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第三部 宰相閣下の婚約者
814 ラハデ公爵の来訪(前)
アンディション侯爵邸は、代々臣籍降下した王族が住まう館だ。
複数の王族がいた場合には、他の公爵領にも拠点があったりするそうだけれど、政変で王族が激減した今となっては、イデオン公爵領内の、このアンディション侯爵邸しか使われてはいない。
かつてはイデオン公爵邸にあるような臨時の〝転移扉〟もあったそうだ。けれど政変後は、誰に押しかけて来られても困るということで、扉は撤廃されてしまったらしい。
余程「アンディション侯爵」として、夫人と静かに過ごしたかったのだろう。
暗黒時代の盟友とも言えただろう、トーレン・アンジェス前宰相が亡くなったからこそ、余計に。
今回、ミルテ王女がアンディション侯爵邸で過ごすことや、会談後メダルド国王もそこに合流することが決まったとは言え、既に〝転移扉〟は撤廃された後。
そこでアンディション侯爵邸周辺での、簡易型の転移装置の使用に関してのみ、王宮からの許可が下りたのだ。
だから今日、ラハデ公爵がギーレン国からやって来たとしても、問答無用で『真判部屋』に飛ばされることはない。そこは胸を撫で下ろす。
予め決めておいた時間に、普段は鍵がかかっているという部屋の中で待っていると、やがて奥にあった扉がカチリと音を立てて開いた。
「イザク!」
流石に他国に足を踏み入れるのに、ギーレン国筆頭公爵家当主を前面に立たせる訳にはいかなかったのだろう。
扉の向こうから最初に顔を覗かせたのは、ギーレン国のシーカサーリ王立植物園に留学(?)中の〝鷹の眼〟ナンバー2、イザクだった。
「久しぶり! 研究は進んでる?」
どこかの〝草〟の一人に比べると、チャラさのカケラもないイデオン公爵家の護衛は「ああ」と、短く私の言葉を肯定した。
「詳しくはお館……んんっ、閣下のいらっしゃる時にまた報告する」
自分が「ユングベリ商会」の商会員であるという「設定」を思い出したのかも知れない。
お館様と言いかけたイザクは短く咳ばらいをして、チラリと背後を振り返った。
転移装置があくまで簡易型なので、装置が空間を繋いでいる時間には限りがあるのだ。
恐らくはラハデ公爵側に不安と不審を抱かせないために、イザクが先陣切って通過したのだと思われた。
であれば、じきに残りの面々が現れる。
そんな私の予想を裏付けるかのように、一人、また一人と扉の向こうから人が入ってきた。
さりげなく〝鷹の眼〟の皆がこちらを庇うように動いてくれているのは、向こうがラハデ公爵家の護衛で、警戒しているからだろう。
いくらイザクが先に来ているとはいえ、物事に絶対はない。
その辺り、彼らもプロだ。
「あ……」
そして最後、ピンクがかった金色の髪を持つ男性がその姿を見せた時。
私のすぐ傍でシャルリーヌが声をふるわせた。
「サイアス様……」
私も一応面識はあるけれど、シャルリーヌのその一言で、やって来たのが替え玉でも何でもなく、サイアス・ラハデ公爵本人であるとの確信が持てた。
「ご無沙汰しておりました。ご相談もせず、国を出てしまった不忠者の願いをお聞き届け下さり、感謝の言葉もございません」
一歩前に出たシャルリーヌが、そんな第一声と共に完璧なカーテシーを見せる。
ユングベリ商会として売りたい商品を持ってきて貰う、とミルテ王女やユリア夫人に伝えていたにしては、明らかに対応がおかしいのだけれど、そこは外交上の繊細な問題として「察して」貰おうと、私もシャルリーヌも敢えて詳しく説明しない方向に舵を切っていた。
「……うむ。息災そうだな。其方のことは姉上も気にしていた。戻ったら、あるがままの姿を伝えるとしよう」
圧倒的な大貴族オーラ。
元第一王子は、エヴェリーナ妃とこの人の厳しさについていけず、楽な方に逃げてしまったのだろうかと、何となく察せられてしまうほどだ。
「私も姉上も、其方を責めようなどと露ほども思ってはおらん。そうせざるを得なかったのだろうと、理解しているつもりだ」
王より王らしいというか、さすがエヴェリーナ妃の実弟というか。
強面だし、感情を読みづらい淡々とした話し方だし、あまり親しみを持てる感じではないものの、シャルリーヌを案じていたというのは雰囲気から察することは出来る。
私なんかよりも余程長くこの人と接していたシャルリーヌは、気圧されるどころかむしろ感激しているようだった。
(うん、シャルリーヌのファザコン説に一票だよ)
初恋だったんじゃないか、と実父のベクレル伯爵が微笑っていたのも、あながち間違いではない気がした。
まあ、婚約者が浮気者で、その弟が粘着質とくれば、器の大きい大人の男性に魅かれてしまうのも無理はないだろうけど。
「サイアス様……」
「今でもそのように呼んでくれるか」
「ご不快でしたでしょうか」
「いや、構わん。そういうことなら私も以前の通りで構わぬのか?」
「もちろんです!」
「うむ……まあ、この場ではその方がかえっていいのかも知れぬしな」
サイアス・ラハデと名乗っていいのかどうかを躊躇しているラハデ公爵は、正しい。
表向き商品の売り込みに来い、と言ってあったのだから尚更だ。
ここはシャルリーヌに続いて私の出番だ。
事前に打ち合わせておいた通りに、まずは私がカーテシーを見せる。
「ご無沙汰しております。今回はお忙しい中ユングベリ商会のためにお骨折り下さって誠に有難うございます」
敢えて「ラハデ公爵」とは、声をかけない。
それと察した公爵も、不敬だ何だと論うことはしなかった。
「……ベッティル商会は、我が姉が〝イラ〟を使った製品の開発から流通までを任せている商会だが、今回所望した〝ブランデヴァイン〟に関しても発言権は大きい。品物そのものもそうだが、伝手もあっていいだろうと、今回は敢えてベッティル商会の商品を持ってきたのだ」
イラとは、ギーレン国内産のブランドイチゴで、エヴェリーナ妃のネームバリューによってギーレン国内で知られたイチゴだ。
ドライフルーツ化したイチゴを使ってのフルーツティーは抜群の味わいで、ギーレン国内ですら常に品薄という高級茶葉である。
一部、ユングベリ商会にも卸してくれる話でなんとかまとまりそうではあるけれど、まだそこまで具体的なところまではいっていない。
そこで公爵かエヴェリーナ妃かが、今回の〝ブランデヴァイン〟も同じ商会を通すことで、今後の話し合いをスムーズに進めようと、窓口を一本化してくれたようなのだ。
「ベッティル商会、ですか」
「出資者は私だし、姉上にも経営権はある。詐欺まがいのことはせんよ」
確かに〝イラ〟や銀細工の取引の話があった時でも「取引にあたっては試験を課す」と言っていたくらいだから、そこは信用していいんだろう。
ただ油断をするとこちらが取り込まれてしまいかねないので、そこは注意が必要なのだ。
「ちなみに〝ブランデヴァイン〟にも、何か試験が?」
「そこは姉上次第ではあるが……そもそもなぜ〝ブランデヴァイン〟なのか、という理由にもよるだろうな」
口元に手をやりながらそう言ったラハデ公爵の視線が、あたりを一巡する。
私もそこで、公爵どころか王女や大公夫人もその場に立たせたままだったことを思い出した。
「あ、ああ! 詳しいお話はぜひおかけいただいてから!」
慌てる私に、さすが王妃教育をほぼ終わらせていたシャルリーヌが、落ち着いた仕種でラハデ公爵に着席を促しつつ声をかけた。
「サイアス様、どうぞこちらへ……ですが先に、この邸宅の所有者夫人でいらっしゃるユリア様と、賓客として訪れていらっしゃるミルテ様をご紹介させていただいてよろしいでしょうか?」
――はたしてこの三人は、互いの氏素性に気が付くのか。
私は思わず固唾を呑んでその続きを見守ってしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――祝・聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ? 5巻発売決定……!!
いつも応援いただいて有難うございます!m(_ _)m
皆様の応援により、1月30日(金)前後の出荷予定として、5巻の発売が決定致しました!!
https://regina.alphapolis.co.jp/recently/tankou
ギーレン編が佳境に入る第5巻。
また、Web連載にはないオリジナルのエピローグも追加されます!
各社サイトの予約が開始になり次第改めて告知させていただきます。
更新も頑張ってペースを上げたいと思っていますので、どうか引き続きの応援宜しくお願い致します……!
複数の王族がいた場合には、他の公爵領にも拠点があったりするそうだけれど、政変で王族が激減した今となっては、イデオン公爵領内の、このアンディション侯爵邸しか使われてはいない。
かつてはイデオン公爵邸にあるような臨時の〝転移扉〟もあったそうだ。けれど政変後は、誰に押しかけて来られても困るということで、扉は撤廃されてしまったらしい。
余程「アンディション侯爵」として、夫人と静かに過ごしたかったのだろう。
暗黒時代の盟友とも言えただろう、トーレン・アンジェス前宰相が亡くなったからこそ、余計に。
今回、ミルテ王女がアンディション侯爵邸で過ごすことや、会談後メダルド国王もそこに合流することが決まったとは言え、既に〝転移扉〟は撤廃された後。
そこでアンディション侯爵邸周辺での、簡易型の転移装置の使用に関してのみ、王宮からの許可が下りたのだ。
だから今日、ラハデ公爵がギーレン国からやって来たとしても、問答無用で『真判部屋』に飛ばされることはない。そこは胸を撫で下ろす。
予め決めておいた時間に、普段は鍵がかかっているという部屋の中で待っていると、やがて奥にあった扉がカチリと音を立てて開いた。
「イザク!」
流石に他国に足を踏み入れるのに、ギーレン国筆頭公爵家当主を前面に立たせる訳にはいかなかったのだろう。
扉の向こうから最初に顔を覗かせたのは、ギーレン国のシーカサーリ王立植物園に留学(?)中の〝鷹の眼〟ナンバー2、イザクだった。
「久しぶり! 研究は進んでる?」
どこかの〝草〟の一人に比べると、チャラさのカケラもないイデオン公爵家の護衛は「ああ」と、短く私の言葉を肯定した。
「詳しくはお館……んんっ、閣下のいらっしゃる時にまた報告する」
自分が「ユングベリ商会」の商会員であるという「設定」を思い出したのかも知れない。
お館様と言いかけたイザクは短く咳ばらいをして、チラリと背後を振り返った。
転移装置があくまで簡易型なので、装置が空間を繋いでいる時間には限りがあるのだ。
恐らくはラハデ公爵側に不安と不審を抱かせないために、イザクが先陣切って通過したのだと思われた。
であれば、じきに残りの面々が現れる。
そんな私の予想を裏付けるかのように、一人、また一人と扉の向こうから人が入ってきた。
さりげなく〝鷹の眼〟の皆がこちらを庇うように動いてくれているのは、向こうがラハデ公爵家の護衛で、警戒しているからだろう。
いくらイザクが先に来ているとはいえ、物事に絶対はない。
その辺り、彼らもプロだ。
「あ……」
そして最後、ピンクがかった金色の髪を持つ男性がその姿を見せた時。
私のすぐ傍でシャルリーヌが声をふるわせた。
「サイアス様……」
私も一応面識はあるけれど、シャルリーヌのその一言で、やって来たのが替え玉でも何でもなく、サイアス・ラハデ公爵本人であるとの確信が持てた。
「ご無沙汰しておりました。ご相談もせず、国を出てしまった不忠者の願いをお聞き届け下さり、感謝の言葉もございません」
一歩前に出たシャルリーヌが、そんな第一声と共に完璧なカーテシーを見せる。
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「……うむ。息災そうだな。其方のことは姉上も気にしていた。戻ったら、あるがままの姿を伝えるとしよう」
圧倒的な大貴族オーラ。
元第一王子は、エヴェリーナ妃とこの人の厳しさについていけず、楽な方に逃げてしまったのだろうかと、何となく察せられてしまうほどだ。
「私も姉上も、其方を責めようなどと露ほども思ってはおらん。そうせざるを得なかったのだろうと、理解しているつもりだ」
王より王らしいというか、さすがエヴェリーナ妃の実弟というか。
強面だし、感情を読みづらい淡々とした話し方だし、あまり親しみを持てる感じではないものの、シャルリーヌを案じていたというのは雰囲気から察することは出来る。
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一部、ユングベリ商会にも卸してくれる話でなんとかまとまりそうではあるけれど、まだそこまで具体的なところまではいっていない。
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「ちなみに〝ブランデヴァイン〟にも、何か試験が?」
「そこは姉上次第ではあるが……そもそもなぜ〝ブランデヴァイン〟なのか、という理由にもよるだろうな」
口元に手をやりながらそう言ったラハデ公爵の視線が、あたりを一巡する。
私もそこで、公爵どころか王女や大公夫人もその場に立たせたままだったことを思い出した。
「あ、ああ! 詳しいお話はぜひおかけいただいてから!」
慌てる私に、さすが王妃教育をほぼ終わらせていたシャルリーヌが、落ち着いた仕種でラハデ公爵に着席を促しつつ声をかけた。
「サイアス様、どうぞこちらへ……ですが先に、この邸宅の所有者夫人でいらっしゃるユリア様と、賓客として訪れていらっしゃるミルテ様をご紹介させていただいてよろしいでしょうか?」
――はたしてこの三人は、互いの氏素性に気が付くのか。
私は思わず固唾を呑んでその続きを見守ってしまった。
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