好きだった事を思い出した。
 俺はお土産に買っていく事にした。

「いらっしゃいませ。うちのお勧めはこのマウンテンクレープです。とことん甘さを追求したうちでしか買えない逸品ですよ」

 店員さんが勧めてきたのは、イチゴ等の果物を飲み込むようにシュガーやはちみつが山の様に盛られた、見ているだけて胸焼けがしそうなクレープだった。
 でも彼女達は甘い食べ物に目がなかったよな。
 多分このくらいなら大丈夫だろう。

「じゃあそれで」

 俺はクレープを4つ購入し、紙に包んでローブのポケットに仕舞う。

 宿へ戻ると、丁度マリーニャ達も戻ってくるところだった。

「皆さんお疲れ様でした」

「いや、疲れるのは明日からだよ。あのひよっこ達の面倒を見ないといけないんだろ?」

「まあまあ。私達にもあんな頃がありましたし、たまにはこういうのもいいじゃないですか」

「あ、そうだ。皆にお土産を買ってきたよ」

 俺はポケットから紙に包まれたクレープを出して四人に渡す。

「なんだ、チェインにしては気が利くじゃないか」

「何だよプリン。いらないなら上げないぞ」

「うそうそ、ありがとなチェイン!」

「素直でよろしい。今日のは特別だからな。中身を見てきっと驚くぞプリン」

 四人は思いがけないご褒美に、満面の笑みを浮かべてクレープを受け取る。

 俺達はそれぞれ自分の部屋に戻り、明日に備えて今日は早めに休む事にした。

 ───はずだった。

 ドンドン!

 誰かが俺の部屋のドアを激しく叩く。

「うるさいな。誰だよ」

 俺はドアを開けると、そこには興奮して顔を紅潮させたプリンが立っていた。

「おい、チェイン! あんたどういうつもりだ! あんなものを寄こしやがって!」
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