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第一部 宰相家の居候
249 謹慎出来ない前提?気のせいです
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
果たして『北の館』から戻って来た夜、夕食の後、厨房の皆に〝スヴァレーフ〟づくしの御礼に声をかけてから二階の寝室に向かえば、何故か〝続き扉〟は板張りで厳重に塞がれていた。
少なくとも今夜は…とセルヴァンが言っていた事との矛盾をひしひしと感じながら扉を眺めていると、寝支度をしに来てくれたヨンナが、それはそれは良い笑顔で微笑んだ。
「どうぞ今夜は、ごゆっくりおやすみ下さいませ」
「…あ、ハイ」
ごゆっくり、の音節が強調されていて、私としては「うん」とか「分かった」とかじゃなく「ハイ」としか言い様がなかった。
ちなみにこの時間には、声はほぼ元に戻っていた。
大きい声を出そうとすれば引っかかりを覚えるけど、多分そんな機会はないだろうから、もう、普段通りと言う事で良いと思う。
足腰も、歩く事自体に支障はなくなった。
ただ何となく違和感は残っているけれど…どこがどうとか、具体的なコトを口にしたくなかったので、諦めて気にしない事にした。
多分、ヨンナやセルヴァンは察しているだろうな…とは思ったけど。
「レイナ様。旦那様は、明日は王宮へ向かわれるそうですが、レイナ様はいかがなさいますか?旦那様としては、邸宅でゆっくりしていただきたいのだろうとは思いますが」
そう言えば、キスト室長ではないけれど、ギーレンでは「休みの日に休んでいない」日がずっと続いていたかも知れない。
いかに「合法的に」エドヴァルドを帰国させるか、でいっぱいいっぱいだったしなぁ…と、思わず遠い目になる。
「あー…うん、エドヴァルド様に、ボードリエ伯爵令嬢への外出のお誘い状を書いて欲しいと言われていたから、それは書かないと、なのかな……」
「旦那様から…ですか?」
「明日王宮でフォルシアン公爵と陛下を交えて会うらしくて、そこで日時をもう決めてしまうみたいだから、形式上の問題として、日時を指定しない書状を出しておいて欲しいって。私と彼女とミカ君はもともとお茶の約束をしていたから。たまたまその近くにエドヴァルド様が用事があるとかで。どうせなら日を合わせれば、行き帰り送迎出来るだろうって」
「なるほど。同じ方向なら一緒に行ってしまえと、そう言う事ですか」
「そうみたい。ミカ君は〝チェカル〟貸切を『南の館』に伝える時に、こっちの話もエドヴァルド様が一緒に伝えておくって」
納得したようにヨンナが頷いて「他にはございますか?」と聞いて来るので、私は「うーん…?」と天井を見上げた。
「あ、どこか通常業務の空いた時間でラウラ借りたいかも」
「ラウラ…でございますか?」
私は、せっかくだからラウラ本人にも見せてあげようと、一部持って帰って来ていた〝フリーペーパー〟を、鞄の中から取り出して、ヨンナにも見せた。
「ほら、出発前にラウラに「書いて!」って言っていた話。それの短縮紹介版をギーレンで刷って貰ったんだけどね?これがもう大・大・大好評で!正式な全文書籍化の話が出ているのよね」
「まあ……」
「何と王のご正妃サマからの続編のリクエストまで承っちゃって。さすがにそれって無視出来ないでしょう?だからラウラ本人に執筆お願いしようと思って。あ、もちろん本が売れて儲けが出たら、ちゃんとラウラ本人にも還元するつもり」
意外な特技ですわねぇ…と紙面を見ながら感心した様に呟くヨンナに、私も大きく頷いた。
…あれ、ヨンナ普通にギーレン語の紙面読んでる?
今更気付きはしたものの、もう〝鷹の眼〟に限らずイデオン公爵邸は何でもありなのかと、潔く諦める事にした。
「シーベリーの飾りつけ作った時とかもそうだったけど、探せばこの邸宅の皆、自分の仕事以外にも面白い特技とかあるかも知れないよね」
そこまではニコニコとこちらの話を聞いてくれていた筈のヨンナが、私が指を折りながら「後は、ギーレンでやり残してきた料理の手順書を書き上げる事と、どこかで王都商業ギルドに一度顔を出さないと――」と口にしたところで、ピシリと笑顔が固まっていた。
「レイナ様……そこはちょっと旦那様のご許可が必要かと……」
「……あ、やっぱり」
「少なくとも明日は無理だろうと推察しますが」
「―――」
…うん、さすが公爵邸勤め二十年以上。
旦那様の性格をちゃんと把握していらっしゃる様です。
「えー…じゃあ、残った時間は料理の手順書を書き上げる事に充てたいと思いマス、ハイ。言えば厨房でも試作してくれるかな?」
「そうですね。材料が揃っていれば大丈夫なのではないかと」
確か公爵邸の書庫には国内向けの植物図鑑の様な資料があった筈だから、それを見て、薬草なり野菜なりのアタリをつけていくのも必要かも知れない。
これは案外明日は時間が潰れそうだな…と思いながら、この日は本当に、ヨンナに見守られて眠る事になった。
* * *
「レイナ……体調は……」
翌朝。
聞きづらいが聞かずにもいられない、そんな微妙な表情で、朝食の席につくなりエドヴァルドが話しかけてきた。
「えーっと……一人で邸宅内をウロウロ出来る程度には大丈夫かな、と……」
「……そうか」
さすがに1日あったので、色々と回復してはいるのだけれど。
話を振られると、あれこれ思い出して赤面モノの事態に陥ってしまうので、出来れば何も聞かずにいておいて欲しいと切実に思う。
正直まだ、戸惑いの方が大きいのだ。
…決してイヤだったとか、そう言う事ではないのだけれど。
――入口にすら立っていなかった筈の「オトナの階段」を、まさかこんな形で飛び越えようとは。
「あ、あの…ですね」
私はぶんぶんと首を横に振ってから、早々に本題に、話を切り替える事にした。
ギーレンにばら撒く予定の書籍の件で、どこかのタイミングで王都商業ギルドに顔を出す必要がある――。
そう言ってチラリとエドヴァルドの顔色を伺ってみれば、物凄く嫌そうではあったけれど、必要性がある事は分かっていたのだろう。
渋々と言った態で頷いていた。
「なら〝ヘンリエッタ〟の帰りに寄っておこう。私に聞かれて困る話はない筈だな?」
「……ない、です」
シーカサーリ商業ギルド長は実はおネェです――とかは、ちょっとビックリするくらいできっと大丈夫だろう。
多分。
「あの、しばらくは〝ユングベリ商会〟案件に集中しようかと思っているんです。本の話とか、料理の手順書の話とか、エヴェリーナ妃のご実家領地との〝イラ〟の茶葉取引の話とか、あと銀細工職人の留学の話とか……?」
一つずつ指を折っていたところが、途中から段々とエドヴァルドの表情が曇っていく。
「エドヴァルド様?」
「……改めて聞けば、手の広げっぷりが酷いな」
「え、凄いじゃなくてヒドイですか⁉」
「いや、まあ、私の帰国を国際問題にしない為と言うのはよく分かっているんだが」
「力技で帰国させられない以上、仕込みは必須です」
ポンポンと投げ返せば、最後にはため息だけがこちらに返ってきた。
「まさかそれで私の『謹慎期間』を潰すつもりじゃないだろうな」
「えーっと……出来るんですか、謹慎?」
そもそもの疑問を問いかけてみれば、エドヴァルドの顔から表情が抜け落ちた。
「……それをこの後、フォルシアン公爵と話し合ってくる」
「……なるほどです」
きっと一ヶ月とかは無理だろうな――なんて思ったけれど、我が身可愛さに言わない事にした。
果たして『北の館』から戻って来た夜、夕食の後、厨房の皆に〝スヴァレーフ〟づくしの御礼に声をかけてから二階の寝室に向かえば、何故か〝続き扉〟は板張りで厳重に塞がれていた。
少なくとも今夜は…とセルヴァンが言っていた事との矛盾をひしひしと感じながら扉を眺めていると、寝支度をしに来てくれたヨンナが、それはそれは良い笑顔で微笑んだ。
「どうぞ今夜は、ごゆっくりおやすみ下さいませ」
「…あ、ハイ」
ごゆっくり、の音節が強調されていて、私としては「うん」とか「分かった」とかじゃなく「ハイ」としか言い様がなかった。
ちなみにこの時間には、声はほぼ元に戻っていた。
大きい声を出そうとすれば引っかかりを覚えるけど、多分そんな機会はないだろうから、もう、普段通りと言う事で良いと思う。
足腰も、歩く事自体に支障はなくなった。
ただ何となく違和感は残っているけれど…どこがどうとか、具体的なコトを口にしたくなかったので、諦めて気にしない事にした。
多分、ヨンナやセルヴァンは察しているだろうな…とは思ったけど。
「レイナ様。旦那様は、明日は王宮へ向かわれるそうですが、レイナ様はいかがなさいますか?旦那様としては、邸宅でゆっくりしていただきたいのだろうとは思いますが」
そう言えば、キスト室長ではないけれど、ギーレンでは「休みの日に休んでいない」日がずっと続いていたかも知れない。
いかに「合法的に」エドヴァルドを帰国させるか、でいっぱいいっぱいだったしなぁ…と、思わず遠い目になる。
「あー…うん、エドヴァルド様に、ボードリエ伯爵令嬢への外出のお誘い状を書いて欲しいと言われていたから、それは書かないと、なのかな……」
「旦那様から…ですか?」
「明日王宮でフォルシアン公爵と陛下を交えて会うらしくて、そこで日時をもう決めてしまうみたいだから、形式上の問題として、日時を指定しない書状を出しておいて欲しいって。私と彼女とミカ君はもともとお茶の約束をしていたから。たまたまその近くにエドヴァルド様が用事があるとかで。どうせなら日を合わせれば、行き帰り送迎出来るだろうって」
「なるほど。同じ方向なら一緒に行ってしまえと、そう言う事ですか」
「そうみたい。ミカ君は〝チェカル〟貸切を『南の館』に伝える時に、こっちの話もエドヴァルド様が一緒に伝えておくって」
納得したようにヨンナが頷いて「他にはございますか?」と聞いて来るので、私は「うーん…?」と天井を見上げた。
「あ、どこか通常業務の空いた時間でラウラ借りたいかも」
「ラウラ…でございますか?」
私は、せっかくだからラウラ本人にも見せてあげようと、一部持って帰って来ていた〝フリーペーパー〟を、鞄の中から取り出して、ヨンナにも見せた。
「ほら、出発前にラウラに「書いて!」って言っていた話。それの短縮紹介版をギーレンで刷って貰ったんだけどね?これがもう大・大・大好評で!正式な全文書籍化の話が出ているのよね」
「まあ……」
「何と王のご正妃サマからの続編のリクエストまで承っちゃって。さすがにそれって無視出来ないでしょう?だからラウラ本人に執筆お願いしようと思って。あ、もちろん本が売れて儲けが出たら、ちゃんとラウラ本人にも還元するつもり」
意外な特技ですわねぇ…と紙面を見ながら感心した様に呟くヨンナに、私も大きく頷いた。
…あれ、ヨンナ普通にギーレン語の紙面読んでる?
今更気付きはしたものの、もう〝鷹の眼〟に限らずイデオン公爵邸は何でもありなのかと、潔く諦める事にした。
「シーベリーの飾りつけ作った時とかもそうだったけど、探せばこの邸宅の皆、自分の仕事以外にも面白い特技とかあるかも知れないよね」
そこまではニコニコとこちらの話を聞いてくれていた筈のヨンナが、私が指を折りながら「後は、ギーレンでやり残してきた料理の手順書を書き上げる事と、どこかで王都商業ギルドに一度顔を出さないと――」と口にしたところで、ピシリと笑顔が固まっていた。
「レイナ様……そこはちょっと旦那様のご許可が必要かと……」
「……あ、やっぱり」
「少なくとも明日は無理だろうと推察しますが」
「―――」
…うん、さすが公爵邸勤め二十年以上。
旦那様の性格をちゃんと把握していらっしゃる様です。
「えー…じゃあ、残った時間は料理の手順書を書き上げる事に充てたいと思いマス、ハイ。言えば厨房でも試作してくれるかな?」
「そうですね。材料が揃っていれば大丈夫なのではないかと」
確か公爵邸の書庫には国内向けの植物図鑑の様な資料があった筈だから、それを見て、薬草なり野菜なりのアタリをつけていくのも必要かも知れない。
これは案外明日は時間が潰れそうだな…と思いながら、この日は本当に、ヨンナに見守られて眠る事になった。
* * *
「レイナ……体調は……」
翌朝。
聞きづらいが聞かずにもいられない、そんな微妙な表情で、朝食の席につくなりエドヴァルドが話しかけてきた。
「えーっと……一人で邸宅内をウロウロ出来る程度には大丈夫かな、と……」
「……そうか」
さすがに1日あったので、色々と回復してはいるのだけれど。
話を振られると、あれこれ思い出して赤面モノの事態に陥ってしまうので、出来れば何も聞かずにいておいて欲しいと切実に思う。
正直まだ、戸惑いの方が大きいのだ。
…決してイヤだったとか、そう言う事ではないのだけれど。
――入口にすら立っていなかった筈の「オトナの階段」を、まさかこんな形で飛び越えようとは。
「あ、あの…ですね」
私はぶんぶんと首を横に振ってから、早々に本題に、話を切り替える事にした。
ギーレンにばら撒く予定の書籍の件で、どこかのタイミングで王都商業ギルドに顔を出す必要がある――。
そう言ってチラリとエドヴァルドの顔色を伺ってみれば、物凄く嫌そうではあったけれど、必要性がある事は分かっていたのだろう。
渋々と言った態で頷いていた。
「なら〝ヘンリエッタ〟の帰りに寄っておこう。私に聞かれて困る話はない筈だな?」
「……ない、です」
シーカサーリ商業ギルド長は実はおネェです――とかは、ちょっとビックリするくらいできっと大丈夫だろう。
多分。
「あの、しばらくは〝ユングベリ商会〟案件に集中しようかと思っているんです。本の話とか、料理の手順書の話とか、エヴェリーナ妃のご実家領地との〝イラ〟の茶葉取引の話とか、あと銀細工職人の留学の話とか……?」
一つずつ指を折っていたところが、途中から段々とエドヴァルドの表情が曇っていく。
「エドヴァルド様?」
「……改めて聞けば、手の広げっぷりが酷いな」
「え、凄いじゃなくてヒドイですか⁉」
「いや、まあ、私の帰国を国際問題にしない為と言うのはよく分かっているんだが」
「力技で帰国させられない以上、仕込みは必須です」
ポンポンと投げ返せば、最後にはため息だけがこちらに返ってきた。
「まさかそれで私の『謹慎期間』を潰すつもりじゃないだろうな」
「えーっと……出来るんですか、謹慎?」
そもそもの疑問を問いかけてみれば、エドヴァルドの顔から表情が抜け落ちた。
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