聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
383 / 785
第二部 宰相閣下の謹慎事情

460 即席鮭フレーク

しおりを挟む
 確かソテーに関しては、王都のチェーリアさんのお店にもあったように思う。
 所謂「ジビエ料理」に相当するのだろうけど、これは上にかかっている赤い果物ソースと良い、マッシュポテトで周囲を囲ってあるとはいえ、味としては癖があると言わざるを得なかった。

 赤いソースは、以前に北欧系インテリアショップのレストランで口にした、コケモモジャムにソックリ。
 あの甘さとお肉とのコラボは――正直、私は若干苦手だった。

 と言うか、ジャムはユルハ領のシーベリージャムが安定供給出来る様になれば、ちょっとしたライバル商品になってしまうし、この地域であれば、食べ慣れているコケモモジャムの方が受け入れられ易いだろうから、実際に取り扱うとなると、売り上げとして難しい面はあるかも知れない。

「あ、でも干し肉は輸入できるよね……あと、肉詰めソーセージと魚かぁ……」

 白身魚のフライなんかは、チェーリアさんのお店で出すあたりが鮮度の限界だろう。

 今食べている肉詰めソーセージは合鴨もどきらしいけど、多分それはそれで珍しくない気がするから、むしろカラハティトナカイの肉でこれが出来れば、地元料理として良い謳い文句になる気がするんだけど。

 食事がひと段落したら、肉詰めを持って来てくれたバラッキ族長にちょっと聞いてみようかな。

 鮭に関しては、スモークサーモンは鉄板品だとしても、焼くならもっと、スープに切り身を入れる以外にも――。

「あ」
「レイナさん?」

 ユレルミ族のカゼッリ族長夫人ランツァさんが、私の呟きが耳に入ったらしく、こちらを向いてくれた。
 この女性も、族長と同様にバリエンダール語はそれなりに話せるようだ。

「すみません、ちょっと実験してみても良いですか?」
「実験?」

「今ここにある材料で簡単に出来るんで、食べてみて頂いて、アリかナシか伺えたらな……と。私の住んでいた国であった料理なんですけど」

「あら、それは興味深いわ。もし、それがアリだとなれば、取引が出来るかもと言う事ね?」
「そうですね、はい」

 私は近くにいた女性陣に手伝って貰って、お代わり用のスープに入れる為に焼いてあった鮭を、小骨が入らないように少しほぐした。

「えーっと……じゃがいも……あ、バリエンダールでは『アラタロ』でしたっけ?皮つきのまま、半分に切って頂いて良いですか?」

 鮭のほぐし作業と並行して、ランツァさんにジャガイモを半分に切って貰う。

「――で、この切った断面の上にこのほぐし身を散らせて、更にチーズを乗せて、焼きます」

 手順は以上ですね、と言うと、女性陣が「まあ!」と色めき立っていた。

「そんな単純なコトで良いの⁉」

「はい。エールビールに合うおかずだったりするんですよ。私の居た国だと、お酒を出しているお店なんかに行けばメニューにありますし、一定の漁獲量がありそうなら、それなりに売り上げは見込めるんじゃないかと」

 あと、鮭フレークとチーズ入りコロッケとか、じゃがいもを細身に切ればガレット風のオムレツとか出来るとは思うけど、これは卵の存在が必須になるから、出来ればアンジェスで鮭フレーク普及の為の試食メニューとして、とっておきたいから、敢えて狩猟民族の皆さんが野営でも作りやすそうな、シンプルなこのメニューだけを伝えてみた。

 本当なら、鮭フレークならごはん!と一番に言いたいところだけれど、やっぱり立ちはだかるお米の壁。
 ごめんねシャーリー、今回も洋食メニューのお持ち帰りになりそう。いや、ウナギはあるか。

「え、これ、私達の日常食のメニューとしても全然アリよ、レイナさん!サルモは焼いてほぐすだけなのよね⁉」

 どうやらこちらでは、鮭は「サルモ」と言うらしかった。
 男性陣にも食べさせようと、お代わりになる筈だった食材が、次々とじゃがいもの鮭フレークチーズ乗せ(仮)に変貌していく。

「ああ、はい。この焼いてほぐした身を、空気が入らないよう気を付けて瓶詰すれば、結構長持ちする筈ですから、王都はおろかアンジェス国やサレステーデ国あたりなら輸出出来るかな、と」

 ガラス瓶が見た目にも売れやすいと思うものの、日本で見ていた様なアルミの蓋が存在をしない以上は、ガラス瓶の蓋をどこまで改良出来るか、これもカファロ工房の兄妹に試作して貰う事になりそうだ。

 それまでは、枡サイズくらいの木箱にピッチリと入れる形で代用するしかないかも知れない……。

「ねえ、レイナさん。これは他の魚だと難しいのかしら?」

 ランツァさんの疑問は、至極まっとうなものと言うべきで、私も何と説明をしたものが小首を傾げた。

「ん-……確かに焼いてほぐすだけなんで、出来なくはないんですけど、味がかなり淡泊になってしまうので、向いてないと言った方が良いかも知れないですね」

 日本だと鯖フレークなんてあったりするけど、あれはあれで醤油だのみりんだのが必要になってしまう。
 鱈フレークにしたとて、料理酒としての日本酒が必要。
 魚醤だと、多分味がケンカをしそうだし、白ワインで代用出来るかと聞かれると、未体験ゾーン。

 コロッケならいける?いや、でもマヨネーズもないとなると、塩コショウだけで味はつくのだろうか……出たとこ勝負だよね、うん。
 まあ来年、また山ほど公爵邸に〝スヴァレーフ〟が来たら、ラズディル料理長に頼んで鮭フレークのコロッケと一緒に試作して貰っても良いかな。

「向いてない……そう、食べられなくはないけど、美味しくも不味くもない、と……?」

「そうですね……もしどうしてもと思われるなら、各地の調味料を片っ端から入手して、試してみられても良いかも知れないですけど……」

「それならサルモの漁獲量を一定数以上確保する方が良い、と」

私個人ユングベリとしては、そう思います」

 ハズレのない、鮭フレークだけにしておきたい。
 少なくとも、いまは。

「そうね、じゃあサルモ以外は取引とは関係なく、私たちの日常の食料として成立するか、放牧の合間に気長に試してみようかしら」

「ぜひ。それで、合うと思われる組み合わせが出てきたら、私に売り込んで下さい。お待ちしてます」

「あら、サルモは作れば買い取って下さるの?」

「そのつもりです。とりあえず、アンジェス本店に持って帰って他国でも通用するか皆に食べさせたいので、今日作った分を少し分けていただけますか?」

 この場合の「皆」とは、公爵邸の皆さま方と、シャルリーヌだけど。

「え、ええ、もちろん!」

 快諾、と言った感じのランツァさんを見た私は、近くにいたシレアンさんを片手で手招きした。
「どうした――と言うか、このサルモのほぐした身の事か?」

「さすがですね」

「切り身なら料理でよく見るが、ほぐし身と言うのもめずらしい。レシピ化予定案件として、ギルドで保護すると言う事で良いのだろう?」

「はい、その方向でお願いします。あと、これもガラスの容器に入れようと思っているので、なんだかどんどんとカファロ工房への『お願い』が増えていきそうですね」

「……な、なるほど」

 シレアンさん、一見引いてますけど後からこっそり「ギルド長への土産分を……」なんて言っているのは、聞こえましたからね!
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。