パーティを追放された鈺魔導士はパラメータチェンジ魔法を覚えたら誰にも負けなくなった

かにくくり

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第58話 出立前夜

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 プリンは興奮収まらない様子でまくし立てる。

 しまった、シュガーやはちみつがたっぷり盛り込まれたクレープはさすがに甘すぎたか?
 普通のクレープを買うか、渡す前にちゃんと味見をしておけばよかったと後悔するも後の祭り。

「ごめん、ちょっと甘すぎたかな。こういうのが好きだと思ってサプライズをしてみたんだけど」

「あま……甘いってレベルじゃないぞ。確かにサプライズは嫌いじゃないけど……いきなりあんなものを渡されても困る」

「本当にごめん。いらなかったら捨ててもいいよ」

「捨てるって……そんな事できる訳ないだろ!」

 騒ぎを聞きつけて、隣の部屋からマリーニャ達が出てきた。

「さっきから何の騒ぎですか? 他の宿泊客の迷惑になりますよ」
「出禁になっても知らない」
「明日から忙しくなりますのに、煩くて休めませんわ」

「ああ、ごめんごめん。さっきプリンにあげたやつが気に入らなかったみたいで」

「べ、別に気に入らないって訳じゃないけど……だからって、国崩こくほう級モンスターの討伐を明日に控えたこのタイミングであれを渡すなんて……」

 何故が急にしおらしくなるプリン。

 皆にはいつも世話になってるから。ほんの感謝の気持ちだったんだけどな。
 口に合わなかったのなら仕方がない。

「とにかく、良い機会だから俺は普段の気持ちを伝えたかったんだ。処分するかどうかはプリンに任せるよ」

「……分かった。これについてはフェンリル討伐が終わってからゆっくりと話をさせて欲しい」

 大げさだな。
 しかしスイーツが好きな人にとっては、やはり味についてのこだわりがあるんだろうな。
 同じ失敗を繰り返さない為に、ちゃんと話し合いをして好みとか把握しておかないといけないな。

「じゃあこの話の続きはいずれ時間がある時にお願いするね。もう遅いから今日はこの辺でおやすみ!」

 俺は扉を閉めてベッドの上に横たわる。

 いやあ今日は失敗したな。
 慣れない事をするもんじゃない。
 しかしマリーニャ達は特にあのクレープの味を気にしてる様子はなかったな。
 まだ食べてないだけかもしれないけど。

 そんな事を考えながら、徐々に瞼が重くなってきた。

 ひそひそ……。

 扉の外からまだ話し声が聞こえる。

「なんだ? プリン達かな? 早く自分の部屋に戻って休めばいいのに」

 ……。

 とは言ったものの誰でもひそひそ話は気になるもので、俺はベッドから飛び起きると扉に耳を当てて話の内容を確認する。

「まさか、チェインがねえ……」

「今までそんな素振りは全く見せませんでしたけど、分からないものですわね」

 やはり俺の事を話している様だ。
 仲間達から陰口を叩かれるのは辛いな。
 しかし話の内容が気になるので、更に聞き耳を立てる。

「もしあたしがこれを受けたら、ルッテはどうする?」

「あら、私はプリンを応援をしますわよ。少し残念な気はしますけど、妬んだりはしませんわ」

「でも、もしチェインが子爵になったら当然側室を持つ事になるでしょう。一緒に養ってもらったらどうですか?」

「あはは、それもありだな。シズハナはどう思う?」

「わ、私にはよく分かりません……」

 ん……何の話だ?

「話を聞いてくれてありがとう。やっと気持ちの整理がつきそうだよ」

「その指輪、肌身離さず持ってて下さいねプリン。もし無くしたりしたらチェインに申し訳が立ちません」

 指……輪?

 俺はハッとしてローブのポケットに手を突っ込む。

「……ない」

 ポケットにしまっておいたはずの婚約指輪がどこにもない。

「しかし、クレープの中に指輪を仕込むとは、粋なサプライズですわね」

 違う。これは完全な事故だ。
 クレープをポケットにしまった時に、指輪が紛れてしまった様だ。
 早く弁解をしないと取り返しのつかない事になる。
 俺は扉のノブを握る。

「まったくだ。ここまでして実は冗談でしたとか言おうものなら、例えチェインでもぶった切ってやる」
「そうですわね。私でもそうしますわ」
「うふふ、私だったら≪爆砕魔法ブラスト≫で吹き飛ばしますね」
「私はこのクナイで首を掻き切る」

 ……。

 今更間違いでしたなんて言えない空気だ。

 俺はノブから手を離して数歩後退り、ベッドに腰かけると深呼吸をして心を落ち着かせる。

 ……。

 詰んだ。
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