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第一部 宰相家の居候
219 覚悟と決断
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
「エドヴァルド様。ナシオに預けておいた霊薬もどきと言うか、解毒薬というか……効果ってあったんでしょうか?」
新薬と睡眠薬用の薬草の在庫を確認してくるとキスト室長が言った為、それまでは私とエドヴァルド、イザクとシーグで部屋に残される形になった。
「……そもそも」
あれ、答えるエドヴァルドの声が何だか不機嫌。
「フィトとナシオは王宮の護衛騎士に紛れてる、鞄に害獣用の罠は入っている、非常食は詰め込まれている。… 霊薬もどきがどうのと言う以前の話じゃないのか」
「あっ、そうですよね!罠の威力も聞いておかなきゃでした」
「……わざとなら良い度胸だ、レイナ。そう言う話をしているんじゃないと、まさか分からないとは言わないだろうな」
「ええっとですね……念には念を入れただけで……」
あ、不機嫌の原因って私か……。
「や…役に立ちませんでした?ただのお荷物になったんなら申し訳なかったです……」
「生憎、非常食以外は非常に役に立った。役に立ちすぎて、霊薬もどきに関してはどこかの王立植物園に目を付けられるし、害獣用の罠に関しては、アンジェスの王宮護衛騎士たちが興味津々で、戻ったら確実に管理部の連中に話が洩れて、目を付けられるだろうな。事前に一言説明さえあれば、どれもこれも話がそこまで大きくならなかったんだが」
エドヴァルドに対して、事後承諾みたいにアレコレ裏から手を回した点に関しては、私よりもむしろどこぞのサイコパス陛下を追求して貰いたい。それはもう切実に。
口を開くと余計なコトまで言いそうなので、視線で訴えてみたところ、多少?ナニかは伝わったみたいだった。
「……フィルバートは、予定外のギーレン滞在を謹慎期間に含めようとしているみたいだが、絶対に阻止してやる。戻ってから、きっちり一ヶ月休んでやるからな」
…わぁ。もはや謹慎が余暇扱いになってます。
謹慎って、意味何だっけ。
聞かなかったコトにして良いでしょうか。
顔を痙攣らせた私に気付いたエドヴァルドは、軽く咳払いをして、場の空気を元に戻した。
「害獣用の罠に関しては、侍女が廊下の端に吹き飛ばされるくらいの効果と訴求効果があったな。全く新しい魔道具じゃなく、今ある物の応用だから、管理部ではない、一般の王宮護衛騎士達にも理解が早かった」
「…それ、侍女さん無事だったんでしょうか」
「知らん。死んだとは聞いていないが。あまり威力が弱いのも意味をなさないだろうから、良いんじゃないのか」
「そ、そうですか……」
この辺りのシビアさは、さすが一国の宰相と言うか、サイコパス陛下の幼なじみと言うべきか。
「薬に関しては、これみよがしに目の前で料理に振りかけたら国王も王子も顔を痙攣らせていたから、何かは混ぜられていたのだろうし、ある程度の効力はあった筈だが、まさか何を混入したとかは聞けないから、薬がたまたま効いたのか、本当に毒消しとして万能なのかまでは判断が出来ないな」
「ああ、いえ、何かしら効力があったと言う事が分かっただけでも一歩前進です。お館様、出来れば残ってでも、薬が完成するまで続けさせて頂きたいのですが……」
首席研究員のおかげで、先が見えて来ていると、イザクが言った。
「ただ基本的に植物園の研究結果は王家に献上をしているらしく、アンジェスとギーレンで多少原材料を入れ替える事を検討した方が良いのか、権利を共有する事が可能なのかも、指示を頂きたく……」
真摯なイザクの声色に思うところがあったのか、エドヴァルドも少し考える仕種を見せた。
「画期的な薬にはなるだろうが、既に公爵家で独占する事が難しいと言う事か」
「はい。ほぼ同じ時期に取り掛かり始めていたようなので、秘匿したとしても、遅かれ早かれ開発はされていたかと」
「だったら、互いの手元に調合の手順書があると、予め分かっている方が双方にとっても都合が良いだろうな。双方合意の上で、原材料の一部を似て非なる物とするのが一番良いだろう。出来そうなのか?」
「恐らくは。植物園の首席研究員とも、今、その方向で詰めをやっていて」
「分かった。なら、そのまま進めろ。残った後の事は、こちらの帰国日が定まったところで再度指示する」
「あ…ありがとうございます」
イザクが感激して頭を下げたちょうどそこへ、キスト室長が戻って来た。
「うん、どうした?」
「あ、室長。一応イザクは薬の完成まで残ると言う事になりました。あと、一部原材料を似て非なる物に改良する形で、王家献上分との差別化を図ろうかと」
私が前半の話をさくっと無視してこの場をまとめた事に気が付かないまま、キスト室長は「イザクがこのままリュライネンと共同研究をする」と言うところにしっかり反応して、喜色を浮かべた。
「そうか!いや、確かにユングベリ商会にも商会としての事情はあるだろうからな。例え1種類でも良いから、差し替えて『別物』に出来るなら、そこが落とし所だろう」
そのまま「それで」と、机の上に羊皮紙の束と薬草を数種類並べている。
「調合の手順書は渡せるが、やはり新薬の方の材料が少し足りなかったな。ただどれも近隣領地に言えばすぐ揃うだろうから、一日二日あれば用意は可能だと思う」
「そう言う事なら、エヴェリーナ妃とラハデ公爵と連絡をとって日時を調整している間に揃いそうだな」
そう返したエドヴァルドの視線が、じっと私へと向けられた。
「レイナ。私は私で彼女と連絡を取るが……貴女もラハデ公爵経由にはなるだろうが、連絡は取れるか?」
良いな?と、覚悟の程を改めて聞かれた気がした。
一瞬の視線の交錯の後で、私は大きく息を吐き出した。
ラハデ公爵に連絡をすると言う事は、エヴェリーナ妃の提案を受け入れる事と同義語だ。
後悔をしないのは、私がどうしたいのかを考えて、決める事。
舞菜を起点に判断をしてはいけない。
「そ…うですね、はい、タイミングを見て連絡します。大…丈夫です」
――私はエドヴァルドと、ギーレンを出る。
「エドヴァルド様。ナシオに預けておいた霊薬もどきと言うか、解毒薬というか……効果ってあったんでしょうか?」
新薬と睡眠薬用の薬草の在庫を確認してくるとキスト室長が言った為、それまでは私とエドヴァルド、イザクとシーグで部屋に残される形になった。
「……そもそも」
あれ、答えるエドヴァルドの声が何だか不機嫌。
「フィトとナシオは王宮の護衛騎士に紛れてる、鞄に害獣用の罠は入っている、非常食は詰め込まれている。… 霊薬もどきがどうのと言う以前の話じゃないのか」
「あっ、そうですよね!罠の威力も聞いておかなきゃでした」
「……わざとなら良い度胸だ、レイナ。そう言う話をしているんじゃないと、まさか分からないとは言わないだろうな」
「ええっとですね……念には念を入れただけで……」
あ、不機嫌の原因って私か……。
「や…役に立ちませんでした?ただのお荷物になったんなら申し訳なかったです……」
「生憎、非常食以外は非常に役に立った。役に立ちすぎて、霊薬もどきに関してはどこかの王立植物園に目を付けられるし、害獣用の罠に関しては、アンジェスの王宮護衛騎士たちが興味津々で、戻ったら確実に管理部の連中に話が洩れて、目を付けられるだろうな。事前に一言説明さえあれば、どれもこれも話がそこまで大きくならなかったんだが」
エドヴァルドに対して、事後承諾みたいにアレコレ裏から手を回した点に関しては、私よりもむしろどこぞのサイコパス陛下を追求して貰いたい。それはもう切実に。
口を開くと余計なコトまで言いそうなので、視線で訴えてみたところ、多少?ナニかは伝わったみたいだった。
「……フィルバートは、予定外のギーレン滞在を謹慎期間に含めようとしているみたいだが、絶対に阻止してやる。戻ってから、きっちり一ヶ月休んでやるからな」
…わぁ。もはや謹慎が余暇扱いになってます。
謹慎って、意味何だっけ。
聞かなかったコトにして良いでしょうか。
顔を痙攣らせた私に気付いたエドヴァルドは、軽く咳払いをして、場の空気を元に戻した。
「害獣用の罠に関しては、侍女が廊下の端に吹き飛ばされるくらいの効果と訴求効果があったな。全く新しい魔道具じゃなく、今ある物の応用だから、管理部ではない、一般の王宮護衛騎士達にも理解が早かった」
「…それ、侍女さん無事だったんでしょうか」
「知らん。死んだとは聞いていないが。あまり威力が弱いのも意味をなさないだろうから、良いんじゃないのか」
「そ、そうですか……」
この辺りのシビアさは、さすが一国の宰相と言うか、サイコパス陛下の幼なじみと言うべきか。
「薬に関しては、これみよがしに目の前で料理に振りかけたら国王も王子も顔を痙攣らせていたから、何かは混ぜられていたのだろうし、ある程度の効力はあった筈だが、まさか何を混入したとかは聞けないから、薬がたまたま効いたのか、本当に毒消しとして万能なのかまでは判断が出来ないな」
「ああ、いえ、何かしら効力があったと言う事が分かっただけでも一歩前進です。お館様、出来れば残ってでも、薬が完成するまで続けさせて頂きたいのですが……」
首席研究員のおかげで、先が見えて来ていると、イザクが言った。
「ただ基本的に植物園の研究結果は王家に献上をしているらしく、アンジェスとギーレンで多少原材料を入れ替える事を検討した方が良いのか、権利を共有する事が可能なのかも、指示を頂きたく……」
真摯なイザクの声色に思うところがあったのか、エドヴァルドも少し考える仕種を見せた。
「画期的な薬にはなるだろうが、既に公爵家で独占する事が難しいと言う事か」
「はい。ほぼ同じ時期に取り掛かり始めていたようなので、秘匿したとしても、遅かれ早かれ開発はされていたかと」
「だったら、互いの手元に調合の手順書があると、予め分かっている方が双方にとっても都合が良いだろうな。双方合意の上で、原材料の一部を似て非なる物とするのが一番良いだろう。出来そうなのか?」
「恐らくは。植物園の首席研究員とも、今、その方向で詰めをやっていて」
「分かった。なら、そのまま進めろ。残った後の事は、こちらの帰国日が定まったところで再度指示する」
「あ…ありがとうございます」
イザクが感激して頭を下げたちょうどそこへ、キスト室長が戻って来た。
「うん、どうした?」
「あ、室長。一応イザクは薬の完成まで残ると言う事になりました。あと、一部原材料を似て非なる物に改良する形で、王家献上分との差別化を図ろうかと」
私が前半の話をさくっと無視してこの場をまとめた事に気が付かないまま、キスト室長は「イザクがこのままリュライネンと共同研究をする」と言うところにしっかり反応して、喜色を浮かべた。
「そうか!いや、確かにユングベリ商会にも商会としての事情はあるだろうからな。例え1種類でも良いから、差し替えて『別物』に出来るなら、そこが落とし所だろう」
そのまま「それで」と、机の上に羊皮紙の束と薬草を数種類並べている。
「調合の手順書は渡せるが、やはり新薬の方の材料が少し足りなかったな。ただどれも近隣領地に言えばすぐ揃うだろうから、一日二日あれば用意は可能だと思う」
「そう言う事なら、エヴェリーナ妃とラハデ公爵と連絡をとって日時を調整している間に揃いそうだな」
そう返したエドヴァルドの視線が、じっと私へと向けられた。
「レイナ。私は私で彼女と連絡を取るが……貴女もラハデ公爵経由にはなるだろうが、連絡は取れるか?」
良いな?と、覚悟の程を改めて聞かれた気がした。
一瞬の視線の交錯の後で、私は大きく息を吐き出した。
ラハデ公爵に連絡をすると言う事は、エヴェリーナ妃の提案を受け入れる事と同義語だ。
後悔をしないのは、私がどうしたいのかを考えて、決める事。
舞菜を起点に判断をしてはいけない。
「そ…うですね、はい、タイミングを見て連絡します。大…丈夫です」
――私はエドヴァルドと、ギーレンを出る。
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