聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

353 雪溶けは遠く(1)

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「………あ」

 王都商業ギルドに到着し、中に入って、さて実店舗登録の受付はどこだろうと、ぐるりと中を見回したところで――想定外の人物と出くわす事になった。

「なっ……⁉」

 そもそもは、アズレート副ギルド長と目があって「おや」と言う表情をしたところに、副ギルド長と会話を交わしていた青年が、気付いてその視線の先を辿ったみたいだったけど、おかげですぐにその会話の相手が誰だったのかが、こちらにも分かった。

「――ヤンネ」

 閣下、と言いかけたヤンネ・キヴェカス青年が慌てて口を閉ざしたのは、周囲の環境を慮ったからだろう。

 私は無視か!と思いつつも、こっちまで同じ土俵に下りる訳にもいかないので、とりあえずニッコリ笑って、片足を軽く引いて頭を下げておく。

 場所も場所だし、勝手に略式アレンジした〝カーテシー〟もどきで良いだろう。
 相手も相手だし。

 と言うか、コノヒトまだ副ギルド長以外の人と会話していないんだろうかと、ちょっと眉をひそめてしまったのが、副ギルド長に見えたんだろう。

 書類を持っていなかった方の手で、ちょいちょいと2階を指すパフォーマンスを見せた。

 …結局、今日も2階に上がるらしい。

「気になるようだから言っておくとだな」

 そしてもはや見慣れつつある部屋に足を踏み入れたところで、副ギルド長が不意にそんな風に口を開いた。

「今日はギルド長はシフトの関係で夜の出だ。それと、私がキヴェカス卿を受付したのは、一応たまたまだ。今日は私が、会社設立に関しての窓口担当だった。他にも担当はいるが、交代休憩中だ」

「あ、なるほど。なら納得です」

 うっかり溢した私に、ヤンネの視線がぶつかったけど、知らないフリ。

 エドヴァルドは……口を挟みそびれたって感じかな。はは。

「それで今日は、その恰好からすると店舗下見と言う事で良いのか?なら不動産担当者を呼んでくるから、それまではキヴェカス卿と話のすり合わせをしておいて貰いたいが」

「あ…っと、それもあるんですけど、同時に行商人登録から、店舗のある商会としての登録に切り替えたいんです。あまりこちらで加盟保証金を長々と持っていたくないので、早めに納めてしまいたいんですが」

 は?と、ヤンネの声が洩れている。
 それに追随した訳じゃないだろうけど、副ギルド長もちょっと怪訝そうな表情を見せた。

「今日はキヴェカス卿が、バーレント領の領主を中心とした会社の設立の話で来ていたんだが、それとはまた別の話か?」

「ああ、はい。それはそれです。そっちはあくまでバーレント領で作られる商品と流通経路の保護を目的とした会社の話ですから。私がお願いをしに来たのは、私が商会長となって、他国からの商品も流通させられる、完全なる別会社です」

「はあぁっっ⁉」

 アズレート副ギルド長は、さすがの年の功(ちょっと失礼かも知れない。多分きっとフォルシアン公爵世代の筈)か、軽く目を見開いただけで声は出ていなかったけど、ヤンネは違った。

 声でっかいな…と、私は思わず人差し指を耳に入れてしまっていたけど。

「……落ち着け、ヤンネ。レイナも、わざと驚きが大きくなるような言い方をするな」

「ナンノコトデショウ」

 ふいっと私が明後日の方向を向いていると、エドヴァルドにこめかみを軽く小突かれてしまった。

「ニコラエフ副ギルド長。この前ここで、イッターシュギルド長も交えて実店舗登録の話をして、開業届やなんかを預かって帰っただろう。そちらの話で来た。そのまま、その為の店舗も下見に行くつもりをしている」

「……ああ、なるほど」

 どうやらエドヴァルドのその一言で、副ギルド長はすぐに立ち直ったっぽかった。

「そう言う事であれば、実店舗登録の方は、キヴェカス卿案件のバーレント領の会社設立の話とまとめて、私の方で手続きをしましょう。ちょうどこの時間は私の担当分野ですしね」

 不動産担当者を呼んでくると言い置いて、アズレート副ギルド長はいったん席を外した。

 …そうして部屋には、気まずい三人が残される。

 このまま、アズレート副ギルド長が戻って来るまで無言なのかと、私が居心地悪く身動みじろぎしていると、ヤンネがチラッと私の方へと視線を向けてきた。

「………聞いていないんだが」

「そうですね、だって以来会ってませんから、それはお伝えのしようもないかと」

「……っ」

 なるべく冷静に私は答えたつもりだったけど「レイナ」と、エドヴァルドからの冷静なツッコミが入ってしまった。

 すみませんね、大人げなくて!

 そうは言っても、商会を持つのはエドヴァルドではなく私なので、ここは私の口からある程度は説明をしないといけない。

 私も軽く咳払いをしてから、ヤンネに向き直った。

「公爵閣下をお守りする為に、どうしても商会を一つ立ち上げる必要があったんです。どう言う事かと言うのは、政治案件になりますので、伏せさせて貰います。今言えるのは、陛下も承認済みだと言う事だけです」

「陛下も……」

「その時点では行商人登録だけで済んでいたんですが、その後事態が進んで、仮の行商人登録だけでは済まなくなりました。ですから、バーレント領の木綿製品を使った洋服を作る為の店舗を、その、実店舗登録をする商会の本店として構える為に来たんです。同時にバーレント領が起こす会社とは、提携と言う形で製品を取り扱おうと思ってます」

 どこからツッコんで良いのか分からない、と言った驚愕の表情を見せるヤンネに、エドヴァルドが説明と言う名の追い打ちをかけた。

「最初は、バーレント伯なりディルクなりの名で設立する会社に王都の店の経営者登録をさせるつもりだったんだがな。ちょっと王宮でゴタゴタがあって、店を開くなら、レイナが行商人登録をした商会に経営権を持たせる方が都合が良いと言う話になった」

「だから……提携、ですか……」

「ああ。フェリクス・ヘルマンが監修する木綿製品の衣装を販売する店舗であり、バーレント領のその他特産品を取り扱う店舗であり――フォルシアン公爵領と提携する予定のチョコレート商品やギーレンからの輸入品なんかを取り扱う店舗になる予定だからな。ならば新しく立ち上げる商会の本店とする方が諸々都合が良いんだ」

「⁉…こ、後半、聞いていないんですが……っ」

「だろうな。今初めて伝えたからな」

 ヤンネは頭を抱えている。
 …あの、宰相閣下、私より容赦なくないですか?

「あと、これも王宮でのゴタゴタに機縁しているんだが、近いうちにおまえの事務所にが派遣される予定だ。詳細は近いうちに高等法院に行った際にでも呼び止められるだろう。ここでは詳しく口には出来ないが、そのつもりでいてくれ」

「⁉」

 明らかに「助手ってなんだ」と言う表情で、ヤンネがガバリと頭を上げた。

 視線が私とエドヴァルドの間を恐る恐る往復している。

「まさかとは思いますが……」

「おまえの危惧は理解したが、助手は彼女レイナじゃない。高等法院から派遣される予定だ」

「―――」

 あからさまに安堵のため息をつくとか、失礼な!
 私こそ願い下げです――‼
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