聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
125 / 785
第一部 宰相家の居候

237 最後のお茶会

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「あれ、レナちゃん?」

 実家にいようと、アンジェスにいようと、ギーレンにいようと、舞菜いもうとの態度と口調は変わらない。

「遠くから来た商人さんが、珍しい物を売りに来たって聞いたけど、レナちゃんの事?」

 机の上に並ぶ銀細工と私の顔を見比べながら、人差し指を口元にあてて、コテンと首を傾げて見せる。

 エヴェリーナ妃とコニー夫人の前でそんな事したって…って、あ、護衛の騎士とか、男性ゼロって訳じゃないのか。

 ――色々ブレない子だわ、こっちも。

「あ、そっかぁ!」

 今度はニコニコと笑って、パンっと両の手のひらを合わせている。

「レナちゃん、聖女ワタシがいないんじゃアンジェスでだもんね、魔力もないし?商人のお仕事、エドさんに紹介して貰ったんだ?うん、レナちゃんアタマ良いから商売とか向いてそうだもんね。さっすが、エドさん!」

 エドさん…?と、扇の向こうでエヴェリーナ妃が目を丸くしている。
 コニー夫人も、さすがに唖然となった表情を隠したいと思ったのか、手元の扇をそっと開いていた。

「もしかしなくても、お仕事にかこつけてエドさんに会いに来たんだよね?でも残念!エドさん今、リリちゃんって言う、こっちの国王サマオススメの美人サンと郊外に旅行らしいよ?エドベリ王子が言ってたもん」

「……リリちゃん?」
「……恐らくは、イルヴァスティ子爵令嬢の名前ですわね。リリアナ・イルヴァスティですから」
「……なるほど。ありがとうございます」

 誰だ、と私の表情かおに出たのを察したエヴェリーナ妃が、さすがに小声でフォローを入れてきてくれた。

「ふふ。宰相室でイチャイチャとキスまでしたのに、魔力も身分もないから結局はエドさんも他の子選んじゃうんだよね?あんまり落ち込まないでね、レナちゃん?あ、じゃあじゃあ、今日は、王妃サマが好きなモノを買って良いって言うから、そんな傷心のレナちゃんの為に、ここは協力してあげる!たくさん買ってあげるね?そうしたら、一人でだってアンジェスに帰りやすいもんね?」

「……っ」

 もはや、どこをツッコむべきなのかが分からない。
 結局のところ、私に対してマウントを取りたくて仕方がないのだ。

 だからエドヴァルドがバシュラールでエドベリ王子の計略にはまって、イルヴァスティ子爵令嬢と既成事実を作らされている方が、舞菜にとっては都合の良い解釈が出来る。

 もう他の可能性などとは、考えるつもりにもなっていない。
 そう言って私がショックを受ければ、それで彼女の虚栄心は満たされる。

 宰相室でキス…?あの子は…っ!と、コニー夫人が顔を背けながら若干お怒りだったり、私とコニー夫人を見比べているっぽいエヴェリーナ妃の視線が妙に生温かいのも、当然舞菜の視界にはない。

「王妃殿下……」

 一応舞菜が加わったので、ここは「エヴェリーナ様」と呼ぶ事は避けた。
 気がつかないとは思うけど、何かの拍子に以前に顔を合わせた事があるように受け取られてしまったら面倒だ。

「あら、わたくしの考えは変わらなくてよ」

 私が呼び方を変えた真意も、ホントにこの利用します――?と言う視線の意味も、察した筈のエヴェリーナ妃の、扇越しの笑顔は崩れなかった。

「終着点が『結婚する』事までなら、若くて可愛ければそれで充分でしょう?」

 どうやらこの前私が口にした「結婚がゴールだと思っている人は結婚で不幸になる法則」の話を気に入ったらしいエヴェリーナ妃は、嫣然と微笑わらっている。

「えぇ?なになに、何の話ですかぁ?」

 都合の良い耳を持っているらしい舞菜は「若くて可愛い」の所に、確実に反応していた。

「うふふ。アナタが来るまでの間、彼女に『アナタをエドベリ殿下のお嫁さんに欲しいわ』って言う話をしていたのよ。だってアナタまだ10代だし、とってもカワイイんですもの」

 …エヴェリーナ妃の「カワイイ」は、多分きっと意味が違う。
 使い捨てしやすいと言う意味にしか、私やコニー夫人には聞こえない。

「ええっ、ホントですかー?王妃サマにそんなこと言って貰えたら、本気にしちゃいそうですー」

「あらぁ、本気も本気よ?それで今、アンジェスのフィルバート陛下を説得して貰えるかも、併せてお願いしていたのよー?」

 まさか舞菜に合わせている訳じゃないと思いたいけど、エヴェリーナ妃が悪ノリ気味に語尾を伸ばしている。

「ええっ、ホントにー⁉︎レナちゃん、ホントー⁉︎」
「……っ」

 舞菜の口調がどうと言うより、エヴェリーナ妃の視線が怖い。

「え、ええそうね。アンジェスにも今、別の〝扉の守護者ゲートキーパー〟候補が現れたから、それよりも平民出身の聖女様と王子様との恋物語の方が、きっとギーレンで大歓迎よ…って、王妃殿下が――ね」

 うっかり舞菜からもエヴェリーナ妃からも視線を逸らしてしまったけど、色々と、その辺りが私も限界です、ええ。

 今のアンジェスでは、もう舞菜一人がチヤホヤされる可能性はないと、シャルリーヌの存在を仄めかしたと、エドヴァルドが言っていたのだ。

 それならば「聖女と王子の恋物語」の方が、確実に舞菜の自尊心と虚栄心をくすぐる。

 みてくれなら、エドベリ王子は〝蘇芳戦記〟屈指の人気美形イケメンキャラなのだから。
 それにサイコパス陛下フィルバートより、遥かにエドベリ王子は外面も良い。

「えっ、じゃあ『アンジェスに帰らずにギーレンで王子サマと結婚します!』って言えば、レナちゃん、それをフィルに伝えてくれるの?」

「…ええ。ここギーレンでは、アンジェスみたいに代理で公務をこなす、私みたいな存在がなくても、ニコニコ笑って殿下の隣にいれば、後は王妃殿下が上手く采配して下さるそうだから。私はギーレンでは必要じゃない。だとすれば、アンジェスに戻るしかないもの。戻って陛下に伝えるくらいの事はするわ」

 ここで、忍耐と表情筋を総動員して、私は微笑わらった。

。アナタのギーレンでの幸せを祈ってるわ」

 舞菜がそう言って、フィルバートやエドヴァルドを納得させて、私を召喚したのなら、私は同じ言葉で、アナタをギーレンに送り出してあげる。

「ホント⁉︎じゃ、王妃サマよろしくお願いしますー」
「ほほほ…喜んで。聖女様、国民が熱狂する様な、素敵な結婚式にしましょうね?」

 結婚式、のところだけ声色が変わっていたのは間違いない。
 聞くまでもなく、私への牽制に違いない。

 もちろん舞菜の方はそんな事に気付く由もなく「わーい楽しみ!」なんて言っているけど。

「あっ、エドベリ王子と全然話してないですけど、これって大丈夫なんですかー?帰らないって、せっかくレナちゃんに伝言して貰っても、最後『やっぱりナシ』じゃ、悲しくなっちゃいますー」

「あら、大丈夫よ。ここに実の母と義理の母がいて、二人とも賛成しているのだもの。これはもう決定事項。コニー様が夕食時に殿下に話して下さるそうよ?」

 エヴェリーナ妃の様に堂々と「芝居」が出来なさげなコニー夫人は、かろうじて扇越しに微笑わらって頷いただけだった。

「じゃあ、ホントにホントなんですね!うん、じゃあレナちゃんに、フィルへの伝言お願いしちゃう!エドさんの事は、旅行から帰って来たら本人に聞いたら良いんじゃないー?もしかしたら、二人結婚して、アンジェスに戻るのかも知れないしー?」

 アレは、ないでしょうね…なんて、エヴェリーナ妃がポツリと呟いた事は、今は無視スルーして良いですか。

「そうそう」

 まさか無視スルーした意趣返しでもないとは思うけど、エヴェリーナはにっこり微笑って片手をあげると、侍女に茶葉入りの瓶を持って来させた。

「コレも今、レイナ嬢とお話しをしていたの。わたくしの故郷で獲れる、ちょっと珍しい紅茶の茶葉。今日の素敵な記念に、ぜひ皆で味わいませんこと?」

 それがエヴェリーナ妃からの「合図」だと、私は否が応にも認識させられた。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。