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第二部 宰相閣下の謹慎事情
334 墓穴は自ら掘るものです⁉︎
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
「ふむ…これはやはり、バリエンダールのミラン王太子が最も情報を持っていそうだと言う話に、俄然信憑性が増したと見える」
サレステーデの情報弱者っぷりを目の当たりにしたせいもあるだろうけど、この部屋で、それまで黙って一連のやり取りを見ていたアンディション侯が、顎のあたりに手をやりながら、そう呟いた。
「どうやらアンディション侯爵領は、まだまだ終の住処たり得ぬか――テオドル大公。伝手もまだ錆びていないようだしな」
そして、国王陛下が「テオドル大公」と呼んだ事で、当面の復帰が事実上認められた形になった。
「いつ、誰に引き継ごうかと悩んでおったのですがな、陛下。どうやら良い後継者が出来そうですので、せいぜい今回仕込んで参りますよ」
うん?今、こっち見ました?
陛下は面白そうに、微笑ってるけど。
「なるほど、いつになく書記官に拘ると思ったら――そう言う事か」
「今回の件も含めて、何せ目のつけどころが良いと言うか、動きと判断が早い。我が国の様に、大国の動向を常に気にかけておかねばならん中にあっては、外交面でうってつけの人材になり得るでしょうな。サレステーデに掠め取られるなどと、とんでもない」
アンディション侯爵、もといテオドル大公は、呵呵と笑った。
「宰相は、婚約だけで良しとするかも知れんが、儂も儂で、アンディション侯爵領から叛旗を翻さんと企んでいる、などと思われん為の保険は必要でな。レイナ嬢を同行させれば、誰もが後ろに宰相の姿を見る。儂を担ぎ出そうなどと、馬鹿な事を考える輩もいなくなるであろうよ」
「!」
エドヴァルドが、目を瞠っただけで反論をしないのは、一理あると思ってしまったからだろう。
たとえ一時的にせよ、表舞台へ復帰をする時点で、要らぬ憶測はどうしたって流れるだろうからだ。
「それにレイナ嬢とて、商会の会頭となる事に加えて、儂との繋がりが公に周囲に知れ渡るのだ。悪い話ではないと思うがな」
アンディション侯爵のままであれば、ただ自領で可愛がられていると受け取られるところが「大公の覚えがめでたい」となると、自領以外の周囲からの評価とてまた変わるだろう。
「レイナ嬢も、王宮内での実績の一つや二つ、あったとて良かろう。これからアンジェスの新たな聖女となるシャルリーヌ嬢とも、対等は言い過ぎかも知れんが、それに近い関係ではいられようて」
それは…と唸るエドヴァルドの歯切れは悪いけれど、私としては、テオドル大公の話は充分に検討の余地があると思ってしまった。
「ああ、もちろん普段の外交がコンティオラ公爵の裁量下にある事は分かっておるよ。ただ今回だけはな、儂とレイナ嬢とシャルリーヌ嬢が、恐らくバリエンダール王宮の情報に最も精通しておるのでな。ただシャルリーヌ嬢は、聖女交代の事を考えると、今回は同行させられん。故の、儂とレイナ嬢のバリエンダール行きと理解して貰えるか?」
「―――」
その途端、五公爵家のテーブルの視線全てが、一斉にこちらを向いた。
…多分エドヴァルドの視線だけは、今にもため息が出そうな、一人意味の違う視線になってたと思うけど。
あれはもう、この場で何かを言う事を諦めた感じだ。
ちょっと、公爵邸に帰るのが怖いかも知れない…。
「その…大公殿下がバリエンダールと太いパイプをお持ちなのは、以前から存じておりますが……」
さすがにちょっと懐疑的なコンティオラ公爵だけど、何故か大公サマの表情が自信満々、下手したらドヤ顔じゃないかと言うくらいに微笑っておられた。
「どう言う情報かは言わぬがな。希少な情報が本人の強みになるのは、外交でも公安でも言える事だ。ただ確実に、外交部の資料にはないだろう話を幾つも知っているとだけは言うておくわ」
どんな情報通とか思われそうなんだけど……何と言うか……。
『何て言うか、元ネタが乙女ゲームだと思うと、そんなに威張れないわよね……』
場の空気を読んで、十中八九日本語で、シャルリーヌが私の心境をも過不足なく表現してくれた。
『居た堪れないわ…って言うか、うっかり〝蘇芳戦記〟との齟齬を確かめておこうとして、自分で首絞めたわ……』
『ああ…ちょっと宰相閣下の表情、痙攣ってるものね……』
そして、小声にしろ日本語の会話で、更に二人して首を絞めている事を、この時は私もシャルリーヌも、心の底からは理解出来ていなかった。
この時は、なるほど…と、コンティオラ公爵がそこで妙に納得していたのだけは、理解が出来ていた。
「分かりました。ではそこも含め置いた上で、同行者を選出しましょう。いくら手紙を運ぶのが主な目的と言えど、さすがに二人と護衛と言うのもいただけない。外交部の沽券にも関わる」
「まあ、そうだな。だが話に口を出さず、その場限りですぐに忘れる者にするのが条件ぞ。今回、事態が事態でもあるし、縄張り意識を持たれでもしたら、まとまる話もまとまらぬわ」
要は向こうでは置物になっていろ、と言う事だ。
確かにミラン王太子が、サレステーデ王家の血筋に関して、何をどこまで知っているのかと言う事を探りながら、サレステーデ側の100%有責で、自治領に落としたい旨仄めかせつつ、その条約をギーレンに悟られる前に締結する事と、締結にあたってはミラン王太子なりメダルド国王なりに、アンジェスまで来て貰う事とを両立させなくてはならないのだ。
下手にこれを自分の功績にしようなどと、あれこれ勝手に動き出されたりすれば、目も当てられない。
その辺り、気付いて釘を刺してくる辺りは、さすがは元王族と言えよう。
「……承知致しました、善処します」
コンティオラ公爵も、頭を下げるしかないだろうな…とは思った。
「えーっと…私はもう、大公殿下に付き従う前提なんですね?」
念の為、私がおずおずと国王陛下に最終確認をすれば「今頃何を言っている」と、もの凄く、エドヴァルドばりに冷ややかな声をぶつけられた。
「アレコレ許可してやっただろう。対価に合うだけ働いてこい。コンティオラ公も、バリエンダール王家への第一報をすぐに出せ。内容を考えれば、明日とか悠長な事を言わないほうが良かろうよ。こちらの信用問題にも関わってくるからな」
テオドル大公に忖度したとはとても思えなかったけど、至極、と言うか、ものスゴく真っ当な事を、この時のフィルバートは口にしていた。
「ふむ…これはやはり、バリエンダールのミラン王太子が最も情報を持っていそうだと言う話に、俄然信憑性が増したと見える」
サレステーデの情報弱者っぷりを目の当たりにしたせいもあるだろうけど、この部屋で、それまで黙って一連のやり取りを見ていたアンディション侯が、顎のあたりに手をやりながら、そう呟いた。
「どうやらアンディション侯爵領は、まだまだ終の住処たり得ぬか――テオドル大公。伝手もまだ錆びていないようだしな」
そして、国王陛下が「テオドル大公」と呼んだ事で、当面の復帰が事実上認められた形になった。
「いつ、誰に引き継ごうかと悩んでおったのですがな、陛下。どうやら良い後継者が出来そうですので、せいぜい今回仕込んで参りますよ」
うん?今、こっち見ました?
陛下は面白そうに、微笑ってるけど。
「なるほど、いつになく書記官に拘ると思ったら――そう言う事か」
「今回の件も含めて、何せ目のつけどころが良いと言うか、動きと判断が早い。我が国の様に、大国の動向を常に気にかけておかねばならん中にあっては、外交面でうってつけの人材になり得るでしょうな。サレステーデに掠め取られるなどと、とんでもない」
アンディション侯爵、もといテオドル大公は、呵呵と笑った。
「宰相は、婚約だけで良しとするかも知れんが、儂も儂で、アンディション侯爵領から叛旗を翻さんと企んでいる、などと思われん為の保険は必要でな。レイナ嬢を同行させれば、誰もが後ろに宰相の姿を見る。儂を担ぎ出そうなどと、馬鹿な事を考える輩もいなくなるであろうよ」
「!」
エドヴァルドが、目を瞠っただけで反論をしないのは、一理あると思ってしまったからだろう。
たとえ一時的にせよ、表舞台へ復帰をする時点で、要らぬ憶測はどうしたって流れるだろうからだ。
「それにレイナ嬢とて、商会の会頭となる事に加えて、儂との繋がりが公に周囲に知れ渡るのだ。悪い話ではないと思うがな」
アンディション侯爵のままであれば、ただ自領で可愛がられていると受け取られるところが「大公の覚えがめでたい」となると、自領以外の周囲からの評価とてまた変わるだろう。
「レイナ嬢も、王宮内での実績の一つや二つ、あったとて良かろう。これからアンジェスの新たな聖女となるシャルリーヌ嬢とも、対等は言い過ぎかも知れんが、それに近い関係ではいられようて」
それは…と唸るエドヴァルドの歯切れは悪いけれど、私としては、テオドル大公の話は充分に検討の余地があると思ってしまった。
「ああ、もちろん普段の外交がコンティオラ公爵の裁量下にある事は分かっておるよ。ただ今回だけはな、儂とレイナ嬢とシャルリーヌ嬢が、恐らくバリエンダール王宮の情報に最も精通しておるのでな。ただシャルリーヌ嬢は、聖女交代の事を考えると、今回は同行させられん。故の、儂とレイナ嬢のバリエンダール行きと理解して貰えるか?」
「―――」
その途端、五公爵家のテーブルの視線全てが、一斉にこちらを向いた。
…多分エドヴァルドの視線だけは、今にもため息が出そうな、一人意味の違う視線になってたと思うけど。
あれはもう、この場で何かを言う事を諦めた感じだ。
ちょっと、公爵邸に帰るのが怖いかも知れない…。
「その…大公殿下がバリエンダールと太いパイプをお持ちなのは、以前から存じておりますが……」
さすがにちょっと懐疑的なコンティオラ公爵だけど、何故か大公サマの表情が自信満々、下手したらドヤ顔じゃないかと言うくらいに微笑っておられた。
「どう言う情報かは言わぬがな。希少な情報が本人の強みになるのは、外交でも公安でも言える事だ。ただ確実に、外交部の資料にはないだろう話を幾つも知っているとだけは言うておくわ」
どんな情報通とか思われそうなんだけど……何と言うか……。
『何て言うか、元ネタが乙女ゲームだと思うと、そんなに威張れないわよね……』
場の空気を読んで、十中八九日本語で、シャルリーヌが私の心境をも過不足なく表現してくれた。
『居た堪れないわ…って言うか、うっかり〝蘇芳戦記〟との齟齬を確かめておこうとして、自分で首絞めたわ……』
『ああ…ちょっと宰相閣下の表情、痙攣ってるものね……』
そして、小声にしろ日本語の会話で、更に二人して首を絞めている事を、この時は私もシャルリーヌも、心の底からは理解出来ていなかった。
この時は、なるほど…と、コンティオラ公爵がそこで妙に納得していたのだけは、理解が出来ていた。
「分かりました。ではそこも含め置いた上で、同行者を選出しましょう。いくら手紙を運ぶのが主な目的と言えど、さすがに二人と護衛と言うのもいただけない。外交部の沽券にも関わる」
「まあ、そうだな。だが話に口を出さず、その場限りですぐに忘れる者にするのが条件ぞ。今回、事態が事態でもあるし、縄張り意識を持たれでもしたら、まとまる話もまとまらぬわ」
要は向こうでは置物になっていろ、と言う事だ。
確かにミラン王太子が、サレステーデ王家の血筋に関して、何をどこまで知っているのかと言う事を探りながら、サレステーデ側の100%有責で、自治領に落としたい旨仄めかせつつ、その条約をギーレンに悟られる前に締結する事と、締結にあたってはミラン王太子なりメダルド国王なりに、アンジェスまで来て貰う事とを両立させなくてはならないのだ。
下手にこれを自分の功績にしようなどと、あれこれ勝手に動き出されたりすれば、目も当てられない。
その辺り、気付いて釘を刺してくる辺りは、さすがは元王族と言えよう。
「……承知致しました、善処します」
コンティオラ公爵も、頭を下げるしかないだろうな…とは思った。
「えーっと…私はもう、大公殿下に付き従う前提なんですね?」
念の為、私がおずおずと国王陛下に最終確認をすれば「今頃何を言っている」と、もの凄く、エドヴァルドばりに冷ややかな声をぶつけられた。
「アレコレ許可してやっただろう。対価に合うだけ働いてこい。コンティオラ公も、バリエンダール王家への第一報をすぐに出せ。内容を考えれば、明日とか悠長な事を言わないほうが良かろうよ。こちらの信用問題にも関わってくるからな」
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