聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
245 / 785
第二部 宰相閣下の謹慎事情

335 シーグリックは「回収」されました

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 結局「閣議の間ミズガルズ」に用意しなおされた軽食も、私は口にする事が出来なかった。

 私とエドヴァルドが何か食べようとか言う以前に、話し合いがほぼ済んでいた所為せいもあって、結局今日の王宮料理らしきものはカケラも味わえなかったのだ。

 私とエドヴァルドがあの部屋に行った時点では、既に「夕食会におけるサレステーデからの刺客の乱入と、その際の攻防戦によるクヴィスト公爵の死」と言う茶番を押し通す事が決定していた状況で「サレステーデからの刺客に関しては、クヴィスト公爵を通して見合いの話が持ち込まれた際に紛れ込んでいた」とも、おおやけには知らされる事になったらしい。

 クヴィスト家としても、たとえ色々と不可解な部分があったとしても、お家断絶や降格の憂き目に遭うより、クヴィスト公爵の死だけで話が済むのなら――と、長男始め、一族の有力者はこぞって口を噤む事にしたんだそうだ。

 今からでも見合いが上手くいきそうなら、クヴィスト家がそこまで風下に立って耐える必要は…などと言った父親世代の長老方へは、嫡男で後継となるシェヴェス・クヴィストが「イデオン家、フォルシアン家共闘で一族ごと破滅させられる気しかしない」と、話を一顧だにしなかったと、そこは後から聞かされた。

 天井から落下した氷柱を見て、自分の判断がいかに正しかったのか、納得したとかしなかったとか。

 そして後は〝転移扉〟を使って、用件の概略と、使者が訪ねる許可を請う事を書き記した手紙を送って、バリエンダールの出方を見る――所まで話がまとまっていたと言うのだから、ビックリだ。

 どう考えてもアンディション侯爵、もといテオドル大公殿下の采配であり、私も「引退したお爺ちゃん」くらいの感覚で、ペラペラ話していた自分の頭を自分ではたきたくなってしまった。

 何で引退しちゃってたのか、真面目に疑問に思ったと言うシャルリーヌの言葉にも、その時心から賛同したくらいだ。

 またね、と口をパクパクとさせながらシャルリーヌは、テオドル大公殿下のエスコートでこの場を後にしていった。

 私を見ていて思うところがあったのか「大公位に戻られるとなると畏れ多い」と、シャルリーヌは一歩引いた姿勢を見せようとしていたにも関わらず、結局拒否をしそこねていた。

 しばらくの間「レイナどころか、私も何かやらかしてる気がする…」と、テオドル大公と遭遇する度に呟く事にもなっていたのだけれど、しばらくは、その正体は本人にも私にも分からずじまいだった。

(分かった頃には手遅れ――的な、何かのフラグ?いやいや、何も今から不吉な予想とか立てなくても良いよね)

 若干表情かお痙攣ひきつらせながら見送る私に、エドヴァルドのエスコートの手がすっと差し出された。

「言いたい事は色々とあるが……とりあえずは、邸宅やしきに、軽くでも何か用意をするように先触れを出す。ただ、が王宮医務室にいるらしいから、私の名前で『回収』に行くつもりだが、どうする?宰相室で待っていても良いが」

「…っ、行きます!シーグの様子も気になるし――」

 回収って何だろうと思いながらも、エドヴァルドと医務室に向かうと、そこには横になっているものの、既に目は覚ましていたシーグと、隣に付き添う形で、リックもいた。

 不用意に駆け寄るなとばかりにエドヴァルドが私の前に立つので、私としては横からひょいと顔を出して様子を覗き込むしかない。

「おまえたちは、一応私の護衛部隊の一員と言う事で、王宮側には伝えておいた。サタノフも顔見知りだと言う事で、誰も不審には思っていない。…まあ、今はそれどころではないとも言えるが」

「ああ…まあ、道理でここに来て、シーグが骨折とかもなくて、ちょっとした打ち身くらいで済みそうだと分かった時点から、ほぼ放置だったワケだ」

 肩をすくめているリックに、それはそれで、警備としてどうなのかとも思ったけれど、この二人がイデオン公爵邸直属の護衛の中の二人だと見做されていたなら、確かに「それどころじゃない」扱いに降格していたとしても、仕方がないのかも知れない。

「エドヴァルド様、この二人、じゃあ、公爵邸の方に連れて帰るんですか?」

「…まあ、ちょっと考えている事もあるしな。邸宅やしきの〝鷹の眼〟連中の巡回待機部屋なら、監視も兼ねられるし問題ないだろう」

 要は宿直室みたいなものか。

 双子ともに若干腰が引けているっぽかったけど、リックの方が諦めた様に「拒否権…は、ないよな、やっぱり」と、乾いた笑い声を洩らしていた。

「何を言ってる。公爵邸で毒入りじゃない美味うまい食事は振る舞ってやると言ったろう。それとも不法侵入の恩赦も要らんのか?」

 私の知らないところで何かを話していたからか、シーグもリックも、苦い表情かおでエドヴァルドからそっと視線を逸らしていた。

「そりゃ殿下は勝てねぇし、エヴェリーナ様も最大限に警戒される筈だよな……」

 なんて事をボソボソとリックが呟いて、シーグが大きく首を縦に振っていたけれど――まあ、ここに来るまでに色々とあったんだろう。

 私にはそれくらいしか察せられなかった。

 最終的にはリックが「よ、ヨロシクオネガイシマス……」と頭を下げたからだ。
 シーグも慌ててそれに倣っていた。

「おまえたちが向こうサレステーデで目にしてきた事を私としては聞きたいのだが、医務室ここは守秘義務があるにしても、差し障りがない訳ではない。シーグは動けるのか?」

「あっ…はい、痛むのは痛むんですけど……薬も貰ったので、何とか……」

 シーカサーリ王立植物園での日々は、少なくともシーグの方を随分と丸くしているらしい。
 トゲの取れた、年齢相応の話し方になってきているみたいだった。

「なら、とりあえずは公爵邸に行くぞ。問題がありそうならリックが支えてやれ。他の〝鷹の眼〟の連中の手を借りるよりは余程良いだろう?」

「っ!あ、当たり前だ!誰もシーグには触らせねぇよっ‼」

「結構。ならこのまま、宰相室までついて来い。小型の〝転移扉〟が今はそこに置かれているから、それで公爵邸に戻る」

 ――この場の誰一人、それに逆らう術は持っていなかった。

 モチロンワタシモデス。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。