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第一部 宰相家の居候
220 おてがみ ついた
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
表向き、エドヴァルドは「先日の王宮での顔合わせでキスト室長と意気投合、エドベリ王子と聖女マナの視察には同行出来ないと聞いた時点で、室長が個人的に招待した」名目で、植物園を訪問した事になっていた。
「それだと〝裏〟の人間に邸宅に来た事が嗅ぎ付けられても通用するから」
意気投合って便利な言葉だ――と微笑うキスト室長が、ちょっと黒い。
たとえ研究員達の間で「ユングベリ嬢の婚約者」と認識されていても、紙面の存在がある以上は後になっても「アレ、宰相閣下だったのか!なるほど紙面はやっぱり真実だった!」としかならないから、問題ないと。
ああ……新薬の治験を前に、国王―王子ラインよりもエヴェリーナ妃―コニー夫人ラインを選んじゃったんですね、室長。
あと、どうやら相当実家辺境伯家との折り合いも悪いらしく、当代〝扉の守護者〟トバル・ラガルサの後見職から実家を引き剝がす為に、新たに〝扉の守護者〟となる者の後見先についてはオススメがあるから、エヴェリーナ妃に薦めてみてくれとまで言ってきた。
「アベラルド公爵家なら、キスト辺境伯家とは不仲だし、ラハデ公爵家とは勢力的にもほぼ拮抗している。違いは令嬢が王家に輿入れしたか、しなかったかの違いだけと言っても良いくらいだ。後々問題を引き起こしそうな強欲な縁者を持たず、見るからに御しやすそうな聖女の後見ともなれば、喜んで引き受ける筈だ」
嫡男とは顔見知りらしい。
「かつ、次期公爵となるディエスには、ラハデ公爵家と正面切って事を構える意思はない。充分手は組める。キスト辺境伯家を抑える事が出来て、ラハデ公爵家だけを優遇していると取られない為にもちょうど良いと説けば、陛下も殿下も聖女をアベラルド家に縁付けて王家の一員とする事に折れざるを得ないだろう」
エヴェリーナ妃も賛成する筈だと、キスト室長は言った。
やっぱりアンジェスよりも国の規模が大きいだけあって、各貴族家ごとの力関係が更に面倒なんだなと思った。
と言うかキスト室長、本人の希望が多分に反映されているにせよ、辺境伯家と距離を置いている事が凄くもったいないんじゃないだろうか――辺境伯家の将来にとっては。
「……良いのか、それで。実家の事だろう」
多分エドヴァルドも同じ事を思ったんだろうけど、キスト室長の方は「私は自分が静かに研究に没頭出来る環境を整えたいんですよ。実家の事など二の次です」と良い笑顔で言い切った。
まあ、当人が良いと言うのなら良いんだろう。基本、他国のお家の話だし――と、多分私とエドヴァルドは、同じところで納得したような気がした。
「分かった。その後見の件は、折を見て私の方からエヴェリーナ妃に直接話をしよう。レイナからラハデ公爵経由となると、ラハデ公爵家の方に不穏な意思があると取られかねないだろうからな」
「私も、用なく調合室以外に出入り出来ませんし…と言いますか、エヴェリーナ妃とお会いするとなったら、後で周りから何を言われるか分かったものではありませんから、そこはお願いするしかないのですよ。申し訳ない」
――そう言った形で、いったん王立植物園の「視察」は終了した。
「……次こそは、帰りたいものだな」
去り際にそう、エドヴァルドに耳打ちされた私は、不意を突かれた所為か、周りからは顔が赤らんで見えていたらしい。
結果として、紙面の話に信憑性が更に増したみたいだと、私は後からイザクに聞かされる事になった。
* * *
植物園を定時で上がってベクレル伯爵邸に戻ると、妙にソワソワとした伯爵夫妻のお出迎えを、何故か受ける事になった。
「あ…ああ、すまないね。今日の午後、シーカサーリ商業ギルドが雇う配達人が、レイナ嬢宛に手紙が届いていると言う事で、邸宅を訪ねて来たのだよ。まさか勝手に開ける訳にもいかないだろう?だから帰って来てくれるのを待ちわびていたと言うか……」
ああ、そうか。
伯爵夫妻的には、シャルリーヌからの返信が同封されていないか、気になって仕方がなかったんだ。
「分かりました、じゃあとりあえず先に開封してしまいますね」
商業ギルド製の手紙用の袋の中を覗き込むと、そこにはセルヴァンからのものと、シャルリーヌからの、私と伯爵夫妻それぞれに宛てた手紙とが入れられていた。
私が伯爵夫妻にシャルリーヌからの手紙を手渡すと、それを押し戴くように受け取った伯爵が、何が書かれているか等、詳しくは夕食で…と言って、私室の方へと夫婦で下がって行った。
私も、滞在させて貰っている客間に行き、二通の手紙に目を通す。
セルヴァンの手紙に関しては、概ね変わりなく皆過ごしていると言う事が書かれていた。
ベルセリウス将軍の手を煩わせる程の事件はおきておらず、ミカ君も洋菓子店の店子やボードリエ伯爵邸で学園の話を聞くなど、着々と伝手を広げながら元気に過ごしているらしい。
と同時に、王宮からエドヴァルドの帰国に関する連絡もまだ来ないため、私の安否も含めて皆ヤキモキしているとの事だった。
公爵邸家令としての権限では、王宮がどうなっているのかを知るのは無理だろうから、手紙の内容としてはさもありなん、と言ったところだった。
…むしろ続けて読んだシャルリーヌからの手紙の方が、ツッコミどころ満載で、どうして良いか分からなくなるくらいだった。
舞菜が不在の為、少し魔力を融通して欲しいと国王名で管理部からの依頼があり、シャルリーヌは一度王宮に登城したらしい。
その際、エドヴァルド不在中の宰相職務で、急を要する決裁書類に関しては、フィルバートの手が回らないところでフォルシアン公爵が臨時で補佐をしているらしい事や、そろそろフィルバートも待ち続ける事にキリがないと思い始めているのか、私が進呈したギーレンからの刺客に関して「手首でもギーレン王宮に送って督促しようか」などと素で呟いているらしい。
魔力の融通に来たご令嬢の前で何を言っているんだと言う感じだけれど、多分シャルリーヌはあんまり動じてないんだろうなコレ…と手紙を読みながら私は思った。
(と言うか、厭きてる!陛下ってば、もう〝賭け〟に厭きてる‼包みを開けたら人間の手足がこぼれ落ちたとか……まんま江戸川〇歩の世界の再現じゃない⁉きっとシャーリーも、表情は思い切り痙攣っていた筈だけど……)
ただフィルバート・アンジェスのサイコパスっぷりを事前に知っていれば、少なくとも一般的なご令嬢の様に気絶したりはしない筈だ。
むしろフォルシアン公爵と一緒に、素でツッコミを入れていそうな気がしないでもない。
情報はありがたいが、変に気に入られないといいけど。
そもそも、ギーレンが優位なようで〝賭け〟の行方を左右しそうな情報を意図的に伏せていたあたりで、実はアンジェス優位となっている事は最初から分かっていた。
要はエドベリ王子とベルトルド国王が「どこで諦めるか」と言う事だけの筈なのだが、なかなかに往生際が悪いと言うか、未だ折れないあたりで、フィルバートが馬鹿馬鹿しく思い始めているに違いなかった。
これはもう、是が非でも帰国に向けて動きを早めるより他ない。
と言うかせめてエヴェリーナ妃とコニー夫人には「お二人は目にしないでしょうけど、手首が届いたらゴメンなさい」って連絡を入れておくべきなのか、私もしばらく真面目に悩んでしまった。
表向き、エドヴァルドは「先日の王宮での顔合わせでキスト室長と意気投合、エドベリ王子と聖女マナの視察には同行出来ないと聞いた時点で、室長が個人的に招待した」名目で、植物園を訪問した事になっていた。
「それだと〝裏〟の人間に邸宅に来た事が嗅ぎ付けられても通用するから」
意気投合って便利な言葉だ――と微笑うキスト室長が、ちょっと黒い。
たとえ研究員達の間で「ユングベリ嬢の婚約者」と認識されていても、紙面の存在がある以上は後になっても「アレ、宰相閣下だったのか!なるほど紙面はやっぱり真実だった!」としかならないから、問題ないと。
ああ……新薬の治験を前に、国王―王子ラインよりもエヴェリーナ妃―コニー夫人ラインを選んじゃったんですね、室長。
あと、どうやら相当実家辺境伯家との折り合いも悪いらしく、当代〝扉の守護者〟トバル・ラガルサの後見職から実家を引き剝がす為に、新たに〝扉の守護者〟となる者の後見先についてはオススメがあるから、エヴェリーナ妃に薦めてみてくれとまで言ってきた。
「アベラルド公爵家なら、キスト辺境伯家とは不仲だし、ラハデ公爵家とは勢力的にもほぼ拮抗している。違いは令嬢が王家に輿入れしたか、しなかったかの違いだけと言っても良いくらいだ。後々問題を引き起こしそうな強欲な縁者を持たず、見るからに御しやすそうな聖女の後見ともなれば、喜んで引き受ける筈だ」
嫡男とは顔見知りらしい。
「かつ、次期公爵となるディエスには、ラハデ公爵家と正面切って事を構える意思はない。充分手は組める。キスト辺境伯家を抑える事が出来て、ラハデ公爵家だけを優遇していると取られない為にもちょうど良いと説けば、陛下も殿下も聖女をアベラルド家に縁付けて王家の一員とする事に折れざるを得ないだろう」
エヴェリーナ妃も賛成する筈だと、キスト室長は言った。
やっぱりアンジェスよりも国の規模が大きいだけあって、各貴族家ごとの力関係が更に面倒なんだなと思った。
と言うかキスト室長、本人の希望が多分に反映されているにせよ、辺境伯家と距離を置いている事が凄くもったいないんじゃないだろうか――辺境伯家の将来にとっては。
「……良いのか、それで。実家の事だろう」
多分エドヴァルドも同じ事を思ったんだろうけど、キスト室長の方は「私は自分が静かに研究に没頭出来る環境を整えたいんですよ。実家の事など二の次です」と良い笑顔で言い切った。
まあ、当人が良いと言うのなら良いんだろう。基本、他国のお家の話だし――と、多分私とエドヴァルドは、同じところで納得したような気がした。
「分かった。その後見の件は、折を見て私の方からエヴェリーナ妃に直接話をしよう。レイナからラハデ公爵経由となると、ラハデ公爵家の方に不穏な意思があると取られかねないだろうからな」
「私も、用なく調合室以外に出入り出来ませんし…と言いますか、エヴェリーナ妃とお会いするとなったら、後で周りから何を言われるか分かったものではありませんから、そこはお願いするしかないのですよ。申し訳ない」
――そう言った形で、いったん王立植物園の「視察」は終了した。
「……次こそは、帰りたいものだな」
去り際にそう、エドヴァルドに耳打ちされた私は、不意を突かれた所為か、周りからは顔が赤らんで見えていたらしい。
結果として、紙面の話に信憑性が更に増したみたいだと、私は後からイザクに聞かされる事になった。
* * *
植物園を定時で上がってベクレル伯爵邸に戻ると、妙にソワソワとした伯爵夫妻のお出迎えを、何故か受ける事になった。
「あ…ああ、すまないね。今日の午後、シーカサーリ商業ギルドが雇う配達人が、レイナ嬢宛に手紙が届いていると言う事で、邸宅を訪ねて来たのだよ。まさか勝手に開ける訳にもいかないだろう?だから帰って来てくれるのを待ちわびていたと言うか……」
ああ、そうか。
伯爵夫妻的には、シャルリーヌからの返信が同封されていないか、気になって仕方がなかったんだ。
「分かりました、じゃあとりあえず先に開封してしまいますね」
商業ギルド製の手紙用の袋の中を覗き込むと、そこにはセルヴァンからのものと、シャルリーヌからの、私と伯爵夫妻それぞれに宛てた手紙とが入れられていた。
私が伯爵夫妻にシャルリーヌからの手紙を手渡すと、それを押し戴くように受け取った伯爵が、何が書かれているか等、詳しくは夕食で…と言って、私室の方へと夫婦で下がって行った。
私も、滞在させて貰っている客間に行き、二通の手紙に目を通す。
セルヴァンの手紙に関しては、概ね変わりなく皆過ごしていると言う事が書かれていた。
ベルセリウス将軍の手を煩わせる程の事件はおきておらず、ミカ君も洋菓子店の店子やボードリエ伯爵邸で学園の話を聞くなど、着々と伝手を広げながら元気に過ごしているらしい。
と同時に、王宮からエドヴァルドの帰国に関する連絡もまだ来ないため、私の安否も含めて皆ヤキモキしているとの事だった。
公爵邸家令としての権限では、王宮がどうなっているのかを知るのは無理だろうから、手紙の内容としてはさもありなん、と言ったところだった。
…むしろ続けて読んだシャルリーヌからの手紙の方が、ツッコミどころ満載で、どうして良いか分からなくなるくらいだった。
舞菜が不在の為、少し魔力を融通して欲しいと国王名で管理部からの依頼があり、シャルリーヌは一度王宮に登城したらしい。
その際、エドヴァルド不在中の宰相職務で、急を要する決裁書類に関しては、フィルバートの手が回らないところでフォルシアン公爵が臨時で補佐をしているらしい事や、そろそろフィルバートも待ち続ける事にキリがないと思い始めているのか、私が進呈したギーレンからの刺客に関して「手首でもギーレン王宮に送って督促しようか」などと素で呟いているらしい。
魔力の融通に来たご令嬢の前で何を言っているんだと言う感じだけれど、多分シャルリーヌはあんまり動じてないんだろうなコレ…と手紙を読みながら私は思った。
(と言うか、厭きてる!陛下ってば、もう〝賭け〟に厭きてる‼包みを開けたら人間の手足がこぼれ落ちたとか……まんま江戸川〇歩の世界の再現じゃない⁉きっとシャーリーも、表情は思い切り痙攣っていた筈だけど……)
ただフィルバート・アンジェスのサイコパスっぷりを事前に知っていれば、少なくとも一般的なご令嬢の様に気絶したりはしない筈だ。
むしろフォルシアン公爵と一緒に、素でツッコミを入れていそうな気がしないでもない。
情報はありがたいが、変に気に入られないといいけど。
そもそも、ギーレンが優位なようで〝賭け〟の行方を左右しそうな情報を意図的に伏せていたあたりで、実はアンジェス優位となっている事は最初から分かっていた。
要はエドベリ王子とベルトルド国王が「どこで諦めるか」と言う事だけの筈なのだが、なかなかに往生際が悪いと言うか、未だ折れないあたりで、フィルバートが馬鹿馬鹿しく思い始めているに違いなかった。
これはもう、是が非でも帰国に向けて動きを早めるより他ない。
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