聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

489 あてられて知る想い

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「えーっと……一緒に見た、かな……」

 ぐるぐると考えた末、私は潔く事実のみをサラさんに語った。
 周辺が凍り付いていると言う、その原因が既に明らかなのであれば、私が照れて否定したところで、既に無意味だからだ。

「ああ、やっぱりそうなんだね!羨ましいな、私もディとそうやって見たいものだよ!」

 視線は私の首元を見たまま、全く悪気なさげにサラさんは笑っているけど、ジーノ青年は僅かに表情かお痙攣ひきつらせていて、ラディズ青年は「サ、サラ……」と、こちらは顔を赤らめていた。

 もしもしラディズさん、何、想像しているんですか⁉︎

「ああ、ゴメンゴメン、話が逸れているよね。どうしよう、先に私とディの話からした方が良いかい?」

 サラさんは私の方を見ているけれど、こればかりは、エドヴァルドやテオドル大公を無視する訳にはいかない。
 私の視線を受けたエドヴァルドが「……何の話だ」と、聞いてくれたからには、とりあえずこちらから概略を説明する必要はありそうだった。

「あー…えーっとですね、昨日ちょっとお話していた、このお二人に共同経営者になって貰って、ユングベリ商会のサレステーデ支店を設立しようかと言う話の事じゃないかと……」

 おずおずと切り出した私に、エドヴァルドは、思い当たったと言わんばかりに眉根を寄せた。

 そうなのか?と言った感じに視線をサラさんとラディズ青年の方に向けると、二人は一度顔を見合わせてから、宰相の娘としてのキーパーソンになるサラさんの方が口を開いた。

「うん、熱が下がったところで、ディと話し合ったんだけどね。政略でも腰掛けでもなく、本気でレイナの商会に雇って貰えないかな……?」

「……え」

「いや、父が不自然に急いで帰らせようとしている事を考えるとね。このまま帰っても、私とディは引き離される気がするんだよ。ディの立場って、今、ちょっと危なっかしいんだろう?それなら、サレステーデ国内の有力貴族の後妻とか側室とかに縁付けた方が…って、多分、父は考える。良くも悪くも古いタイプの人間だからね。私がギルドカードを取得して国を出た時は、多分、誰がどの王子派なのかが読み切れていなかっただけだと思うんだ」

 なるほど、娘は娘なりに父親をよく見ていたと言う事らしい。

「ギーレンにもアンジェスにも販路があって、バリエンダールも今開拓中なんだろう?そんな商会の支店をサレステーデで任されると言うのであれば、きっと父も納得する。一介の個人商店じゃないのだから、王宮や貴族側からは手を出しにくくなる…と言うか、そんな表向きの話ばかりしていても仕方がないな。つまるところ、私がディとこの先も一緒にいたいんだ」

 ド直球なサラさんの発言に、当のラディズ青年だけじゃなく、何だかこちらまで思いきりあてられてしまった。

「今回、不甲斐なくも体調を崩してしまったからと言う訳じゃないんだけど、傍にいて欲しいのは、やっぱりディだと思ったし、ディ以外の誰かに触れられたくないと思ったし、この先年を取っても、ディの隣にいたいと思った。貴族である事なんて、それより優先される事じゃないと思ったんだよ」

「サ、サラ、頼むから、もうその辺りで……」

 ああ、うん。ラディズ青年の頭が沸騰してパンク寸前っぽいね。
 確かに、はたから聞いていると熱烈な愛の告白だもんね。

「あ…ああ、すまない。貴族の地位を捨ててでも、ユングベリ商会に所属するのか、と問われるかも知れないと思ってね。ちょっと熱くなりすぎてしまったよ」

 はは、と笑うサラさんの方が、なんだか余程オトコマエだ。

「傍にいて欲しい、他の誰かに触れられたくない、年をとっても隣にいたい――か」

 ただ私は、照れるより先に、サラさんのその言葉に肺腑を貫かれていた。
 サラさんが「レイナ?」と首を傾げている。

「ううん、大したことじゃないよ。ただ、至言だなぁ……と思って。あれこれ難しいこと考える前に、要はそう言う事なんだよね」

 だからこそシャルリーヌは、触れられたくもないし、傍にもいたくないと、ギーレンを出奔している。

(私は……)

 もしかしたら、判断基準なんて、至極単純なところにあるのかも知れない。

「ふふっ、私の話が何かレイナの役に立てそうなら、嬉しいな。それで、どうだろう。私とディは雇って貰えそうだろうか?」

「え、いやだなサラ。元々、誘ったのは私だよ?それでサラがヤル気になってくれたなら、話はそこで成立じゃない」

 パッと表情かおを輝かせたサラさんだったけど、実は話はそう単純じゃないコトも確かだ。

「まあ、と言っても、今の話はユングベリ商会のサレステーデ進出にあたっての、初歩の初歩。実際に店舗が開店するまでには、まだ山ほど関門が立ち塞がっているけどね」

「もちろん、父の説得なら私も――」

「うん、それもある。それもあるんだけど、ロサーナ家の…公爵閣下の不安定な立場を何とかしないとだし、そもそも今、サラのお父様が直面している問題のコトもあるのよ。その辺りは、それこそ一介の商人風情が何とか出来る範疇を超えちゃってるから『しかるべき方』にお願いしないと、なんだけどね?」

 そこで私がエドヴァルドやテオドル大公たちに視線を向けると、彼らはどうやら私とサラさんとの間のぶっちゃけトークに付いていけなかったらしく、それぞれが個性に応じた茫然とした表情で、そこに立ち尽くしていた。

 まあ……人さまの恋愛についての概念をアレコレ語られたって、それは彼らだって困るだろう。

 と言うか、サラさんとラディズ青年以外は、みんな困る話だった。

「エドヴァルド様」

「……ああ」

「結局、この二人は渡河でサレステーデのダルジーザ族のいる所まで向かうんですか?それとも、街道封鎖の解除を待つおつもりですか?」

 昨日までの状況なら、川越一択だっただろうけど、エドヴァルドが来て、策を授けた事で、恐らくは一両日中にイラクシ族の内紛は沈下をする。
 待とうと思えば、待てるのではないだろうか。

 多分今頃サレステーデでは、バレス宰相が一人で国政を動かしている状態で、そんなところに娘が帰っても、果たして正しい判断が下せるのだろうか。

 いっそアンジェス、バリエンダール、サレステーデ三国のどこかで会談の場を設けて、そこで会う方が良いのでは、とも思うのだけれど。

 とは言え、判断をするのは私じゃないし、そんな権利だってない。

 私はエドヴァルドが、目の前の「純愛劇場」の衝撃から立ち直るのを待った。
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