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第三部 宰相閣下の婚約者
589 緊急取調室 in 王都商業ギルド(前)
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王都商業ギルドの二階には、ギルド長室の他に副ギルド長室、会議室に待合室なんかがあるとのことで、案内された部屋は、本来であればギルド長あるいは副ギルド長との面会待ちの人間が一時的に待機をする部屋だった。
それを臨時に使わせて貰っているのだ。
ギルド内で浮きまくるエリィ義母様の存在をどうにか隠すためには、ここしかないと言う絶妙の措置だと言えた。
エドヴァルドと来た時には、ギルド長室にすぐさま通されると言う状況だったために、この部屋を利用する必要がなかったに違いない。
さて、何人くらいの順番待ちだろうかと思っていたそこへ、入口とは異なる扉からのノック音が、耳を打った。
「?」
気のせいだろうかと首を傾げていると、部屋の奥にあった扉がそっと開けられて「ユングベリ商会長、いるかい?」と、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「えっ……リーリャギルド長⁉」
「なんだい、意外そうな顔をして。実店舗登録もして、今やひとつの商会の長なんだから、いつまでも『お嬢さん』呼びもないだろうよ」
「え、いや……と言うか、まさかギルド長の方からこちらに来られると思わなくて」
あくまで今日は不動産関連窓口に来ているのだ。
ギルド長と話をする予定は、少なくともこちらにはなかった。
そこまで言わずとも、表情から察したんだろう。リーリャギルド長は「ああ」と微笑った。
「心配せずとも特別扱いはしないさ。不動産関連の手続きは、順番が来たら案内させるよ。ただ、今はそれまでにちょっと話がしたくてね。待ち時間中の世間話とでも思ってくれるかい」
「……なるほど」
待ち時間中の世間話と言うことは、聞かないと言う選択肢がないと言うことだ。
早々に辞退を諦めた私が、リーリャギルド長の席を空けようと身体を浮かせたところ、リーリャギルド長が「ああ、ちょい待ち」と私の動きに待ったをかけた。
「とりあえず、黙ってアタシと部屋を移動してくれるかい。ユングベリ商会長にもぜひ聞いて欲しい話があってね」
「え……ここじゃダメなんですか?」
私はともかく、エリィ義母様をあまり移動させたくはない。
そう思ったものの、リーリャギルド長は難しいと言わんばかりに眉を顰めた。
「今まさに副ギルド長室で交わされている会話について、でね。向こうの部屋に行けば、少し扉を開ければ会話が聞き取れるのさ」
「ギルド長……さすがにそれは……」
王都商業ギルド長たるもの、盗み聞き推奨とはこれ如何に。
思わず半目になる私に、入って来た扉とは逆の方向にある扉を指しながら、リーリャギルド長が首を横に振った。
「いいんだ。これはついさっき、ギルド長権限で事件性ありと判断して、自警団と王都警備隊に情報を共有させることが決まった話なんだ。つまりはある程度、ギルドに属する商人たちにもこれから周知させていくことになる。アンタはそれをほんの少し、早く聞くだけの話さ」
「……王都警備隊?」
ギルド長の言葉に、どうしてかエリィ義母様がピクリと反応を見せた。
「お義母様?」
「レイナちゃん。こちらのギルド長様が良いと仰るのであれば、その会話とやらを聞かせて頂きましょう」
「え」
私はフォルシアン公爵家の立場を考えて気を遣ったつもりが、思いがけずエリィ義母様の方から前のめりな答えが返ってきた。
「レイナちゃん、貴女のお義父様は国の軍務・刑務を束ねる立場の方です。王都警備隊案件になると言うことは、いずれその耳に届く話となります。貴女は商会長としての立場だけではなく、我が家の義娘としても、話を聞く必要があるのですよ」
あ、と私は軽く目を瞠った。
確かにフォルシアン公爵家は、司法・公安を束ねるイデオン公爵家とは異なり、国の軍務・刑務を任されていると聞く。
王都警備隊となれば、最終的な監督責任はフォルシアン公爵家が背負う事になるのか……。
「いつの間に商会長に両親が出来たのやら、気にはなるが、今は後回しだね。とりあえず向こうの部屋に行こうか」
気になる、と言った表情を見せながらも、リーリャギルド長も当面の目的を優先したようだ。
断る理由もなくなった私は、同行して部屋を移動することにした。
最初に案内されていた部屋の、隣の部屋は、会議の為の部屋と言うことだった。
そのもう一部屋向こうが、アズレート副ギルド長の執務室と言うことになるわけだけれども。
「――では、ラヴォリ商会の商会長代理の許可を得て、色々と尋ねさせて貰うが良いか」
「!」
隙間の空いた扉の向こうから、アズレート副ギルド長のそんな声が洩れ聞こえてきた。
「は……はい……私で分かることでしたら……」
恐らくは会話の相手と思われる男性の声も同じように聞こえる。
何やら事情聴取に似た状況が発生しようとしていた。
それを臨時に使わせて貰っているのだ。
ギルド内で浮きまくるエリィ義母様の存在をどうにか隠すためには、ここしかないと言う絶妙の措置だと言えた。
エドヴァルドと来た時には、ギルド長室にすぐさま通されると言う状況だったために、この部屋を利用する必要がなかったに違いない。
さて、何人くらいの順番待ちだろうかと思っていたそこへ、入口とは異なる扉からのノック音が、耳を打った。
「?」
気のせいだろうかと首を傾げていると、部屋の奥にあった扉がそっと開けられて「ユングベリ商会長、いるかい?」と、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「えっ……リーリャギルド長⁉」
「なんだい、意外そうな顔をして。実店舗登録もして、今やひとつの商会の長なんだから、いつまでも『お嬢さん』呼びもないだろうよ」
「え、いや……と言うか、まさかギルド長の方からこちらに来られると思わなくて」
あくまで今日は不動産関連窓口に来ているのだ。
ギルド長と話をする予定は、少なくともこちらにはなかった。
そこまで言わずとも、表情から察したんだろう。リーリャギルド長は「ああ」と微笑った。
「心配せずとも特別扱いはしないさ。不動産関連の手続きは、順番が来たら案内させるよ。ただ、今はそれまでにちょっと話がしたくてね。待ち時間中の世間話とでも思ってくれるかい」
「……なるほど」
待ち時間中の世間話と言うことは、聞かないと言う選択肢がないと言うことだ。
早々に辞退を諦めた私が、リーリャギルド長の席を空けようと身体を浮かせたところ、リーリャギルド長が「ああ、ちょい待ち」と私の動きに待ったをかけた。
「とりあえず、黙ってアタシと部屋を移動してくれるかい。ユングベリ商会長にもぜひ聞いて欲しい話があってね」
「え……ここじゃダメなんですか?」
私はともかく、エリィ義母様をあまり移動させたくはない。
そう思ったものの、リーリャギルド長は難しいと言わんばかりに眉を顰めた。
「今まさに副ギルド長室で交わされている会話について、でね。向こうの部屋に行けば、少し扉を開ければ会話が聞き取れるのさ」
「ギルド長……さすがにそれは……」
王都商業ギルド長たるもの、盗み聞き推奨とはこれ如何に。
思わず半目になる私に、入って来た扉とは逆の方向にある扉を指しながら、リーリャギルド長が首を横に振った。
「いいんだ。これはついさっき、ギルド長権限で事件性ありと判断して、自警団と王都警備隊に情報を共有させることが決まった話なんだ。つまりはある程度、ギルドに属する商人たちにもこれから周知させていくことになる。アンタはそれをほんの少し、早く聞くだけの話さ」
「……王都警備隊?」
ギルド長の言葉に、どうしてかエリィ義母様がピクリと反応を見せた。
「お義母様?」
「レイナちゃん。こちらのギルド長様が良いと仰るのであれば、その会話とやらを聞かせて頂きましょう」
「え」
私はフォルシアン公爵家の立場を考えて気を遣ったつもりが、思いがけずエリィ義母様の方から前のめりな答えが返ってきた。
「レイナちゃん、貴女のお義父様は国の軍務・刑務を束ねる立場の方です。王都警備隊案件になると言うことは、いずれその耳に届く話となります。貴女は商会長としての立場だけではなく、我が家の義娘としても、話を聞く必要があるのですよ」
あ、と私は軽く目を瞠った。
確かにフォルシアン公爵家は、司法・公安を束ねるイデオン公爵家とは異なり、国の軍務・刑務を任されていると聞く。
王都警備隊となれば、最終的な監督責任はフォルシアン公爵家が背負う事になるのか……。
「いつの間に商会長に両親が出来たのやら、気にはなるが、今は後回しだね。とりあえず向こうの部屋に行こうか」
気になる、と言った表情を見せながらも、リーリャギルド長も当面の目的を優先したようだ。
断る理由もなくなった私は、同行して部屋を移動することにした。
最初に案内されていた部屋の、隣の部屋は、会議の為の部屋と言うことだった。
そのもう一部屋向こうが、アズレート副ギルド長の執務室と言うことになるわけだけれども。
「――では、ラヴォリ商会の商会長代理の許可を得て、色々と尋ねさせて貰うが良いか」
「!」
隙間の空いた扉の向こうから、アズレート副ギルド長のそんな声が洩れ聞こえてきた。
「は……はい……私で分かることでしたら……」
恐らくは会話の相手と思われる男性の声も同じように聞こえる。
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