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第二部 宰相閣下の謹慎事情
500 内に潜む敵
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とりあえず「あべかわもち」もどきの痕跡も含めて、後片付けを手分けして済ませてから、エドヴァルドやテオドル大公たちの居る部屋に戻った。
えー……決して吹雪が怖くて後ろ向きになっていたとか、そう言うつもりはなかったです。……多分。
「レイナ」
部屋の中にいたエドヴァルドの目は、怒ってはいないけれども、若干半目になっている気はした。
「……ハイ」
「サレステーデでは主食と言うからには、毒ではないと言う認識で間違いはないのか?それとも、銀の採掘の時のように、対策をしないと、いつかどこかのタイミングで毒になると、そう言う話だったりするのか?」
そうか。有毒成分の蓄積が死を招く事すらあると言うのは、エドヴァルドはアルノシュトの銀山の件で既に理解がある。
花粉症なんかが、免疫機能のリミッターが外れた結果の発症だとも言われているくらいなら、あながち蕎麦アレルギーとて、似た原因である可能性はあるだろう。
花粉症と違うのは、免疫機能が成長過程である子供に出やすいと言われているところかも知れないけど、私も細かい医学知識を持っている訳じゃないので、まず、概念を理解して貰う事を優先するなら、エドヴァルドの疑問を肯定するのもアリなのかも知れなかった。
「えーっと……半分は正解、ですね。と言うのも、私の住んでいた所でも完全な原因究明はまだ出来ていなかったんです。ちなみに正解と言ったのは、大多数の人にとっては、毒ではないからです。言い方を変えれば、毒に変わってしまうキッカケが分からない、とでも」
「育てたり食べたりするのを制限するほどではない、と?」
「そうですね……割合から言うなら、食べて違和感のあった人、触ってみて痒くなったりくしゃみが出たりする人は遠ざけて下さい、と周知徹底させる方が、混乱はあまり起きないような気がしますけど」
国民食と言われるくらいに栽培され、広まっている食物なのであれば、全てを否定する事は、麻薬毒薬並みの成分が出て、証明されないと難しいかも知れない。
銀山における鉱毒の存在が周知されるまでにかかった年数を考えれば、尚更だ。
「もちろん私としては、その間に某植物園でイオタに研究して貰おうか、くらいの事は考えているんですけど」
「研究、か」
エドヴァルドは難しい表情をして、考え込んだ。
「ユングベリ商会での取り扱いは、どうするつもりだ?」
出来れば取り扱いはしたい、と私はエドヴァルドに告げた。
「知識のない商会や農家がこのまま扱い続けるよりは、こちらである程度流通をコントロールさせて、副作用が有り得る事を広める方が、結果として被害は少なくなると思うんです。研究が進んだところで、その時点での国の為政者名で周知徹底して貰うのは、どうかと」
ちょっとぼかしはしたけれど、この場合は自治領となった後でレイフ殿下名で布告してもらうのはどうか、と言う話になる。
シーグがギーレンで研究を進めたとして、彼女は表向きはユングベリ商会の従業員、イオタだ。
既に「シーグ」としては、アンジェスでサイコパス陛下様の手にかかった事になっているし、まだその設定は覆されてはいない。
元々「シーグリック」一人として扱われていた手前、リックさえ王宮にいれば、大多数の人間は不審に思わない。
ユングベリ商会のギーレン担当が、サレステーデの支店に情報を提供したとして、それは何らおかしな話にはならないのだ。
「うん。何と言っても、サレステーデの寒冷気候にも負けない、国民食みたいな物だからね。なかなか人口分を賄えるだけの代替食材を探すのも難しいと思うよ。だったら新しい食べ方を広めるのと一緒に、身体に合わない人間がいると言う話を一緒に広めた方が良いだろうね」
私は食べる事が出来るから、どうしてもそう言う言い方になるのかも知れない、とサラさんはちょっと困った表情を浮かべてはいるけれど、彼女自身も、その代替食材をすぐには挙げられないみたいだった。
そうか、と呟くエドヴァルドに、私はさっきのランツァさんの話を思い出して、慌てて追加情報を渡した。
「もしかすると、イラクシ族の族長の体調次第では、北部地域だけでもこの話は先に周知徹底出来るかも知れません」
誰かが意図的に、イラクシ族の族長の身体に合わない食事を取らせた可能性がある――と口にした時、どう言う事かと問うエドヴァルドよりも、恐らく族長と面識があるであろうジーノ青年の方が、顔色を変えていた。
「あくまで私の話を聞いたランツァさんが、もしかしたらイラクシ族の族長が倒れた原因も、そうなんじゃないか……って仰ったんです」
「ランツァ伯母上が……」
「他民族、特にイラクシ族の情報は日頃からなかなか入ってこないらしいですけど、倒れたと言う情報と一緒に、私が言った様な症状を耳にした気がする、と。ただこればかりは、ここにいたところで永遠に推測の域を出ないので、向こうの村を訪ねた時に、本人か看病をしている周囲の誰かに確認出来るか、と言う話になるんですけど」
「……それが出来るとすれば、私だけでしょうね」
イラクシ族が多少排他的であれ、王都在住のシレアンさんや他国民である他の面々では、面会すら拒絶される可能性もある。
「今、ネストレ村付近にいらっしゃる族長さん方と相談されてからでも良いと思いますし、そこはご自身で判断して下さいますか。ただちょっと余計なアドバイスをさせて頂くなら、捕らえられている姉妹の勢力以外にも、村に残った方の中に、裏切り者がいる可能性を考慮されてはいかが――と」
これは別に、私が勝手な予測を立てたワケじゃない。
あくまでランツァさんの話が噂と笑い飛ばせなかった場合に、その可能性を無視できなくなるからだ。
私ではなく、ランツァさんの話を信じるかどうか、だ。
「ジーノ、そろそろネストレ村に向かうのであろう。行くのであれば、その話を考慮するかどうかを決めてからにすべきだと思うぞ」
多分、私の言いたい事をエドヴァルドと共に察したっぽいテオドル大公が、敢えて厳しい口調でジーノ青年に問いかけた。
「……大公殿下」
ジーノ青年は、表情の選択に困る……と言った風に、しばらく唇を嚙みしめていた。
えー……決して吹雪が怖くて後ろ向きになっていたとか、そう言うつもりはなかったです。……多分。
「レイナ」
部屋の中にいたエドヴァルドの目は、怒ってはいないけれども、若干半目になっている気はした。
「……ハイ」
「サレステーデでは主食と言うからには、毒ではないと言う認識で間違いはないのか?それとも、銀の採掘の時のように、対策をしないと、いつかどこかのタイミングで毒になると、そう言う話だったりするのか?」
そうか。有毒成分の蓄積が死を招く事すらあると言うのは、エドヴァルドはアルノシュトの銀山の件で既に理解がある。
花粉症なんかが、免疫機能のリミッターが外れた結果の発症だとも言われているくらいなら、あながち蕎麦アレルギーとて、似た原因である可能性はあるだろう。
花粉症と違うのは、免疫機能が成長過程である子供に出やすいと言われているところかも知れないけど、私も細かい医学知識を持っている訳じゃないので、まず、概念を理解して貰う事を優先するなら、エドヴァルドの疑問を肯定するのもアリなのかも知れなかった。
「えーっと……半分は正解、ですね。と言うのも、私の住んでいた所でも完全な原因究明はまだ出来ていなかったんです。ちなみに正解と言ったのは、大多数の人にとっては、毒ではないからです。言い方を変えれば、毒に変わってしまうキッカケが分からない、とでも」
「育てたり食べたりするのを制限するほどではない、と?」
「そうですね……割合から言うなら、食べて違和感のあった人、触ってみて痒くなったりくしゃみが出たりする人は遠ざけて下さい、と周知徹底させる方が、混乱はあまり起きないような気がしますけど」
国民食と言われるくらいに栽培され、広まっている食物なのであれば、全てを否定する事は、麻薬毒薬並みの成分が出て、証明されないと難しいかも知れない。
銀山における鉱毒の存在が周知されるまでにかかった年数を考えれば、尚更だ。
「もちろん私としては、その間に某植物園でイオタに研究して貰おうか、くらいの事は考えているんですけど」
「研究、か」
エドヴァルドは難しい表情をして、考え込んだ。
「ユングベリ商会での取り扱いは、どうするつもりだ?」
出来れば取り扱いはしたい、と私はエドヴァルドに告げた。
「知識のない商会や農家がこのまま扱い続けるよりは、こちらである程度流通をコントロールさせて、副作用が有り得る事を広める方が、結果として被害は少なくなると思うんです。研究が進んだところで、その時点での国の為政者名で周知徹底して貰うのは、どうかと」
ちょっとぼかしはしたけれど、この場合は自治領となった後でレイフ殿下名で布告してもらうのはどうか、と言う話になる。
シーグがギーレンで研究を進めたとして、彼女は表向きはユングベリ商会の従業員、イオタだ。
既に「シーグ」としては、アンジェスでサイコパス陛下様の手にかかった事になっているし、まだその設定は覆されてはいない。
元々「シーグリック」一人として扱われていた手前、リックさえ王宮にいれば、大多数の人間は不審に思わない。
ユングベリ商会のギーレン担当が、サレステーデの支店に情報を提供したとして、それは何らおかしな話にはならないのだ。
「うん。何と言っても、サレステーデの寒冷気候にも負けない、国民食みたいな物だからね。なかなか人口分を賄えるだけの代替食材を探すのも難しいと思うよ。だったら新しい食べ方を広めるのと一緒に、身体に合わない人間がいると言う話を一緒に広めた方が良いだろうね」
私は食べる事が出来るから、どうしてもそう言う言い方になるのかも知れない、とサラさんはちょっと困った表情を浮かべてはいるけれど、彼女自身も、その代替食材をすぐには挙げられないみたいだった。
そうか、と呟くエドヴァルドに、私はさっきのランツァさんの話を思い出して、慌てて追加情報を渡した。
「もしかすると、イラクシ族の族長の体調次第では、北部地域だけでもこの話は先に周知徹底出来るかも知れません」
誰かが意図的に、イラクシ族の族長の身体に合わない食事を取らせた可能性がある――と口にした時、どう言う事かと問うエドヴァルドよりも、恐らく族長と面識があるであろうジーノ青年の方が、顔色を変えていた。
「あくまで私の話を聞いたランツァさんが、もしかしたらイラクシ族の族長が倒れた原因も、そうなんじゃないか……って仰ったんです」
「ランツァ伯母上が……」
「他民族、特にイラクシ族の情報は日頃からなかなか入ってこないらしいですけど、倒れたと言う情報と一緒に、私が言った様な症状を耳にした気がする、と。ただこればかりは、ここにいたところで永遠に推測の域を出ないので、向こうの村を訪ねた時に、本人か看病をしている周囲の誰かに確認出来るか、と言う話になるんですけど」
「……それが出来るとすれば、私だけでしょうね」
イラクシ族が多少排他的であれ、王都在住のシレアンさんや他国民である他の面々では、面会すら拒絶される可能性もある。
「今、ネストレ村付近にいらっしゃる族長さん方と相談されてからでも良いと思いますし、そこはご自身で判断して下さいますか。ただちょっと余計なアドバイスをさせて頂くなら、捕らえられている姉妹の勢力以外にも、村に残った方の中に、裏切り者がいる可能性を考慮されてはいかが――と」
これは別に、私が勝手な予測を立てたワケじゃない。
あくまでランツァさんの話が噂と笑い飛ばせなかった場合に、その可能性を無視できなくなるからだ。
私ではなく、ランツァさんの話を信じるかどうか、だ。
「ジーノ、そろそろネストレ村に向かうのであろう。行くのであれば、その話を考慮するかどうかを決めてからにすべきだと思うぞ」
多分、私の言いたい事をエドヴァルドと共に察したっぽいテオドル大公が、敢えて厳しい口調でジーノ青年に問いかけた。
「……大公殿下」
ジーノ青年は、表情の選択に困る……と言った風に、しばらく唇を嚙みしめていた。
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