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第三部 宰相閣下の婚約者
563 コンティオラ公爵は苦労人
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・魔道具ではなく藁を使った「タタキ」に関しては、どの魚、貝柱であっても、バリエンダールで開業するユングベリ商会がレシピ化の権利を持つこととする。
・鮭と鱒のフレークも同様。そして完成品は、イデオン公爵領防衛軍との取引を前向きに検討(軍の金庫番である、ベルセリウス将軍の弟さんの許可が最終的には必要なため、いったん保留)。
・蕎麦(グレーチカ)絡みの料理に関しては、サレステーデで開業するユングベリ商会がレシピ化の権利を持つこととする。
・ホタテ(ジェイ)に関しては、どの調理法にせよ、アンジェス国内ではナルディーニ侯爵家を素通り出来ないため、当面、取り扱いはしないものとする。個人的に食したい場合は、マトヴェイ部長経由コンティオラ公爵に一報のこと。
・アヒージョ、アクアパッツァ、サンマとチーズの香草ロール巻きに関しては、他の魚でも作れる点から言って、そこまでナルディーニ侯爵家を気遣う必要はない。バリエンダールで開業するユングベリ商会がレシピ化の権利を持つ方向で検討する。
――と言うことで、今日の食材の取扱い方については落ち着きそうだった。
それにしても、コンティオラ公爵様を始め、エドヴァルドもテオドル大公も随分とナルディーニ侯爵家の動向を気にするのだなと、私は内心で首を傾げた。
サンテリ伯爵領が〝スヴァレーフ〟の産地部分のみ海に面していて、さほど漁業に力を入れていないと言うのもあるそうだけど、基本、ナルディーニ侯爵領はアンジェス国内最大の海産物の水揚げを誇る港町を領都として抱えているらしい。
フランス・マルセイユのようなイメージかなと、私は勝手に解釈をしているけれど。
バリエンダールほどの知名度はないにせよ、国内の市場のほとんどはナルディーニからの魚貝類と言う事になるんだそうだ。
バリエンダールからの魚貝類は、対岸地域であるクヴィスト公爵領下の領地に多少は流れていても、バリエンダールと言う国の大きさから言って、あちらの魚貝類はほぼ地産地消と言うのが今の現状らしかった。
「その、ナルディーニ侯爵家とは折り合いが悪いんですか?」
何気ない私の問いかけに、何故かエドヴァルドは顔を顰め、テオドル大公は「ああ……」と、困ったような声と共に右手の人差し指で自分の頬をかいた。
そして二人ともの視線が、コンティオラ公爵の方へと向けられる。
「いや……その、まあ……」
ただ、歯切れの悪いコンティオラ公爵の声となると、もう、壊滅的に聞き取れない。
これはもう諦めた方が良いだろうかと思ったそこへ「閣下」と、マトヴェイ部長の救いの手ならぬ声がかかった。
「閣下さえ宜しければ、私が二人のご令嬢に説明をさせて頂きますが」
「…………」
「このお二人は、近未来の公爵夫人と聖女になられるのでしょう?であれば、ここで話さなかったとしても、いずれ必ず耳に入る時が来ましょう。その際、歪んだ伝わり方がしないよう、今のうちにに詳らかにしておくべきと思いますが」
「…………」
返事の代わりに、コンティオラ公爵はガックリと項垂れている。
どうやらそれを肯定と受け取ったらしいマトヴェイ部長が、私とシャルリーヌの方を向いて簡単に説明をしてくれた。
「まあ、この際だから言葉を飾らずに言うとだね、母娘二代に渡る縁組の不成立による関係悪化。これに尽きるんだよ」
ヒルダ・コンティオラ公爵夫人は、実家は領内のエモニエ侯爵家。若い頃はかなりの美人さんだったそうで、縁談も引く手あまたの状態だったらしい。
ただしヒルダ夫人が適齢期だった頃は、先代国王も先々代国王も健在。
先代エモニエ侯爵は、娘を王室に縁づかせることよりも、いずれ王室の醜聞に自家が巻き込まれることを恐れて、早々に先代コンティオラ公爵に娘を売り込んだのだそうだ。
ある意味、先見の明がある侯爵だったと言うべきかも知れない。
当時のヒルダ夫人には、ナルディーニ侯爵家からの縁談もあったところが、ナルディーニ侯爵令息の女性関係がかなり派手だったこと、先代コンティオラ公爵がエモニエ侯爵からの根回しを受け入れたこととがあり、最終的に夫人はコンティオラ公爵家に嫁いだ。
その後時を経てそれぞれの子どもの代になり、コンティオラ公爵家が一人娘だった時期が続いた後に、嫡嗣となる男児が誕生。そのため再び、娘の縁組にスポットが当たることになる。
ヒルダ夫人似の娘・マリセラ嬢を見たナルディーニ侯爵家は「今代こそ」と縁組を持ちかけたものの、何と今度は、娘は公式行事で遠目に見たエドヴァルドに一目惚れ。ナルディーニ侯爵家からの縁談など、相手の為人も聞かず、一刀両断。
エドヴァルドは完全なる塩対応で、マリセラ嬢本人やヒルダ夫人が何度話を持ちかけようとしても取り付く島もない状態で、途中からは「そろそろ諦めれば良いのに」と言う空気が社交界の中では蔓延していたんだそうだ。
当然「そろそろ諦めれば」と思っていた中には、ナルディーニ侯爵家も含まれる。
ヒルダ夫人に選ばれなかったナルディーニ侯爵、娘の視界にも入れない令息。
ここ最近は、社交界で顔を合わせる度にギスギスとした空気が周囲に満ちていたらしかった。
「えーっと……その、父である侯爵様はともかく、息子さんの方も評判が悪いんですか……?」
女性関係が派手だったと言う父親を反面教師にした息子なら、まだ関係改善は望めそうなのに。
そう聞いた私と、隣で頷くシャルリーヌに、マトヴェイ部長はとても残念そうに首を縦に振ったのだった。
「残念ながら、見た目も中身も侯爵そっくりでね。なまじマリセラ嬢が平均以上の容貌をお持ちなものだから、隣に侍らせたいとの欲が父子二代にわたって押さえられないらしい」
「うわぁ……」
それは、とても残念だ。
息子はまだ未知数らしいけど、ナルディーニ侯爵自身は、派手過ぎる女性関係を除けば、領地の経営者としてはそれなりに優秀な人らしく、国内最大の海産物取り扱い領地として、黒字経営を続けているらしく、対応に苦慮せざるを得ないらしい。
「なるほど〝ジェイ〟の話を持ち掛ければ、洩れなく娘さんの縁談話を掘り起こされる可能性大ってコトなんですね……」
口にはしなかったけど、ちょっと同情的空気がコンティオラ公爵様には伝染してしまったっぽい。
テーブルに肘を乗せて、しばらく頭を抱えていた。
*********************
「聖女の姉ですが、国外逃亡します!」
⇒聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?
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それにしても、コンティオラ公爵様を始め、エドヴァルドもテオドル大公も随分とナルディーニ侯爵家の動向を気にするのだなと、私は内心で首を傾げた。
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「いや……その、まあ……」
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ヒルダ・コンティオラ公爵夫人は、実家は領内のエモニエ侯爵家。若い頃はかなりの美人さんだったそうで、縁談も引く手あまたの状態だったらしい。
ただしヒルダ夫人が適齢期だった頃は、先代国王も先々代国王も健在。
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そう聞いた私と、隣で頷くシャルリーヌに、マトヴェイ部長はとても残念そうに首を縦に振ったのだった。
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