文字の大きさ
大
中
小
370 / 793
第二部 宰相閣下の謹慎事情
446 転移扉は起動する
「一口にカラハティの放牧と言っても、民族ごとに形態が違いましてね」
王宮内の廊下を〝転移扉〟のある部屋に向けて案内をされながら、ジーノ青年が、扉の向こう側の事について少しだけ話をしてくれた。
「年中天幕に住んで、季節の変化に応じて長距離移動しながら暮らす民族もあれば、一定間隔で小さな家を建てて、その家屋と家屋の間を移動する、比較的短距離の移動を行う民族、拠点を一ヶ所作って、周遊移動をして、またその場所に戻って来る移動を行う民族――と言った形があるのですが」
どうやら長距離移動を行うのがネーミ、短距離移動を行うのがハタラ、ユレルミやイラクシは周遊移動をしている…と言った、ざっくりとした特徴があるらしい。
「全員が全員、そう言う訳でもないのですが、まあ主要な家族がそうしているとお考え下さい」
ネーミ族に関しては、もっとも迫害が酷かった為に、結果的に長距離での移動と固定の家を持たない事を余儀なくされたと言う歴史も、裏にはあるそうだ。
「これから行くのは、ユッカス村と言う、北部地域に何千とある湖の中の一つ、ヤルビ湖畔にある小さな村なんですが、そこはユレルミ族の拠点と言いますか、年齢やケガで放牧移動の出来ないカラハティを飼育したり、同じく移動が難しい年寄りや若い子供が主に暮らしています。放牧移動中の者たちへの連絡なんかも、全て一度その村で預かる事になっているんですよ」
そして、その村にある族長の住居に〝転移扉〟の座標を合わせたと、ジーノ青年は言った。
「まあ、放牧移動で慣れた天幕で生活する人もいますし、族長の住居と言っても丸太小屋と言っても過言ではないので、そこはもう文化の違いとご理解下さい」
ちょうどそこまで話したところで、一つの部屋の前で立ち止まる。
一応、出発を見届けるとの事で、メダルド国王やミラン王太子、ナザリオギルド長らも一緒に部屋の中に足を踏み入れた。
「陛下」
中にはマリーカ・ノヴェッラ女伯爵が待機をしていて、メダルド国王に対して〝カーテシー〟の礼を軽くとった。
「うむ。起動はもう良いのか?」
「はいフォサーティ卿にご協力をいただき、先ほどつつがなく」
ノヴェッラ女伯爵の向こう側には、アンジェス国とはまた違う紋様の円陣が展開されており、仄かな光が足元を照らしていた。
「既に空間が繋がっている事も確認済みですから、私の後からそのまま歩いて来て下さって構いません」
そう言ったジーノ青年が、円陣の中央へと歩を進める。
私はと言えば、ウルリック副長からこっそり「念のためウチの将軍にエスコートして貰って下さい。スマートじゃないと思いますが、そのあたり、お館様とは比較しないで」などと囁かれ、190cm超えのベルセリウス将軍が曲げた肘に、かろうじて手を乗せている様な状態で円陣の中へと入る。
行ってらっしゃい、などとナザリオギルド長が軽く手を振る中、私も円陣の向こう側へと足を踏み入れた。
* * *
「わ……」
視界がくらりと一瞬傾いた後、視線の先に見えたのは、四角いフレーム状の丸太が組みあがる建物の中だった。
(リアルにトナカイ…あ、カラハティか。頭部の剥製壁掛けとか初めて見た……)
さすがにアレは、木彫りの熊的な、貰って困るお土産筆頭になりそうで、取引には向いていない気はする。
いや、権威主義的なお貴族様には案外ウケたりするんだろうか。
その他にも、ざっと辺りを見渡せば、カラハティの皮っぽいラグマットや、ショール、ブーツ、マグカップと言った小物があちらこちらに置かれていた。
「ああ…まあ、放牧に行けない者たちは、こう言った物を細々と売って生活しているのが実情ですよ。ですから、ユングベリ商会の販路が拓くと言うのは、良い機会だと私なんかは捉えているんですけどね」
私の視線に気付いたジーノ青年が、そんな風に説明をしてくれる。
「申し訳ありませんが、村の集会所の方まで移動して下さいますか。直接そちらに行っても良かったんですが、そちらにはハタラ族やネーミ族の方にも集まっていただく予定なので〝転移扉〟が起動している所は、あまり見せない方が良いだろうとの、陛下のご判断もあって、いったんこちらに来たのですよ。一応、帰る際もそのようにする予定ですが」
もともと〝転移扉〟は北部地域とこれまで繋がれた事はなく、最北はシェーヴォラの領主屋敷までだったらしい。
今回限りのイレギュラーと断言するためには、なるべく多くの人の目には触れない様にしておこうとの配慮があったのかも知れなかった。
「――あ、ちょっと寒い」
着いたところは、確かに山小屋風のロッジみたいな建物だった。外から見ても、印象はそう大きく中と変わらない。
ただ、集会所に向かうとの事で外に出た途端、王都とは違う冷たい風が身を取り巻いた。
「もう少ししたら、この辺り一帯、雪に埋もれるんですよ。今のうちに暖をとる薪や長期保存用の食料の確保なんかの為に、ここの住民はここの住民なりに忙しくしています。まったく、街道封鎖だなどと迷惑も甚だしい。これから冬の備えをしなくてはならない少数民族全体にとっても、本当に由々しき問題です」
だからこそ、ネーミ族もハタラ族も、危機感を覚えて駆けつけてきていると、ジーノ青年は表情を硬くしていた。
「とは言えユングベリ商会は、彼らにとっては初めて聞く商会。最初は私が説明をしますので、話を振るまでは、様子を見ていて貰っても良いですか?」
「分かりました。その……イラクシ族とは取引をしない、的な方向で?」
「ええ。恐らく今頃集会所では、いっそイラクシ族の拠点を襲撃して、無理にでも彼らを従えてしまってはどうか…と言った強硬論が出ていると思うんですよ。そこを抑えようと思えば、経済封鎖の有用性を説くしかありませんからね」
「北方遊牧民の方々は、血の気が多い方が多いんですか?」
「まあ、根は狩猟採集民族な訳ですしね。少なくはないと思いますよ」
やや苦笑交じりにジーノ青年はそう言って、少し前を歩いて行く。
「多少議論が白熱して、柄の良くない発言もあるかも知れませんが、そこはご容赦下さい。ユングベリ商会長、彼らの言語は全てお分かりなんでしょう?」
「あー…そうですね。何語を話されたとしても、多分聞き取れてしまうと思います。いえ、別に自慢するつもりは全くないんですが」
エドヴァルドとシャルリーヌ以外は知らない、私の「言語チート」機能の前には、少数民族語とて無力化される。
声のボリュームを落とさない限りは、ナイショ話は存在しえない。
乾いた笑いを洩らすしかない私に、ジーノ青年も諦めた様に嘆息した。
「我が部族の緊急用言語を理解していたくらいですし、そうだろうとは思いましたよ。まあただ、この事は他には洩らしませんから、理解を示すもわざととぼけるも、いいように活用して下さい」
「それは……有難うございます」
分からないフリをして情報を集めるのも、確かに一案ではある。
そこは場に応じて考えようと決めたところで、ちょうど集会所と思しき建物の前に到着した。
王宮内の廊下を〝転移扉〟のある部屋に向けて案内をされながら、ジーノ青年が、扉の向こう側の事について少しだけ話をしてくれた。
「年中天幕に住んで、季節の変化に応じて長距離移動しながら暮らす民族もあれば、一定間隔で小さな家を建てて、その家屋と家屋の間を移動する、比較的短距離の移動を行う民族、拠点を一ヶ所作って、周遊移動をして、またその場所に戻って来る移動を行う民族――と言った形があるのですが」
どうやら長距離移動を行うのがネーミ、短距離移動を行うのがハタラ、ユレルミやイラクシは周遊移動をしている…と言った、ざっくりとした特徴があるらしい。
「全員が全員、そう言う訳でもないのですが、まあ主要な家族がそうしているとお考え下さい」
ネーミ族に関しては、もっとも迫害が酷かった為に、結果的に長距離での移動と固定の家を持たない事を余儀なくされたと言う歴史も、裏にはあるそうだ。
「これから行くのは、ユッカス村と言う、北部地域に何千とある湖の中の一つ、ヤルビ湖畔にある小さな村なんですが、そこはユレルミ族の拠点と言いますか、年齢やケガで放牧移動の出来ないカラハティを飼育したり、同じく移動が難しい年寄りや若い子供が主に暮らしています。放牧移動中の者たちへの連絡なんかも、全て一度その村で預かる事になっているんですよ」
そして、その村にある族長の住居に〝転移扉〟の座標を合わせたと、ジーノ青年は言った。
「まあ、放牧移動で慣れた天幕で生活する人もいますし、族長の住居と言っても丸太小屋と言っても過言ではないので、そこはもう文化の違いとご理解下さい」
ちょうどそこまで話したところで、一つの部屋の前で立ち止まる。
一応、出発を見届けるとの事で、メダルド国王やミラン王太子、ナザリオギルド長らも一緒に部屋の中に足を踏み入れた。
「陛下」
中にはマリーカ・ノヴェッラ女伯爵が待機をしていて、メダルド国王に対して〝カーテシー〟の礼を軽くとった。
「うむ。起動はもう良いのか?」
「はいフォサーティ卿にご協力をいただき、先ほどつつがなく」
ノヴェッラ女伯爵の向こう側には、アンジェス国とはまた違う紋様の円陣が展開されており、仄かな光が足元を照らしていた。
「既に空間が繋がっている事も確認済みですから、私の後からそのまま歩いて来て下さって構いません」
そう言ったジーノ青年が、円陣の中央へと歩を進める。
私はと言えば、ウルリック副長からこっそり「念のためウチの将軍にエスコートして貰って下さい。スマートじゃないと思いますが、そのあたり、お館様とは比較しないで」などと囁かれ、190cm超えのベルセリウス将軍が曲げた肘に、かろうじて手を乗せている様な状態で円陣の中へと入る。
行ってらっしゃい、などとナザリオギルド長が軽く手を振る中、私も円陣の向こう側へと足を踏み入れた。
* * *
「わ……」
視界がくらりと一瞬傾いた後、視線の先に見えたのは、四角いフレーム状の丸太が組みあがる建物の中だった。
(リアルにトナカイ…あ、カラハティか。頭部の剥製壁掛けとか初めて見た……)
さすがにアレは、木彫りの熊的な、貰って困るお土産筆頭になりそうで、取引には向いていない気はする。
いや、権威主義的なお貴族様には案外ウケたりするんだろうか。
その他にも、ざっと辺りを見渡せば、カラハティの皮っぽいラグマットや、ショール、ブーツ、マグカップと言った小物があちらこちらに置かれていた。
「ああ…まあ、放牧に行けない者たちは、こう言った物を細々と売って生活しているのが実情ですよ。ですから、ユングベリ商会の販路が拓くと言うのは、良い機会だと私なんかは捉えているんですけどね」
私の視線に気付いたジーノ青年が、そんな風に説明をしてくれる。
「申し訳ありませんが、村の集会所の方まで移動して下さいますか。直接そちらに行っても良かったんですが、そちらにはハタラ族やネーミ族の方にも集まっていただく予定なので〝転移扉〟が起動している所は、あまり見せない方が良いだろうとの、陛下のご判断もあって、いったんこちらに来たのですよ。一応、帰る際もそのようにする予定ですが」
もともと〝転移扉〟は北部地域とこれまで繋がれた事はなく、最北はシェーヴォラの領主屋敷までだったらしい。
今回限りのイレギュラーと断言するためには、なるべく多くの人の目には触れない様にしておこうとの配慮があったのかも知れなかった。
「――あ、ちょっと寒い」
着いたところは、確かに山小屋風のロッジみたいな建物だった。外から見ても、印象はそう大きく中と変わらない。
ただ、集会所に向かうとの事で外に出た途端、王都とは違う冷たい風が身を取り巻いた。
「もう少ししたら、この辺り一帯、雪に埋もれるんですよ。今のうちに暖をとる薪や長期保存用の食料の確保なんかの為に、ここの住民はここの住民なりに忙しくしています。まったく、街道封鎖だなどと迷惑も甚だしい。これから冬の備えをしなくてはならない少数民族全体にとっても、本当に由々しき問題です」
だからこそ、ネーミ族もハタラ族も、危機感を覚えて駆けつけてきていると、ジーノ青年は表情を硬くしていた。
「とは言えユングベリ商会は、彼らにとっては初めて聞く商会。最初は私が説明をしますので、話を振るまでは、様子を見ていて貰っても良いですか?」
「分かりました。その……イラクシ族とは取引をしない、的な方向で?」
「ええ。恐らく今頃集会所では、いっそイラクシ族の拠点を襲撃して、無理にでも彼らを従えてしまってはどうか…と言った強硬論が出ていると思うんですよ。そこを抑えようと思えば、経済封鎖の有用性を説くしかありませんからね」
「北方遊牧民の方々は、血の気が多い方が多いんですか?」
「まあ、根は狩猟採集民族な訳ですしね。少なくはないと思いますよ」
やや苦笑交じりにジーノ青年はそう言って、少し前を歩いて行く。
「多少議論が白熱して、柄の良くない発言もあるかも知れませんが、そこはご容赦下さい。ユングベリ商会長、彼らの言語は全てお分かりなんでしょう?」
「あー…そうですね。何語を話されたとしても、多分聞き取れてしまうと思います。いえ、別に自慢するつもりは全くないんですが」
エドヴァルドとシャルリーヌ以外は知らない、私の「言語チート」機能の前には、少数民族語とて無力化される。
声のボリュームを落とさない限りは、ナイショ話は存在しえない。
乾いた笑いを洩らすしかない私に、ジーノ青年も諦めた様に嘆息した。
「我が部族の緊急用言語を理解していたくらいですし、そうだろうとは思いましたよ。まあただ、この事は他には洩らしませんから、理解を示すもわざととぼけるも、いいように活用して下さい」
「それは……有難うございます」
分からないフリをして情報を集めるのも、確かに一案ではある。
そこは場に応じて考えようと決めたところで、ちょうど集会所と思しき建物の前に到着した。
感想 1,492
あなたにおすすめの小説
【完結】王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!
6歳で幼馴染の侯爵家の次男と婚約したヴィオラ。
互いにいい関係を築いていると思っていたが、1年前に婚約者が王女の護衛に抜擢されてから雲行きが怪しくなった。儚げで可憐な王女殿下と、穏やかで見目麗しい近衛騎士が恋仲で、婚約者のヴィオラは二人の仲を邪魔するとの噂が流れていたのだ。
その噂を肯定するように、この一年、婚約者からの手紙は途絶え、この半年ほどは完全に絶縁状態だった。
それでも婚約者の両親とその兄はヴィオラの味方をしてくれ、いい関係を続けていた。
しかし17歳の誕生パーティーの日、婚約者は必ず出席するようにと言われていたパーティーを欠席し、王女の隣国訪問に護衛としてついて行ってしまった。
さすがに両親も婚約者の両親も激怒し、ヴィオラももう無理だと婚約解消を望み、程なくして婚約者有責での破棄となった。
そんな彼女に親友が、紹介したい男性がいると持ち掛けてきて…
3/23 HOTランキング女性向けで1位になれました。皆様のお陰です。ありがとうございます。
24.3.28 書籍化に伴い番外編をアップしました。
妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです
【全一話完結】
幼い頃から妹の引き立て役として生き、婚約者まで奪われて家を追放された侯爵令嬢エレナ。
傷ついた彼女が助けた青年は、身分を隠した王太子だった。
一年後、王太子妃となったエレナの前に現れたのは、今さら「家族だから」と擦り寄ってくる両親と妹。
けれど彼女は、もう二度と振り返らない。
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
「仕方ない」には疲れました ~三年続いた白い結婚を終わらせたら、辺境公爵の溺愛が待っていました~
「仕方ない」と白い結婚に耐え続けていた伯爵夫人エリス。
彼女の誕生日、夫は幼なじみのセシリアを屋敷に連れ帰り、エリスが大切にしてきた猫を彼女に見せろと言う。冷めた晩餐の前で心が折れたエリスは、ついに離縁を宣言し実家へ戻った。
彼女の薬草知識と領地経営の才は、北方を守る公爵ディートリヒが目を留める。流行り病に苦しむ公爵領を救うため奮闘するエリスは、初めて努力を認められ、大切に扱われる喜びを知っていく。一方で彼女を失った元夫の伯爵家は傾き、身勝手な幼なじみの嘘も暴かれて――。
我慢をやめた傷心令嬢が、辺境公爵に溺愛され、自分らしい幸せを選び直す逆転愛されファンタジー。
「君なら我慢できるだろう」と義妹を優先されたので、婚約を白紙にしました
伯爵令嬢アリアは、婚約者カイルとの食事の約束を二時間待たされていた。
理由は、カイルの義理の妹セレーネの体調が悪化したから。
セレーネは聖女候補で、体が弱く、国を救う力があるから仕方がない。そう言われ、アリアは何度も自分の約束を後回しにされてきた。
けれど、その日、アリアはついに告げる。
「婚約は白紙に戻しましょう」
翌日、王都の神殿では、セレーネが正式に聖女として認められるための認定式が開かれる。
アリアはいつものように補佐席へ案内されるが、そこで足を止めた。
「本日は、補佐に入りません」
これまでアリアは、正式な辞令も報酬もないまま、善意でセレーネの祈りを支えてきた。
だが、婚約を白紙にした今、彼女を支える理由はもうない。
神官たちは「一人欠けても問題ない」と式を進める。
しかし、セレーネの祈りは失敗した。
魔力供給記録を確認した第二王子レナードは、衝撃の事実を明らかにする。
セレーネの祈りのほとんどは、アリアの魔力によって支えられていたのだ。
さらに、セレーネの体調不良は嘘だった。
彼女はカイルの一番でいるために体調不良を装い、アリアとの約束の日を狙って彼を呼び出していた。
偽りの聖女候補は資格を失い、カイルもまた、アリアを軽んじ続けた責任を突きつけられる。
一方、アリアは王子レナードから正式に請われ、結界を安定させる。
力を認められたアリアに、レナードは手を差し出す。
「もしよければ、私の傍にいてくれないか?」
婚約者におざなりにされてきた少女はその日、ようやく自分だけを見てくれる人の隣に立つことになるのだった。
王妃教育を辞退したら「困る」と国王陛下が直接迎えに来ました ~婚約破棄された私に、王太子ではなく国王陛下が求婚してきます〜
【全一話完結】
王太子の心変わりによって婚約を破棄された侯爵令嬢リリアーナ。
十年以上受け続けた王妃教育も辞退し、ようやく自由になれると思っていた。
ところが数日後、侯爵家を訪れたのは国王陛下本人。
「王妃教育を辞退されると困る。私の妃になってほしい」
努力を踏みにじった王太子はすべてを失い、選ばれたのは誠実に生きてきた彼女だった。
これは、年上国王に溺愛されながら、世界一幸せな王妃になるまでの逆転ラブストーリー。