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第二部 宰相閣下の謹慎事情
336 自重の為の傾向と対策(前)
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
一緒に食事をしてしまえば、そのまま話を聞けるのに――と思ったのは、不自然な流れじゃない筈なんだけど、何故かシーグにもリックにも、首が捥げそうなほど、激しく横に振られて、拒絶されてしまった。
「あとでダイニングに行くから‼」
そう叫んだリックが、半ば逃げる様にシーグを連れて、ダイニングを後にしていく。
使用人食堂の方で「アレは戦略的撤退!」と叫んで、何故か〝鷹の眼〟たちの共感を得ていたらしい。
小難しい話になりそうなら、書斎とか応接室の方が良いんじゃ…と思ったところに関しては、そっちはそっちで、まだ双子にそこまでの信頼がないのか、警護の問題があると、今度は〝鷹の眼〟側に拒絶された。
面倒くさい……と、思わずため息が零れ落ちてしまう。
(俺らに責任転嫁すんじゃねぇ。先にちゃんとお館様と話し合え。でないと、そのうち問答無用で邸宅に閉じ込められるぞ)
ファルコの謎の魔道具越しの声が、ヘッドホンを使っているかの様な反響音を響かせながら、耳に入ってくる。
確かに「監禁エンド」はぞっとしない話ではあるけれど、私はただ、自分の食い扶持を稼いでいるつもりなだけなんだけどなぁ……。
セルヴァンやヨンナには、邸宅の中を取り仕切る仕事があって〝鷹の眼〟の皆には、護衛や斥候と言う仕事がある。
じゃあ、私に出来る事は――って思う事も「自重」の対象になるんだろうか。
(だーかーら、そう言ったコトをお館様と話し合って、落としどころを決めろって話をしてんだろうがよ)
どうやら、持ち主が相手に話しかけるべく意識を向けて起動させると、相手の考えを丸ごと読む事は無理らしいけど、自分の方に向けて呟かれた内心の言葉は頭に流れて来るらしい。
喋っていないのに、思考を読み取られているとは、恐るべし魔道具。
ただそれも、エドヴァルドの許可あってこその使用らしいので、邸宅に帰ってきた以上は、この後はまた指示があるまでは使えなくなるだろうとの事だった。
「……無言でころころ表情を変えないでくれるか、レイナ」
ダイニングで席に着いた私が、よほど百面相状態だったのか、エドヴァルドが静かにため息を溢した。
――相変わらず耳に毒なため息だと思う。
「す…すみません、その…魔道具を戻す前のファルコにちょっと怒られてました……」
「ファルコが?」
「えっと…『自重』の適用範囲を、エドヴァルド様と話し合え、と……」
多分、ファルコが言いたかったのは、そう言う事の筈。
ぼそぼそと呟いた私に、思いがけず何かがヒットしたらしいエドヴァルドが、何か詰まらせたのかごほごほと咳込みながら、慌てて顔を横に背けていた。
「ち、違いない……まったく、真面目な話をしたいのに、皆、何だ…っ」
「エ、エドヴァルド様?」
そこで僅かに持ち直したのか、口元に軽く握った手をあてたまま、エドヴァルドが逆の手をひらひらと私に向けて振って見せた。
「いや。こちらはこちらで、セルヴァンが『今の旦那様は一方通行でいらっしゃいます。レイナ様が公爵邸でどうお過ごしになられたいのか。それをお聞きになった上で対策をお立てになるべきです』と言ってきた。結局のところ、二人して同じ様な事を言っていると思ってな」
対策って…と、思わず給仕中のセルヴァンに視線を向けたけれど、当の本人は涼しい表情をしていた。
「甘やかしたい男性と、甘やかされたくない女性――と、ヨンナがお二人を評しておりましたが、それではどこまで行こうと永遠に交差致しません。まさか今更このような少年少女の初恋じみた指南をする事になろうとは、このセルヴァン、思いもしませんでしたが。つまるところ、お早いうちに妥協点を探って頂かないと、邸宅の者皆が困ります。ファルコが言いたかったのも、恐らくはそう言う事かと」
「「……っ」」
うっかり私まで水を吹きそうになってしまった。
「え…っと、セルヴァン、これってそんな単純な話じゃないと言うか……」
「たとえ話題が王宮だの政治だのと仄暗いところにあっても、結局のところは、関わらせたくないか、何か手伝えないか――での攻防となると、根は同じですよ、レイナ様。この手の話に理屈を当てはめようとすると、大抵は失敗します」
何だか、それはそれで以前に失敗した経験でも…と脳裡をよぎった部分が見透かされたのか、そこはニッコリ微笑って質問を封じられてしまった。
今は自分の話じゃない――その通りです、スミマセン。
「そんな訳ですから、我々は一度隣の部屋に皆、退避させて頂きますから、部屋を凍り付かせない程度に、穏やかな話し合いをお願い致します」
そしてまさかの二人きりとか!
どうして良いやら分からなくなってしまった私は、その場でピシリと固まってしまった。
「レイナ……」
エドヴァルドは、ちょっと困った様に微笑っている。
「まあ…貴女の隣を歩みたいと行った口で、貴女を私の権力で守り通そうと動いていたのだから、矛盾を覚えても仕方のないところではあったな」
「いえ……その、今の私の立ち位置が不安定な事も確かですし……そこは何とも……」
もごもごと答える私に、エドヴァルドも「そうだな」と静かに肯定していた。
「そこで貴女が、私を頼るのではなく、自分でまずは何とかしようと動く女性なのだと言う事を、心のどこかでまだ理解しきれていなかったんだろう。結果的に、対応を間違えてしまった。ナシオによると、貴女の食器に塗られていたのは嘔吐剤だったそうだ。恐らくは気分が悪くなって中座したところを狙うつもりだったんだろう」
「あれは……その、シャルリーヌ嬢のおかげですね。彼女、某第一王子の婚約者だった頃に、ラハデ公爵にあれこれと指南されていたんだそうです。私がスープにスプーンを入れて、そこから何かが滲み出たところで、ピンときたんだとか」
勉強になりました、と私が閃かせた微苦笑に、エドヴァルドは若干呆れているようだった。
恐るべしギーレンの王妃教育、とでも思ったのかも知れない。
「アンディション侯爵――いや、もう『テオドル大公』だな。大公殿下の席は、私よりも貴女に近い位置にあった。貴女やボードリエ伯爵令嬢が〝鷹の眼〟達やシクステン、ヘルマン両長官とあれこれやり取りしてたのが、全てではないにせよ、どこかが耳に入ったんだろう。結果的に、一度は潰した筈の『貴女をバリエンダールに同行させる』と言う話を再度掘り起こす事になってしまった」
「す、すみませ――」
「いや、それはもう良いんだ。あの流れでは、私ですら大公殿下の思惑を覆す事は難しい。貴女とボードリエ伯爵令嬢が、書物の影響にしても、他国の事情に詳しいのは、彼は分かっている訳だから。一つの国を自治領に落とすなどと言う前代未聞の事をするからには、少しでも自国に有利な様にしておきたいんだろう。その気持ちは分からなくもない。ボードリエ伯爵令嬢に〝扉の守護者〟としての素質がなければ、彼女もまとめて同行させるように根回しをした筈だ」
「……優秀な方なんですね、大公殿下」
感心した様に呟く私に、エドヴァルドは「否定はしないが…」と一瞬、過去を振り返る様に天井近くを見上げた。
「あの方は先の政変の折、実は三人の王子の内で、誰に付く事もされなかったんだ。いずれ三人の王子の間で争いが起こるとの予想はあったかも知れないが、まさにその直前に、アンディション侯爵家に臣籍降下される事を自ら願い出られた。もしかしたら、自分が王宮から離れなければ、王位継承権争いは泥沼化しなかったのでは――との後悔に苛まれておいでの可能性もある」
テオドル大公殿下が臣籍降下を決めたのは、先代宰相が亡くなった直後だったそうだ。
ただ先代宰相の薨去と王子三人の骨肉の王位争いまでの間に、実はそれほどの時間差がなかったらしい。
先代宰相は後継者としてエドヴァルドを鍛えつつも、自らの異母甥であったテオドル大公の事も同時に目にかけていて、あれこれと補佐をさせていたんだとか。
だからギリギリまで、テオドル大公が次の宰相になるのではとの憶測も消えなかったそうなのだ。
だけど先代宰相の没後、次に宰相になったのはエドヴァルドであり、テオドル大公は「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」とばかりに臣籍降下を願い出た。
一部の貴族たちの間では、エドヴァルドとテオドル大公との間で、次期宰相位を巡っての衝突があり、敗れた大公が下野したのではないかとの噂が、それ以降燻り続けていたらしい。
「ああ…だから……」
テオドル大公は、自分はもう表舞台には一切関わらないとの無言の主張のつもりで、どの王子も支持せず、アンディション侯爵領へと下った筈が、逆にエドヴァルドに対して鬱屈した感情があるのではと勘繰られる結果になっていたのだ。
未だに自分を担ぎ上げようとする勢力がある、と溢していたのはそう言う事か、と私は妙に納得してしまった。
「大公本人は、そもそも表舞台に関わりたくなかったところが、先代宰相の懇願を受けて王宮に留まっていたと言っていたんだ。だからこそ、その宰相が亡くなったからには、今度こそ下野させてくれ、と。当時の五公爵会議では、それを却下する明確な論証を持っていなかった」
むしろエドヴァルドが忙しくなるだろうとの、とある公爵家からの嫌がらせ的な意味もあって、そのまま認められてしまったところもあったらしい。
「だから大公には、国政が荒れた時期に一度、背を向けてしまったとの負い目がおありなのかも――とは、私の勝手な想像だ。今回、強引ともいえる策に打って出てきたのも、大公なりの罪滅ぼしのつもりなのかも知れない、とな」
己の持つ伝手と血筋がまだ役に立つのなら、今度こそ背を向ける訳にはいかない……と。
(そうか、大公サマは、先代宰相の遺志を無にしない為にもエドヴァルドの負担を減らしたいんだ……)
――協力してくれるであろう?
脳裡でそう、大公殿下が微笑っている気がした。
一緒に食事をしてしまえば、そのまま話を聞けるのに――と思ったのは、不自然な流れじゃない筈なんだけど、何故かシーグにもリックにも、首が捥げそうなほど、激しく横に振られて、拒絶されてしまった。
「あとでダイニングに行くから‼」
そう叫んだリックが、半ば逃げる様にシーグを連れて、ダイニングを後にしていく。
使用人食堂の方で「アレは戦略的撤退!」と叫んで、何故か〝鷹の眼〟たちの共感を得ていたらしい。
小難しい話になりそうなら、書斎とか応接室の方が良いんじゃ…と思ったところに関しては、そっちはそっちで、まだ双子にそこまでの信頼がないのか、警護の問題があると、今度は〝鷹の眼〟側に拒絶された。
面倒くさい……と、思わずため息が零れ落ちてしまう。
(俺らに責任転嫁すんじゃねぇ。先にちゃんとお館様と話し合え。でないと、そのうち問答無用で邸宅に閉じ込められるぞ)
ファルコの謎の魔道具越しの声が、ヘッドホンを使っているかの様な反響音を響かせながら、耳に入ってくる。
確かに「監禁エンド」はぞっとしない話ではあるけれど、私はただ、自分の食い扶持を稼いでいるつもりなだけなんだけどなぁ……。
セルヴァンやヨンナには、邸宅の中を取り仕切る仕事があって〝鷹の眼〟の皆には、護衛や斥候と言う仕事がある。
じゃあ、私に出来る事は――って思う事も「自重」の対象になるんだろうか。
(だーかーら、そう言ったコトをお館様と話し合って、落としどころを決めろって話をしてんだろうがよ)
どうやら、持ち主が相手に話しかけるべく意識を向けて起動させると、相手の考えを丸ごと読む事は無理らしいけど、自分の方に向けて呟かれた内心の言葉は頭に流れて来るらしい。
喋っていないのに、思考を読み取られているとは、恐るべし魔道具。
ただそれも、エドヴァルドの許可あってこその使用らしいので、邸宅に帰ってきた以上は、この後はまた指示があるまでは使えなくなるだろうとの事だった。
「……無言でころころ表情を変えないでくれるか、レイナ」
ダイニングで席に着いた私が、よほど百面相状態だったのか、エドヴァルドが静かにため息を溢した。
――相変わらず耳に毒なため息だと思う。
「す…すみません、その…魔道具を戻す前のファルコにちょっと怒られてました……」
「ファルコが?」
「えっと…『自重』の適用範囲を、エドヴァルド様と話し合え、と……」
多分、ファルコが言いたかったのは、そう言う事の筈。
ぼそぼそと呟いた私に、思いがけず何かがヒットしたらしいエドヴァルドが、何か詰まらせたのかごほごほと咳込みながら、慌てて顔を横に背けていた。
「ち、違いない……まったく、真面目な話をしたいのに、皆、何だ…っ」
「エ、エドヴァルド様?」
そこで僅かに持ち直したのか、口元に軽く握った手をあてたまま、エドヴァルドが逆の手をひらひらと私に向けて振って見せた。
「いや。こちらはこちらで、セルヴァンが『今の旦那様は一方通行でいらっしゃいます。レイナ様が公爵邸でどうお過ごしになられたいのか。それをお聞きになった上で対策をお立てになるべきです』と言ってきた。結局のところ、二人して同じ様な事を言っていると思ってな」
対策って…と、思わず給仕中のセルヴァンに視線を向けたけれど、当の本人は涼しい表情をしていた。
「甘やかしたい男性と、甘やかされたくない女性――と、ヨンナがお二人を評しておりましたが、それではどこまで行こうと永遠に交差致しません。まさか今更このような少年少女の初恋じみた指南をする事になろうとは、このセルヴァン、思いもしませんでしたが。つまるところ、お早いうちに妥協点を探って頂かないと、邸宅の者皆が困ります。ファルコが言いたかったのも、恐らくはそう言う事かと」
「「……っ」」
うっかり私まで水を吹きそうになってしまった。
「え…っと、セルヴァン、これってそんな単純な話じゃないと言うか……」
「たとえ話題が王宮だの政治だのと仄暗いところにあっても、結局のところは、関わらせたくないか、何か手伝えないか――での攻防となると、根は同じですよ、レイナ様。この手の話に理屈を当てはめようとすると、大抵は失敗します」
何だか、それはそれで以前に失敗した経験でも…と脳裡をよぎった部分が見透かされたのか、そこはニッコリ微笑って質問を封じられてしまった。
今は自分の話じゃない――その通りです、スミマセン。
「そんな訳ですから、我々は一度隣の部屋に皆、退避させて頂きますから、部屋を凍り付かせない程度に、穏やかな話し合いをお願い致します」
そしてまさかの二人きりとか!
どうして良いやら分からなくなってしまった私は、その場でピシリと固まってしまった。
「レイナ……」
エドヴァルドは、ちょっと困った様に微笑っている。
「まあ…貴女の隣を歩みたいと行った口で、貴女を私の権力で守り通そうと動いていたのだから、矛盾を覚えても仕方のないところではあったな」
「いえ……その、今の私の立ち位置が不安定な事も確かですし……そこは何とも……」
もごもごと答える私に、エドヴァルドも「そうだな」と静かに肯定していた。
「そこで貴女が、私を頼るのではなく、自分でまずは何とかしようと動く女性なのだと言う事を、心のどこかでまだ理解しきれていなかったんだろう。結果的に、対応を間違えてしまった。ナシオによると、貴女の食器に塗られていたのは嘔吐剤だったそうだ。恐らくは気分が悪くなって中座したところを狙うつもりだったんだろう」
「あれは……その、シャルリーヌ嬢のおかげですね。彼女、某第一王子の婚約者だった頃に、ラハデ公爵にあれこれと指南されていたんだそうです。私がスープにスプーンを入れて、そこから何かが滲み出たところで、ピンときたんだとか」
勉強になりました、と私が閃かせた微苦笑に、エドヴァルドは若干呆れているようだった。
恐るべしギーレンの王妃教育、とでも思ったのかも知れない。
「アンディション侯爵――いや、もう『テオドル大公』だな。大公殿下の席は、私よりも貴女に近い位置にあった。貴女やボードリエ伯爵令嬢が〝鷹の眼〟達やシクステン、ヘルマン両長官とあれこれやり取りしてたのが、全てではないにせよ、どこかが耳に入ったんだろう。結果的に、一度は潰した筈の『貴女をバリエンダールに同行させる』と言う話を再度掘り起こす事になってしまった」
「す、すみませ――」
「いや、それはもう良いんだ。あの流れでは、私ですら大公殿下の思惑を覆す事は難しい。貴女とボードリエ伯爵令嬢が、書物の影響にしても、他国の事情に詳しいのは、彼は分かっている訳だから。一つの国を自治領に落とすなどと言う前代未聞の事をするからには、少しでも自国に有利な様にしておきたいんだろう。その気持ちは分からなくもない。ボードリエ伯爵令嬢に〝扉の守護者〟としての素質がなければ、彼女もまとめて同行させるように根回しをした筈だ」
「……優秀な方なんですね、大公殿下」
感心した様に呟く私に、エドヴァルドは「否定はしないが…」と一瞬、過去を振り返る様に天井近くを見上げた。
「あの方は先の政変の折、実は三人の王子の内で、誰に付く事もされなかったんだ。いずれ三人の王子の間で争いが起こるとの予想はあったかも知れないが、まさにその直前に、アンディション侯爵家に臣籍降下される事を自ら願い出られた。もしかしたら、自分が王宮から離れなければ、王位継承権争いは泥沼化しなかったのでは――との後悔に苛まれておいでの可能性もある」
テオドル大公殿下が臣籍降下を決めたのは、先代宰相が亡くなった直後だったそうだ。
ただ先代宰相の薨去と王子三人の骨肉の王位争いまでの間に、実はそれほどの時間差がなかったらしい。
先代宰相は後継者としてエドヴァルドを鍛えつつも、自らの異母甥であったテオドル大公の事も同時に目にかけていて、あれこれと補佐をさせていたんだとか。
だからギリギリまで、テオドル大公が次の宰相になるのではとの憶測も消えなかったそうなのだ。
だけど先代宰相の没後、次に宰相になったのはエドヴァルドであり、テオドル大公は「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」とばかりに臣籍降下を願い出た。
一部の貴族たちの間では、エドヴァルドとテオドル大公との間で、次期宰相位を巡っての衝突があり、敗れた大公が下野したのではないかとの噂が、それ以降燻り続けていたらしい。
「ああ…だから……」
テオドル大公は、自分はもう表舞台には一切関わらないとの無言の主張のつもりで、どの王子も支持せず、アンディション侯爵領へと下った筈が、逆にエドヴァルドに対して鬱屈した感情があるのではと勘繰られる結果になっていたのだ。
未だに自分を担ぎ上げようとする勢力がある、と溢していたのはそう言う事か、と私は妙に納得してしまった。
「大公本人は、そもそも表舞台に関わりたくなかったところが、先代宰相の懇願を受けて王宮に留まっていたと言っていたんだ。だからこそ、その宰相が亡くなったからには、今度こそ下野させてくれ、と。当時の五公爵会議では、それを却下する明確な論証を持っていなかった」
むしろエドヴァルドが忙しくなるだろうとの、とある公爵家からの嫌がらせ的な意味もあって、そのまま認められてしまったところもあったらしい。
「だから大公には、国政が荒れた時期に一度、背を向けてしまったとの負い目がおありなのかも――とは、私の勝手な想像だ。今回、強引ともいえる策に打って出てきたのも、大公なりの罪滅ぼしのつもりなのかも知れない、とな」
己の持つ伝手と血筋がまだ役に立つのなら、今度こそ背を向ける訳にはいかない……と。
(そうか、大公サマは、先代宰相の遺志を無にしない為にもエドヴァルドの負担を減らしたいんだ……)
――協力してくれるであろう?
脳裡でそう、大公殿下が微笑っている気がした。
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