聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

398 テイクアウトお願いします

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「バルトリ、とりあえず厨房のチェーリアさんに言って、料理に使った残りで良いから、エプレりんごの皮とハーブと、捨てても良い花の蕾とか花びらと塩を分けて貰ってくれる?あ、あと蓋付きのガラス瓶を用意して貰って、それにめいっぱい詰め込める量で…って」

 食事スペースにいた全員、私が何を言っているのかが分からなかったっぽいけど、とりあえずバルトリは厨房に顔を出して、私が言った材料をトレイに乗せて戻ってきた。

 さすがに用途が気になったらしく、チェーリアさんも後ろから付いて来ている。

『あの……これで何を……?』

『大丈夫です、そんなアヤしい物を作る訳じゃないですから。ちょうど良いんで、チェーリアさんも見ておいて下さい。時間がかかるだけで、作り方としてはそう難しいものじゃないんで』

 言いながら私は、材料を布で拭いて水分をなるべく減らすようにしながら、瓶の中で塩→りんご→塩→花…と、なるべく色鮮やかに見えるよう、一層ずつ重ねながら入れていった。

『本当は、2~3時間程度エプレにしろ花にしろ、乾かしながら水分を減らした方が良いんですけど……あ、乾かしすぎると香りが飛ぶので、触ってみてちょっと湿りを感じるくらいが理想的ですね』

 最初は何事かと思いながら見ていたテオドル大公も、層が4段くらいになってきたところで「ほう…?」と感嘆の声を洩らした。

 チェーリアさんも『え、キレイ……』と同じように声を洩らしている。

『瓶次第では、このまま部屋に飾っても良いですし、2週間くらいたてばイイ感じに香りが塩に移り始めてるでしょうから、スプーンでかき混ぜちゃって、香り袋として仕立てても使えますよ?私は今回、そんな何週間も滞在予定はないんですけど、コレは置いていきますから、お試しで香り袋にしてみて下さい』

 最後香りが弱くなってきたところで、お風呂に入れると良いともアドバイスしておく。

『持ち歩く用の香り袋なら、民族衣装の端切はぎれなんかで仕立てても良いでしょうし、それこそ高価な布に民族の紋様を刺繍したりしても良いですし、そのあたりはどうとでも加工可能ですよ』

 何なら塩だって白でなくても良いし、花びらだって北部地域でしか見られない花とかがあれば、それを使ったって良い。

「そうか。見た目に華やかなら、塩さえ重ねて入れれば、後はどんな組み合わせでも良い訳か」

 得心した、と言った風に頷くテオドル大公に、私も「そうですね」と返した。

「極端な話、エプレを使うのもあくまで一例です。ただ、調味料を作るのに使った残りを有効活用出来ますから、そこは必須にしておいても良いと思いますけどね?」

 まさか文化祭のワークショップで、他のクラスのバスソルト制作体験をした事が、こんなところで活かされようとは――だ。
 あの時は、ピンクソルトだ薔薇だと使っていた気はするけど、それにしたって。

「ちなみにフォサーティ卿、ちょっと伺いたいんですけど」
「…何でしょう」

 気のせいか、ちょっと呆然としているっぽいジーノ青年の返しには、少し間があった。

「バリエンダール全体を鑑みて、ガラス製品の有名な地域はありますか?一応、用途としてはコレだったり、魚醬を詰めたりを考えているんですけど」

「ガラス……」

「なければアンジェスから持ち出しても良いんですけど、その分原価が上がってしまいますから、こちらの国内でそう言った地域があれば、それに越したことはないかなと」

 まあ、ラヴォリ商会の商会長が眼鏡の改良の為に来ているくらいだから、どこかしらガラス作りを生業としている地域はあるんだろうけど。問題は職人の腕と出来上がった製品の質だ。

 宰相家に養子に入るくらいだから、国内の主要な産業は把握している筈と、私はジーノ青年が該当地を思い浮かべるのを待った。

「…王都から少し南東に行く事にはなりますが、オルミ地方と言われる、湖と川の交差する森林地帯があって、そこには豊富な水源を頼って、多くのガラス工房があると聞いています。一部には『ガラスの王国』とも誉めそやされているようなので、そこならば新興勢力と言って良いユングベリ商会が相手でも、取引をしてくれる工房はあると思いますよ」

「オルミ…ですね。分かりました、覚えておきます。とりあえずは、香りが移り始めるまでの間に、それを見本としてエプレを作っている方とか、草花を育てている方とかに見本としてそのまま見て貰って、感触を探って頂く事は可能ですか?もちろん、さっき言った『企画書』はちゃんとお付けしますので」

「………」

 ジーノ青年は、すぐには何も答えなかった。

「あの……?」

『チェーリア、紙と書く物を貸してくれるかな』

 答えの代わりにチェーリアさんから筆記用具一式を受け取ると、そこにスラスラと何かを書き付けた。

 そうして書き終えたところで、その紙片を折りたたむと、私の方へとそっとその紙片を滑らせてきた。

「王都商業ギルド内で、最も熱心に民族問題に取り組んでいる男です。北部地域の出身ではないんですが…サレステーデでギルド長研修を受けた事があるとかで、その時に色々と思うところがあった、と。この店を出店する際にも、かなり骨を折ってくれていますし、今でも〝ソラータ〟に不当に奪われたりしないよう、権利の保護に関してはかなり力になってくれています。王都で今言った様な店舗を構えたいと本気でお考えなら、話をしてみて損はないかと。彼の判断次第で、私もその先を前向きに考えてみますよ」

 名前は「シレアン・メルクリオ」だと、ジーノ青年が言い、不意にこちらの耳元へと顔を寄せて来た。

『――お茶会の後で、シレアンが何を言ったかも聞かせて下さい』

 テオドル大公やマトヴェイ外交部長が眉をひそめたところから言って、今の一言だけはバリエンダール語じゃなかったんだろう。

 そう思いながらも、エドヴァルドほど破壊力のある低音ボイスではないので、私にそれほどの動揺はなかった。

『…ちなみにそれは、一人で来いと仰る?』

 ただ若干、声に非難の響きはあったかも知れない。

 それを察してか「まさか!」と、ジーノ青年は大仰に笑って、肩を竦めてみせた。

「ただ大公殿下は、陛下からのお誘いがある可能性もありますけどね。基本的には、そちらで必要だと思う人数を、必要なだけ同行させて下さって構いませんよ。こちらは特にやましい事を考えている訳ではありませんから」

 どうやら再びバリエンダール語に戻したらしく、そう言って彼が立ち上がった時には、テオドル大公が僅かに片眉を上げていた。

「――では、午後にまた」

 そう言って、綺麗な〝ボウ・アンド・スクレープ〟を見せたジーノ青年は、見送りに近寄ったチェーリアさんに紙幣を複数枚渡すと『お釣りは良いから、代わりに彼女に持ち帰り用の調味料を詰めて渡してあげて』とハタラ語で言い残して、颯爽と店を後にして行った。

 …どうやら、私が魚醤をアンジェスに持って帰ろうとしていると、読まれていたらしい。

『ええ。いただけたら、とても嬉しいです』

 こちらを振り返ったチェーリアさんに、私はニッコリと笑いかけておいた。
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