聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

283 五公爵会議+α(2)

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「レイナ。詳しくは帰ってから話したいが、明日のボードリエ伯爵令嬢と、ミカとの食事会、参加者を増やす事になるだろう。二人への連絡を頼んで良いか?」

 閣議の間ミズガルズに向かう途中、周囲には聞こえないよう配慮された小声で、エドヴァルドがそんな事を話してきた。

「参加者を増やす……ですか?えーっと、でも明日は『てんぷらパーティー』ですよ?そのうえ〝スヴァレーフ〟の素揚げポテチもおやつに付けようかとか、庶民食もいいところですけど……?」

「貴女の国では庶民食なのかも知れないが、そもそもアンジェスでは誰も見た事がない料理だ。誰を招こうと、充分に提供出来る料理だと私は思っている。もちろん、味も含めてだ」

 私も頑張って、あまり声を出さないように気を付けた結果、周囲からは睦言を語らっているようにしか見えなかったらしく、後日エドヴァルドがフォルシアン公爵から揶揄された事は、私はついぞ知らないままだった。

「さっきの話の中で出ていた『根回し』の件、明日のパーティーを隠れ蓑に使わせて欲しいんだ。不自然な理由をつけて会う必要もなくなるからな」

「隠れ蓑……と言う事は、他の公爵がたを皆さんお招きするんですか⁉」

 うっかり出かけた大きな声を、私は慌てて抑える。

 いやいや、尚更天ぷらにポテチはおかしいですって!

 慌てる私に、エドヴァルドは繋いでいない方の手をすっと上げて、私の言葉を遮った。

「もちろんクヴィスト家は外す。コンティオラ公爵は既に〝スヴァレーフ〟の事があるから、てんぷらが初見でも情報は秘匿してくれるだろうし、フォルシアン公爵も共同開発中の案件がある以上、コンティオラ公爵に倣ってくれるだろう。スヴェンテ老公は、読めないと言えば読めないが……多分ミカがいれば、ストッパーになってくれるとは思っているんだ」

「ミカ君……ですか?」

「恐らくスヴェンテ老公は、の話を聞きたがるだろうからな」

 場を考えて、エドヴァルドは固有名詞を避けていたけれど、私もすぐに、それが誰を指すのかに思い至った。

「あ……」

 ――カミル・チャペック。

 政変に敗れて、先代当主共々処刑された事になっている、スヴェンテ公爵家直系長男の、現在いまの姿。
 先々代スヴェンテ公爵からすれば、実の孫にあたる筈だ。

「今のところ、ミカには何も話すつもりはないが、そのあたりはスヴェンテ老公と上手く話を合わせれば済む事だ。貴女はボードリエ伯爵令嬢との食事を普通に楽しんでくれていれば良い。何か聞かれた時にだけ、答えを返してくれれば、それで構わない。その時には私も傍にいるようにするから」

「えーっと……」

 これは困った。

 いい大人を何人も呼んで、天ぷらとポテチだけとか、見た目もそうだけど、確実に量が足りない。
 しかも午前中は、ミカ君とシャルリーヌと、キノコ狩りして材料確保するつもりだった。

「レイナ?」

「エドヴァルド様、さすがに公爵邸の皆と山盛りの天ぷらを取り分けていたのと、同じようにする訳にはいかないと思います。あと確実に量も足りません。だってランチ分を三人でその場で確保する予定だったんですから」

 私の言葉に、歩きながらエドヴァルドは「ふむ…」と、一瞬考える仕種を見せる。

「厨房に、料理と材料を追加で仕入れる連絡はするとして、後は何を追加するかか……。レイナ、シーカサーリの植物園食堂で出した料理の中で、その『てんぷら』に合う物はないか?どれも皆、材料として珍しい使い方をしているから、話題にはなると思うが」

「そうですね……」

 そもそもが、お米と醤油とみりん、そばの実なんかが見当たらない以上、天丼にも出来ないし、ざるそばやざるうどんも、中力粉やらめんつゆに困って提供出来ない。

 塩を振って、お酒のおつまみにするしか思い浮かばないのだ。
 だからこそのポテチがセットになるんだけれども。

 と言うか、どうやら招待自体は確定らしい。

「……本当に、何をお出ししても構いませんか?」

 そうなるともう朝から、ラズディル料理長をまたまた巻き込んで、色々試してみるより他はない。

「まだ他に、貴女の国の料理が?」

「そうですね。材料さえ揃えば、レシピはまだまだ。もっとも、私は本職の料理人でも何でもなかったので、食べた物を伝えて、後は料理長に助けて貰う事しか出来ないんですけど」

「すまないが、任せても良いか?会議前に簡単な招待の話だけ、フォルシアン公、コンティオラ公、スヴェンテ老公の三人に話を通して、公爵邸に先に使者を出して、準備を頼むつもりだ。必要な材料があるなら、その使者に追加で伝えてくれるか」

「分かりました。ああ、そうしたらフォルシアン公爵には溶かし用のチョコを少し売って下さいとお願いして頂けますか?コンティオラ公爵交えて〝スヴァレーフ〟の素揚げとの共同開発商品の提案があります、と。それはそれで、集まって頂ける理由になりますよね?」

「……そうだな」

「エドヴァルド様?」

 答えるまでに間があったので、一瞬、何かまずかったのかと、隣を歩くエドヴァルドを見上げてみたところが、エドヴァルドは柔らかい笑みと共に、首を横に振った。

「いや…無茶を言った自覚があるだけに、すぐに案を返してくれた事に驚いただけだ。気軽とは言い難くなってしまって、すまない。ミカもボードリエ伯爵令嬢も驚くだろうな」

「はは…そうですね。ミカ君はきっと、顔つなぎの為って言えば、分かってくれるでしょうけど、シャルリーヌ嬢は、また別の機会を作れって言われるかも知れませんね」

「どのみち、サレステーデとベルィフの家庭教師の件もあるから、それは引き受けざるを得ないだろうな」

 最近の私との交流で、多少なりとシャルリーヌの性格も分かってきたんだろう。
 あながち冗談に聞こえない、と苦笑まじりに首を振ってから、エドヴァルドは繋いでいた手を解いて、斜め前方にいた騎士に、部屋に入ると言う合図の意味で、鷹揚に頷いてみせた。

「失礼致します。イデオン公爵閣下と、ご婚約者様がお越しになられました」

「⁉︎」

 ちょっと、この騎士さん、何言ってくれちゃってるんですか⁉︎

 思いきり目を瞠る私に「まあ、謁見の間でバカ王子に宣言したからな」と、エドヴァルドは悪びれも照れもせず、微笑わらっている。

 今更こんなところで苦情アレコレを言える筈もない。
 解いた方の腕を、今度はエスコート用に軽く曲げているので、私は色々と呑み込んで…と言うか諦めて、そこに手を添えた。

 ――開いた扉の向こう側には、見覚えのある男性が二人と、ない男性が二人。

 円卓を五つの椅子が囲んでいるものの、誰も腰を下ろしていないところを見ると、参加者が五人を超えるであろうこの状況に、どこに腰を下ろすべきか迷っていたのかも知れない。

 と言っても、別途高砂席よろしく整えられた席は明らかに国王陛下用の席で、隅に置かれた、座ったらスプリングで沈みそうなソファは、多分私の為の席だ。

 困っているのは、クヴィスト公爵の息子さんだけだろうと思えたけれど、一応皆、国王陛下が来るまではと思ったのかも知れない。

「レイナ嬢……!」

 そんな中で、目ざとく私を視界に認めたフォルシアン公爵が、こちらへと駆け寄って来てくれた。
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