聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第一部 宰相家の居候

212 室長、察して下さい

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 本日の王立植物園食堂ランチ。

 ・ストロベリー食パン
 ・ソイミートのハンバーグ(付け合わせ:ほうれん草、コーン)
 ・ヴィシソワーズ

 研究をしているのか、給食担当の管理栄養士をしているのか……以下略。

 エヴェリーナ妃お気に入りの〝イラ〟って何かと厨房に聞いたところ、ある意味予想通りに〝ニーロライチゴ〟の希少種だと言われた。

 収穫期じゃない為に実物がないらしいけど、突然変異によって生まれたらしく、ほんのりピンク色の果皮に、内部は白色。それでいて甘味もある…と言う事らしい。

 ラハデ公爵領近辺の地質の問題じゃないかと言う事で、真っ赤がデフォルトのところ、白っぽいイチゴとなると、本当にその周辺でしか収穫が出来ないらしく、ドライフルーツ化されたとしても、なかなか市場には出回らないらしい。

 料理長曰く「確か温室班で研究してんじゃないか?」って事だったけど。

 商会でドライフルーツ入りの茶葉を取り扱えるかも知れないと話すと、かなりの目玉商品になる事は間違いないから、頑張って権利を獲れと厨房の皆さんに激励されてしまった。

 …ますます〝ユングベリ商会〟を架空のままにしておけなくなってきた…

「………ユングベリ嬢」

 あれこれ悩みつつ研究室に向かうと、厨房もそうだったけど、何故かここの皆さまも、何とも言えない温い視線をこちらへと向けてきた。

「あ、おはようございます、キスト室長」

「ああ、うん。……昨日は確か、ベクレル伯爵夫人と過ごすって話じゃなかったか?」

「え?あ、えーっと…その筈だったんですけど、急な面会とか…色々……」

「ああ、彼ら、とある邸宅おやしき貰ったんだったか」

「………」

 シーカサーリ王立植物園でとっ捕まえた例の三人組に関しては「後日説明するので、とりあえず牢で預かって下さいませんか」と最初にラハデ公爵に言ったまま、昨日は放置してきてしまった…と言うのが正しい。

 エドベリ王子と調合室との間で良からぬ動きがあったっぽいので、と言っただけでよく預かってくれたなと、公爵の懐の広さに頭が下がる。

「まあ、その話は今は良いんだが……そうか、もう慣らされてるのか……?」

 キスト室長としては気を遣っていたっぽいところが、その直後にイザクを探しに来た首席研究員リュライネンの一言で、全てがあっけなく崩壊した。

「ユングベリ嬢。イザクは――うん?温室でのか?医務室寄っておいた方が良いぞ。大したことないと思っていると、後で腫れたりするからな」

「‼︎」

 研究オタクのリュライネンは、多分本当に、虫刺されを心配したんだろうけど、私に生温かい視線を向けてきた人たちは、絶対に違う。

(エ…ドヴァルド様…っ!)

 お気遣いありがとうございます…と返した私の声は、多分きっと震えてた。

「し…室長っ!ちょっとご相談が…っ」

「………そうか」

 決して居た堪れないから、別室に避難したいワケじゃないですからね⁉

 明らかにキスト室長からは「周りの追及を避けようとしている」と疑われているけど、話があるのは本当なので、とりあえず研究室からはさっさと避難をさせて貰った。

「あの…ですね。ユングベリ商会の本業は銀と銀細工の取引なんですけど」
「…ああ。確かに最初にそんな話はしていたな」

 私が意外に真面目な話をしだしたので、軽く目を瞠りながらも、とりあえずキスト室長は耳を傾けてくれた。

「今、取引先の工房に近い銀山周辺の村が、植物が枯れて土地が痩せたり、毒物中毒に似た症状で村人が倒れたりと、銀抽出の過程で出た排水なんかが原因で、荒れてるんですね」

 本当はちょっとどころではないのだけれど、今は言わなくても良い話だ。

「それで、私が今、この植物園でお世話になっていると言う事を聞いた取引先の関係者から、枯れた土地から再び収穫が出来るような、そんな研究がないか聞いてみて欲しい。ダメなら村人を何人か、研究に行かせて欲しいとの話がありまして……」

「……銀山周辺の土地が枯れた?」

「あくまで、ウチの取引先の銀山に限られた話なので、ラハデ公爵領内の銀山がどうなっているのかは分かりません。ただ工房の人たちは、それを確かめる意味でもラハデ公爵領内の工房に、職人をやって、交流がてら調べたいとの事だったので、これに関しては昨日、ラハデ公爵様と話はしたんです」

「……相変わらず、休みの日に休まないんだな、貴女は……」

「あ…はは、今はその話は良いじゃないですか。肝心なのは今、銀山周辺の村が複数、何の作物も収穫出来なくなっている事なんです。だから、多少土地の条件が悪くても育つ植物とか、その辺りを知りたいみたいで」

「それは本来、一商会が取り扱う話じゃないだろう。いや…ラハデ公爵と話をしたのなら、エヴェリーナ妃には伝わるだろうから、それは進めて良い話になるのか……」

 口元に手をやりながら、キスト室長は少し考えているようだったけど、それはそう長い時間の話ではなかった。

「分かった。荒廃した土地でも育つ植物と言うのは、確かに研究している部署はある。ただ今は、そこに人を入れるような余裕はない。本来、貴女やイザク達も特別枠みたいなものだからな」

「……すみません」

「いや、結果的に研究施設全体が活気づいているから、今となっては有難い話だが……それを万人に適用出来るかと言えば、そこは約束できない」

「そうですね、理解してます」

 研究施設は慈善事業ではないのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

「だが、聞いている限りは放置しておいて良い問題だとも思えない。だからそうだな、その土地の症状を説明出来る村人に、土地の土を持ってこの植物園を訪ねるように伝えると良い。土を一度分析して、育てられそうな植物があると分かれば、苗を進呈しよう。対価はその苗が育つかどうかの経過報告と、育てばその収穫物を植物園こちらにも送る事だ。それと、もし分析した結果の土地の状況があまりにも深刻なら、植物園こちら側から人をやって、現地で研究させても良い。それならば、村人を受け入れるよりも対処はしやすい。私の権限だけで事は済むからな」

「室長……ありがとうございます」

「いや。話はそれだけか?」

「いえ、あと一つありまして」

 本当に一服盛るのかはともかくとして、キスト室長が拒否をすれば、話はそこで終わる。
 何にせよ、エドヴァルドとキスト室長が個別に会うのは、今の流れでは必要な事だと思えた。

「その……どうしても室長と、会う時間をとって欲しいと言う人がいまして」

「うん?その『村』の話ではなく、貴女の知り合いの中でと言う事か?」

「知り合い……まあ、そう…ですね。ユングベリ商会の全員が、頭が上がらない人と言いますか……」

 どうやら無意識のうちにネックレスのチェーンに手がいっていたみたいで、その様子からキスト室長はナニカを察してくれたみたいだった。

「……もしかして、貴女の、とかかな」
「えー…その……とっても説明はしづらいんですが……」
「貴女にそのを付けた人」
「………はい」
「私は喧嘩でも売られるのかな」
「いえいえっ、真面目な話です、真面目な!」
「ほう……」

 さすがにここで「エドヴァルド・イデオン」の名前は出せないだろうと思うと、どうしても不審な応対になってしまう。

「その……受ける受けないは、室長のご判断で良いと思うんですけれど……当代〝扉の守護者ゲートキーパー〟の事で、相談があるとか……」

「な……⁉」

 割と普段飄々としているキスト室長が虚を突かれると言うのは、ちょっと珍しい事かも知れなかった。
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