聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
501 / 785
第三部 宰相閣下の婚約者

563 コンティオラ公爵は苦労人

しおりを挟む
 ・魔道具ではなく藁を使った「タタキ」に関しては、どの魚、貝柱であっても、バリエンダールで開業するユングベリ商会がレシピ化の権利を持つこととする。

 ・鮭と鱒のフレークも同様。そして完成品は、イデオン公爵領防衛軍との取引を前向きに検討(軍の金庫番である、ベルセリウス将軍の弟さんの許可が最終的には必要なため、いったん保留)。

 ・蕎麦(グレーチカ)絡みの料理に関しては、サレステーデで開業するユングベリ商会がレシピ化の権利を持つこととする。

 ・ホタテ(ジェイ)に関しては、どの調理法にせよ、アンジェス国内ではナルディーニ侯爵家を素通り出来ないため、当面、取り扱いはしないものとする。個人的に食したい場合は、マトヴェイ部長経由コンティオラ公爵に一報のこと。

 ・アヒージョ、アクアパッツァ、サンマとチーズの香草ロール巻きに関しては、他の魚でも作れる点から言って、そこまでナルディーニ侯爵家を気遣う必要はない。バリエンダールで開業するユングベリ商会がレシピ化の権利を持つ方向で検討する。

 ――と言うことで、今日の食材の取扱い方については落ち着きそうだった。

 それにしても、コンティオラ公爵様を始め、エドヴァルドもテオドル大公も随分とナルディーニ侯爵家の動向を気にするのだなと、私は内心で首を傾げた。

 サンテリ伯爵領が〝スヴァレーフ〟の産地部分のみ海に面していて、さほど漁業に力を入れていないと言うのもあるそうだけど、基本、ナルディーニ侯爵領はアンジェス国内最大の海産物の水揚げを誇る港町を領都として抱えているらしい。

 フランス・マルセイユのようなイメージかなと、私は勝手に解釈をしているけれど。

 バリエンダールほどの知名度はないにせよ、国内の市場のほとんどはナルディーニからの魚貝類と言う事になるんだそうだ。

 バリエンダールからの魚貝類は、対岸地域であるクヴィスト公爵領下の領地に多少は流れていても、バリエンダールと言う国の大きさから言って、あちらの魚貝類はほぼ地産地消と言うのが今の現状らしかった。

「その、ナルディーニ侯爵家とは折り合いが悪いんですか?」

 何気ない私の問いかけに、何故かエドヴァルドは顔をしかめ、テオドル大公は「ああ……」と、困ったような声と共に右手の人差し指で自分の頬をかいた。

 そして二人ともの視線が、コンティオラ公爵の方へと向けられる。

「いや……その、まあ……」

 ただ、歯切れの悪いコンティオラ公爵の声となると、もう、壊滅的に聞き取れない。

 これはもう諦めた方が良いだろうかと思ったそこへ「閣下」と、マトヴェイ部長の救いの手ならぬ声がかかった。

「閣下さえ宜しければ、私が二人のご令嬢に説明をさせて頂きますが」

「…………」

「このお二人は、近未来の公爵夫人と聖女になられるのでしょう?であれば、ここで話さなかったとしても、いずれ必ず耳に入る時が来ましょう。その際、歪んだ伝わり方がしないよう、今のうちにに詳らかにしておくべきと思いますが」

「…………」

 返事の代わりに、コンティオラ公爵はガックリと項垂れている。

 どうやらそれを肯定と受け取ったらしいマトヴェイ部長が、私とシャルリーヌの方を向いて簡単に説明をしてくれた。

「まあ、この際だから言葉を飾らずに言うとだね、母娘おやこ二代に渡る縁組の不成立による関係悪化。これに尽きるんだよ」

 ヒルダ・コンティオラ公爵夫人は、実家は領内のエモニエ侯爵家。若い頃はかなりの美人さんだったそうで、縁談も引く手あまたの状態だったらしい。

 ただしヒルダ夫人が適齢期だった頃は、先代国王も先々代国王も健在。
 先代エモニエ侯爵は、娘を王室に縁づかせることよりも、いずれ王室の醜聞に自家が巻き込まれることを恐れて、早々に先代コンティオラ公爵に娘を売り込んだのだそうだ。

 ある意味、先見の明がある侯爵だったと言うべきかも知れない。

 当時のヒルダ夫人には、ナルディーニ侯爵家からの縁談もあったところが、ナルディーニ侯爵令息の女性関係がかなり派手だったこと、先代コンティオラ公爵がエモニエ侯爵からの根回しを受け入れたこととがあり、最終的に夫人はコンティオラ公爵家に嫁いだ。

 その後時を経てそれぞれの子どもの代になり、コンティオラ公爵家が一人娘だった時期が続いた後に、嫡嗣となる男児が誕生。そのため再び、娘の縁組にスポットが当たることになる。

 ヒルダ夫人似の娘・マリセラ嬢を見たナルディーニ侯爵家は「今代こそ」と縁組を持ちかけたものの、何と今度は、娘は公式行事で遠目に見たエドヴァルドに一目惚れ。ナルディーニ侯爵家からの縁談など、相手の為人ひととなりも聞かず、一刀両断。

 エドヴァルドは完全なる塩対応で、マリセラ嬢本人やヒルダ夫人が何度話を持ちかけようとしても取り付く島もない状態で、途中からは「そろそろ諦めれば良いのに」と言う空気が社交界の中では蔓延していたんだそうだ。

 当然「そろそろ諦めれば」と思っていた中には、ナルディーニ侯爵家も含まれる。

 ヒルダ夫人に選ばれなかったナルディーニ侯爵、娘の視界にも入れない令息。
 ここ最近は、社交界で顔を合わせる度にギスギスとした空気が周囲に満ちていたらしかった。

「えーっと……その、父である侯爵様はともかく、息子さんの方も評判が悪いんですか……?」

 女性関係が派手だったと言う父親を反面教師にした息子なら、まだ関係改善は望めそうなのに。

 そう聞いた私と、隣で頷くシャルリーヌに、マトヴェイ部長はとても残念そうに首を縦に振ったのだった。

「残念ながら、見た目も中身も侯爵そっくりでね。なまじマリセラ嬢が平均以上の容貌をお持ちなものだから、隣に侍らせたいとの欲が父子二代にわたって押さえられないらしい」

「うわぁ……」

 それは、とても残念だ。

 息子はまだ未知数らしいけど、ナルディーニ侯爵自身は、派手過ぎる女性関係を除けば、領地の経営者としてはそれなりに優秀な人らしく、国内最大の海産物取り扱い領地として、黒字経営を続けているらしく、対応に苦慮せざるを得ないらしい。

「なるほど〝ジェイほたて〟の話を持ち掛ければ、洩れなく娘さんの縁談話を掘り起こされる可能性大ってコトなんですね……」

 口にはしなかったけど、ちょっと同情的空気がコンティオラ公爵様には伝染してしまったっぽい。

 テーブルに肘を乗せて、しばらく頭を抱えていた。










*********************

「聖女の姉ですが、国外逃亡します!」

⇒聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

改題、発売となる書籍の予約受付が始まりました!

詳しくは近況ボードをご覧下さいませm(_ _)m
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。