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第二部 宰相閣下の謹慎事情
356 ギルドは意外に奥が深い
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
「では先に職人ギルドに向かいましょう。申し訳ありませんが、お越しになられた馬車ですと通れない道があるやも知れませんので、王都商業ギルドで抱える馬車で下見含め回らせて頂きます点、ご容赦下さいますでしょうか」
王都商業ギルドにおける不動産部門長であり、テオドル大公のお孫さんの旦那様だと言うイフナース・クィンテン青年は、馬車留めまで来たところで、そう言って頭を下げた。
「それと、同じ馬車に乗らせていただくご無礼も何卒ご容赦をお願い出来れば」
確かに、物件によっては住宅街や中心街の狭い道を走る可能性があってもおかしくない。
私がちらりとエドヴァルドを見やると、一瞬言葉に詰まった後で、ふいっと視線を逸らされてしまった。
「……彼女の隣や向かいでなければ、譲歩しよう」
それ、必然的に斜め向かいしか席がないと思うんだけれど、馭者や護衛含め誰もその事をツッコんだりはしなかった。
イフナースも、ちょっとだけ驚いた表情は浮かべたけれど、すぐさまそれを覆い隠して「もちろんです」と微笑った。
あの、その生温かい視線を私に向けるのはやめていただけないでしょうか……。
「職人ギルドは、王都学園と一般市民居住区を左右に見るような所にありまして、ここからは比較的すぐですよ」
そう言って馬車のドアをイフナースが開けて、エドヴァルドのエスコートの手を取りながら、私が最初に馬車に乗り込んだ。
そのまま奥に腰を下ろすと、次に乗り込んで来たエドヴァルドが私の隣に腰を下ろして、イフナースが最後、扉の取っ手のすぐ近く、エドヴァルドの真向かいに腰を下した。
普段ならこれと言った護衛もつかないらしいので、ここは〝鷹の眼〟から二人が、馭者と護衛を兼ねる形で馭者役を引き受けていた。
「あの……もし良かったら、後で失礼にならないように、商業ギルドと職人ギルドの違いを簡単に教えて頂けませんか?」
もしかしたら、イフナースが対応をして、私やエドヴァルドに出番はないのかも知れないけれど、それでも、先々の事を考えたら、知らないよりは知っておいた方が良い。
イフナースも、特に馬鹿にするような素振りもなく「ああ…」と呟きながら、教えてくれた。
「商業ギルドは基本、店舗や販路、販売人を管轄しますが、職人ギルドは、店舗で働く職人が経営者に非常識な労働を強いられたりしないよう、技術職の人間を保護する役割を担っています。それと、所属する職人たちが必要とするような、原材料の管理ですね」
分かりやすいだろう例として〝ヘルマン・アテリエ〟を挙げてくれたところによると、店を出すにあたってヘルマンさんは、商業ギルドに開業届を出し、店舗を購入、売り子や店長は商業ギルドからの斡旋で雇い入れているけれど、縫製などの針子に関しては、技術職と言う事で職人ギルドからの斡旋を受けたらしい。
そしてドレス生地や装飾品としての宝石に関しては、小売りをしない卸専門の業者が職人ギルドに属しており、そこから定期的に買い付けているらしい。
「一般市民居住区の一角に、主な手工業の工房がいくつかありましてね。王都の場合は、王家専用の肩書を持つ数店舗を除いては、修理や手入れを中心に依頼を受けるのがほとんどですね。これが地方ですと、生産者から原材料を仕入れて、製品として仕上げるまでを、ギルドに属する工房が行ったりするのですが」
「あれ。じゃあバーレント伯爵領主導で設立する会社で木綿製品を管理して〝ユングベリ商会〟とこれから登録する店舗にそれぞれ卸したいとなったら、具体的にどうなります?」
何となく頭の中に、道具街や問屋街をイメージしつつ私が具体的なところを聞くと、そうですね…とイフナースが天井を仰いだ。
「バーレント伯爵領の領都にも、規模は違えど商業ギルドと職人ギルドがある筈ですよ。店舗の開業ではなく、広範囲で『会社を興す』となると確かに領都のギルドではなく王都でキヴェカス卿にやって貰わなくてはならないでしょうが、現地の職人達に関しては、領都の職人ギルドに属して貰う必要がありますね。もっとも、これから初めて生産をするのではなく、今まで生産していた物を王都でも流通させたいと言う話なのであれば、既に職人ギルドには加盟していると思いますよ?」
でなければ処罰の対象になりますから、とイフナースは教えてくれた。
要はモグリ職人は厳罰必至と言う事だ。なるほど。
木綿生地は今までも、量はともかく生産をしていたみたいだから、多分バーレント領の職人ギルドに所属はしているんだろう。
問題は、木綿紙を流通させる場合だ。
特許権案件。明らかに「これから初めて」の案件だ。
紙を作る村人さん達には、領都で職人ギルドに所属して貰う必要がありそうだ。
「……後でヤンネに一応確認させると良い」
木綿生地の事か、紙の話か、あるいは両方か。
イフナースには悟られないよう、どうとでも取れる言い方をエドヴァルドがした。
戻ったら伝えます、と私もここは真面目に答えを返した。
「ちなみに食品の加工に関してはどう言った決まりが?職人ギルドなのか商業ギルドなのか……」
ユルハでシーベリージャムを作るとなると、広い意味では「加工技術」と呼べなくもない。
線引きはどのあたりなのかと、私はついでにイフナースに尋ねてみた。
「加工食品の販売や貴族家に勤めない一般料理人達に関しては、基本的には商業ギルドが請負ます。商業ギルドの中に『生産者』部門を持っているんですよ。店舗無しには成り立たない分野と言う事でね。かつては職人ギルドも商業ギルドの下で同じような形態を取っていたそうなんですが、主に『手工業』を中心に独立した、と言う歴史があります。そう言う意味で言うなら『生産者ギルド』がそのうち出来てもおかしくないのかも知れませんね」
貴族家の料理人や庭師など、高い技術が必要とされる職人達は、王宮直轄の訓練所がギルドに代わって統括しているそうだから、そことの棲み分けが為されていると言う事だろう。
――この世界のギルド、意外と奥が深い。
これで魔物とかがいて、冒険者ギルドとかがあったら、しょっちゅう縄張り争いとかが起きそうな感じだ。
「お聞きになって分かったかと思いますが、そこそこ曖昧な部分もありましてね。その場合は、都度ギルド長同士で交渉と言う事になるんですよ。揉め事があった場合なんかは特にね。ですので、店舗運営に関してお考えの事があれば、今すぐでなくても構いませんが、開業までにはギルド長に一度ご相談頂きたいですね」
確かに開業前から揉め事を起こす事ほど印象の悪い事はない。
報・連・相は大事だ。
――あとで「どの口が言っている」と公爵邸中からツッコミを受けたのは、ちょっと解せなかったけど!
「では先に職人ギルドに向かいましょう。申し訳ありませんが、お越しになられた馬車ですと通れない道があるやも知れませんので、王都商業ギルドで抱える馬車で下見含め回らせて頂きます点、ご容赦下さいますでしょうか」
王都商業ギルドにおける不動産部門長であり、テオドル大公のお孫さんの旦那様だと言うイフナース・クィンテン青年は、馬車留めまで来たところで、そう言って頭を下げた。
「それと、同じ馬車に乗らせていただくご無礼も何卒ご容赦をお願い出来れば」
確かに、物件によっては住宅街や中心街の狭い道を走る可能性があってもおかしくない。
私がちらりとエドヴァルドを見やると、一瞬言葉に詰まった後で、ふいっと視線を逸らされてしまった。
「……彼女の隣や向かいでなければ、譲歩しよう」
それ、必然的に斜め向かいしか席がないと思うんだけれど、馭者や護衛含め誰もその事をツッコんだりはしなかった。
イフナースも、ちょっとだけ驚いた表情は浮かべたけれど、すぐさまそれを覆い隠して「もちろんです」と微笑った。
あの、その生温かい視線を私に向けるのはやめていただけないでしょうか……。
「職人ギルドは、王都学園と一般市民居住区を左右に見るような所にありまして、ここからは比較的すぐですよ」
そう言って馬車のドアをイフナースが開けて、エドヴァルドのエスコートの手を取りながら、私が最初に馬車に乗り込んだ。
そのまま奥に腰を下ろすと、次に乗り込んで来たエドヴァルドが私の隣に腰を下ろして、イフナースが最後、扉の取っ手のすぐ近く、エドヴァルドの真向かいに腰を下した。
普段ならこれと言った護衛もつかないらしいので、ここは〝鷹の眼〟から二人が、馭者と護衛を兼ねる形で馭者役を引き受けていた。
「あの……もし良かったら、後で失礼にならないように、商業ギルドと職人ギルドの違いを簡単に教えて頂けませんか?」
もしかしたら、イフナースが対応をして、私やエドヴァルドに出番はないのかも知れないけれど、それでも、先々の事を考えたら、知らないよりは知っておいた方が良い。
イフナースも、特に馬鹿にするような素振りもなく「ああ…」と呟きながら、教えてくれた。
「商業ギルドは基本、店舗や販路、販売人を管轄しますが、職人ギルドは、店舗で働く職人が経営者に非常識な労働を強いられたりしないよう、技術職の人間を保護する役割を担っています。それと、所属する職人たちが必要とするような、原材料の管理ですね」
分かりやすいだろう例として〝ヘルマン・アテリエ〟を挙げてくれたところによると、店を出すにあたってヘルマンさんは、商業ギルドに開業届を出し、店舗を購入、売り子や店長は商業ギルドからの斡旋で雇い入れているけれど、縫製などの針子に関しては、技術職と言う事で職人ギルドからの斡旋を受けたらしい。
そしてドレス生地や装飾品としての宝石に関しては、小売りをしない卸専門の業者が職人ギルドに属しており、そこから定期的に買い付けているらしい。
「一般市民居住区の一角に、主な手工業の工房がいくつかありましてね。王都の場合は、王家専用の肩書を持つ数店舗を除いては、修理や手入れを中心に依頼を受けるのがほとんどですね。これが地方ですと、生産者から原材料を仕入れて、製品として仕上げるまでを、ギルドに属する工房が行ったりするのですが」
「あれ。じゃあバーレント伯爵領主導で設立する会社で木綿製品を管理して〝ユングベリ商会〟とこれから登録する店舗にそれぞれ卸したいとなったら、具体的にどうなります?」
何となく頭の中に、道具街や問屋街をイメージしつつ私が具体的なところを聞くと、そうですね…とイフナースが天井を仰いだ。
「バーレント伯爵領の領都にも、規模は違えど商業ギルドと職人ギルドがある筈ですよ。店舗の開業ではなく、広範囲で『会社を興す』となると確かに領都のギルドではなく王都でキヴェカス卿にやって貰わなくてはならないでしょうが、現地の職人達に関しては、領都の職人ギルドに属して貰う必要がありますね。もっとも、これから初めて生産をするのではなく、今まで生産していた物を王都でも流通させたいと言う話なのであれば、既に職人ギルドには加盟していると思いますよ?」
でなければ処罰の対象になりますから、とイフナースは教えてくれた。
要はモグリ職人は厳罰必至と言う事だ。なるほど。
木綿生地は今までも、量はともかく生産をしていたみたいだから、多分バーレント領の職人ギルドに所属はしているんだろう。
問題は、木綿紙を流通させる場合だ。
特許権案件。明らかに「これから初めて」の案件だ。
紙を作る村人さん達には、領都で職人ギルドに所属して貰う必要がありそうだ。
「……後でヤンネに一応確認させると良い」
木綿生地の事か、紙の話か、あるいは両方か。
イフナースには悟られないよう、どうとでも取れる言い方をエドヴァルドがした。
戻ったら伝えます、と私もここは真面目に答えを返した。
「ちなみに食品の加工に関してはどう言った決まりが?職人ギルドなのか商業ギルドなのか……」
ユルハでシーベリージャムを作るとなると、広い意味では「加工技術」と呼べなくもない。
線引きはどのあたりなのかと、私はついでにイフナースに尋ねてみた。
「加工食品の販売や貴族家に勤めない一般料理人達に関しては、基本的には商業ギルドが請負ます。商業ギルドの中に『生産者』部門を持っているんですよ。店舗無しには成り立たない分野と言う事でね。かつては職人ギルドも商業ギルドの下で同じような形態を取っていたそうなんですが、主に『手工業』を中心に独立した、と言う歴史があります。そう言う意味で言うなら『生産者ギルド』がそのうち出来てもおかしくないのかも知れませんね」
貴族家の料理人や庭師など、高い技術が必要とされる職人達は、王宮直轄の訓練所がギルドに代わって統括しているそうだから、そことの棲み分けが為されていると言う事だろう。
――この世界のギルド、意外と奥が深い。
これで魔物とかがいて、冒険者ギルドとかがあったら、しょっちゅう縄張り争いとかが起きそうな感じだ。
「お聞きになって分かったかと思いますが、そこそこ曖昧な部分もありましてね。その場合は、都度ギルド長同士で交渉と言う事になるんですよ。揉め事があった場合なんかは特にね。ですので、店舗運営に関してお考えの事があれば、今すぐでなくても構いませんが、開業までにはギルド長に一度ご相談頂きたいですね」
確かに開業前から揉め事を起こす事ほど印象の悪い事はない。
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