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第三部 宰相閣下の婚約者
625 絶対零度の晩餐会~応接間から食堂へ~
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現時点で公爵サマ方は、三国会談関連の仕事を中断している状態で、この場にいると言うことになる。
「ユセフも戻って来たことだし、食堂に移動してしまおうか」
と、邸宅の主であるイル義父様が言えば、それはもう決定事項なのだ。
元より今回、間違っても歓談だ交流だと集まっている訳じゃない。
「レイナ……」
「……っ!?」
エドヴァルドが席を立つタイミングに合わせようとしたら、何故か一番最後になってしまい、フォルシアン家、コンティオラ家と応接間を出たところで、そのまますっぽりと抱きすくめられてしまった。
なんか、ギーレンでもこんなコトがあったような――⁉
「エドヴァルド様……っ」
「もう少し……いや、もっと……私を頼ってくれないか……?」
ここ、人ん家です……っと言いかけるよりも早く、切なげなその声に、私はピシリと固まってしまった。
「で、でも今は……っ」
「私は……目の前のひとつのことしか処理出来ない男ではないつもりなんだが……」
世の平々凡々な官吏のほとんどを敵に回すようなコトを、真顔でエドヴァルドは言う。
「貴女が何処かに行くたび、何かに巻き込まれてはいないか、その身に危険は及ばないのか……不安で仕方がない。事後報告が一番堪える……」
「私は……ただ……」
「分かっている。分かっているんだ。だからただ、私の門戸はいつでも貴女の為に、貴女の為だけに開いていると――覚えておいて欲しい」
私の妻になるのだから――。
最後、グッと声を落として囁かれたセリフに、私は赤面した。
そして私が何かを言う前に、エドヴァルドの唇が私の唇の上を軽く掠めた。
「!」
それ以上、深い口づけにならなかったのは、どこか頭の片隅にでも、ここがイデオン公爵邸ではないとブレーキが効いたんだろうか。
至近距離で、エドヴァルドの視線が、じっと私を捉えた。
「……コンティオラ邸に、ちゃんと〝鷹の眼〟は配してあるんだな?」
「えっと……ファルコに頼んだから、多分……」
「現行犯を押さえる場に、貴女は近付かないんだな?」
「別室待機のつもりで……」
「全て片付いたら、ここではなく、イデオン邸で私と過ごしてくれるな?」
「…………」
あれ、どさくさまぎれに違う話が入ってる?
あれ、ここは頷くところ?一択?
「レイナ」
「…………ハイ」
どうやら、頷く以外の選択肢は存在しないみたいです。
首を縦に振ったところで、エドヴァルドはようやく「行こうか」と、少し身体を離してエスコートの手を差し出した。
「……あの、皆さんもう食堂に行っちゃってますけど」
「他の公爵家と違って、フォルシアン邸であれば昔から何度も出入りをしていたから、よく分かっている。迎えも案内も必要ない」
なるほど昔からイル義父様は、親を亡くしたエドヴァルドにあれこれ構っていたんだろう。
エドヴァルドはまるで迷うことなく、フォルシアン公爵邸の食堂に足を踏み入れていた。
* * *
「今日はね、こんな予定じゃなかったから、厨房にはレイナちゃんの好物と聞いた品物ばかりを揃えさせてしまったのよね……」
食堂のテーブルに並べられた料理を見ながら、エリィ義母様が片手を頬にあてて小首を傾げて見せた。
「……もとより我らは招かれざる客と心得る。気にしないで欲しい」
と言うようなことを小声で囁いた?のは、コンティオラ公爵だけど、ちょっと顔色が良くない。
ただそんな話が出ていたなんて私も知らなかったし、エリィ義母様も純粋に私が好きだと聞いたから――と言う話だったにせよ、今、ホタテ料理と言うのはどうにも皮肉のスパイスが効きすぎている気がした。
エリィ義母様曰く、今日は意図していないと言うことらしいけど。
「お肉と〝スヴァレーフ〟に関しては、出来ればフォルシアン領の物を食べて貰いたかったから、イデオン邸で食べている物とは少し違うと思うのだけれど」
ホタテはもちろん、どうやらお肉も好きそうだと聞いたものの、ハーグルンドの牛肉は手に入らないため、フォルシアン公爵領下ヘリット伯爵領の豚肉を。
ジャガイモはヒュープ伯爵領を中心に栽培されている「デザレイ」と言う、別の品種のジャガイモを仕入れたと言うことだった。
アサリの代わりにホタテが入っていると思しきクラムチャウダー風スープ、豚ロースを使ったっぽいポークピカタ温野菜添えに、白身魚とデザレイのグラタン。
なるほど〝デザレイ〟は〝スヴァレーフ〟に比べると、身はやや硬めながら食感は滑らか――な気がする。
茹でても崩れにくいそうだから、グラタン料理に重宝されている、と言うことらしい。
デザートは一口サイズの固形のチョコレートと、お馴染み?チョコレートドリンク。
エドヴァルドから、私が好んで食べていた物をリサーチして、プラスでフォルシアン公爵領の農作物も混ぜました――と言う意図でのメニューだったらしい。
慣れないフォルシアン公爵邸で過ごすのだから、新たにインスピレーションが沸くかも知れないメニューや、特許権が絡んで気を遣う様なメニューは避けて、食べ慣れた物を……と、その時にエドヴァルドは言ったんだそうだ。
そんな風に料理の説明を受けながら、途中までは食事が進んでいたんだけれど、ある程度それぞれのお皿にあった料理が減ったところで「……さて」と、邸宅の主であるイル義父様が口火を切った。
「さっき話が途中になったけど、邸宅に詐欺集団を招き入れて、コンティオラ公爵令嬢を囮に投資の現金を渡したところで現行犯逮捕――この作戦は、邸宅の主も承認した、と言うことで良いのかな」
コンティオラ公爵、と話しかけらたところで、公爵の肩がピクリと動いた。
「ユセフも戻って来たことだし、食堂に移動してしまおうか」
と、邸宅の主であるイル義父様が言えば、それはもう決定事項なのだ。
元より今回、間違っても歓談だ交流だと集まっている訳じゃない。
「レイナ……」
「……っ!?」
エドヴァルドが席を立つタイミングに合わせようとしたら、何故か一番最後になってしまい、フォルシアン家、コンティオラ家と応接間を出たところで、そのまますっぽりと抱きすくめられてしまった。
なんか、ギーレンでもこんなコトがあったような――⁉
「エドヴァルド様……っ」
「もう少し……いや、もっと……私を頼ってくれないか……?」
ここ、人ん家です……っと言いかけるよりも早く、切なげなその声に、私はピシリと固まってしまった。
「で、でも今は……っ」
「私は……目の前のひとつのことしか処理出来ない男ではないつもりなんだが……」
世の平々凡々な官吏のほとんどを敵に回すようなコトを、真顔でエドヴァルドは言う。
「貴女が何処かに行くたび、何かに巻き込まれてはいないか、その身に危険は及ばないのか……不安で仕方がない。事後報告が一番堪える……」
「私は……ただ……」
「分かっている。分かっているんだ。だからただ、私の門戸はいつでも貴女の為に、貴女の為だけに開いていると――覚えておいて欲しい」
私の妻になるのだから――。
最後、グッと声を落として囁かれたセリフに、私は赤面した。
そして私が何かを言う前に、エドヴァルドの唇が私の唇の上を軽く掠めた。
「!」
それ以上、深い口づけにならなかったのは、どこか頭の片隅にでも、ここがイデオン公爵邸ではないとブレーキが効いたんだろうか。
至近距離で、エドヴァルドの視線が、じっと私を捉えた。
「……コンティオラ邸に、ちゃんと〝鷹の眼〟は配してあるんだな?」
「えっと……ファルコに頼んだから、多分……」
「現行犯を押さえる場に、貴女は近付かないんだな?」
「別室待機のつもりで……」
「全て片付いたら、ここではなく、イデオン邸で私と過ごしてくれるな?」
「…………」
あれ、どさくさまぎれに違う話が入ってる?
あれ、ここは頷くところ?一択?
「レイナ」
「…………ハイ」
どうやら、頷く以外の選択肢は存在しないみたいです。
首を縦に振ったところで、エドヴァルドはようやく「行こうか」と、少し身体を離してエスコートの手を差し出した。
「……あの、皆さんもう食堂に行っちゃってますけど」
「他の公爵家と違って、フォルシアン邸であれば昔から何度も出入りをしていたから、よく分かっている。迎えも案内も必要ない」
なるほど昔からイル義父様は、親を亡くしたエドヴァルドにあれこれ構っていたんだろう。
エドヴァルドはまるで迷うことなく、フォルシアン公爵邸の食堂に足を踏み入れていた。
* * *
「今日はね、こんな予定じゃなかったから、厨房にはレイナちゃんの好物と聞いた品物ばかりを揃えさせてしまったのよね……」
食堂のテーブルに並べられた料理を見ながら、エリィ義母様が片手を頬にあてて小首を傾げて見せた。
「……もとより我らは招かれざる客と心得る。気にしないで欲しい」
と言うようなことを小声で囁いた?のは、コンティオラ公爵だけど、ちょっと顔色が良くない。
ただそんな話が出ていたなんて私も知らなかったし、エリィ義母様も純粋に私が好きだと聞いたから――と言う話だったにせよ、今、ホタテ料理と言うのはどうにも皮肉のスパイスが効きすぎている気がした。
エリィ義母様曰く、今日は意図していないと言うことらしいけど。
「お肉と〝スヴァレーフ〟に関しては、出来ればフォルシアン領の物を食べて貰いたかったから、イデオン邸で食べている物とは少し違うと思うのだけれど」
ホタテはもちろん、どうやらお肉も好きそうだと聞いたものの、ハーグルンドの牛肉は手に入らないため、フォルシアン公爵領下ヘリット伯爵領の豚肉を。
ジャガイモはヒュープ伯爵領を中心に栽培されている「デザレイ」と言う、別の品種のジャガイモを仕入れたと言うことだった。
アサリの代わりにホタテが入っていると思しきクラムチャウダー風スープ、豚ロースを使ったっぽいポークピカタ温野菜添えに、白身魚とデザレイのグラタン。
なるほど〝デザレイ〟は〝スヴァレーフ〟に比べると、身はやや硬めながら食感は滑らか――な気がする。
茹でても崩れにくいそうだから、グラタン料理に重宝されている、と言うことらしい。
デザートは一口サイズの固形のチョコレートと、お馴染み?チョコレートドリンク。
エドヴァルドから、私が好んで食べていた物をリサーチして、プラスでフォルシアン公爵領の農作物も混ぜました――と言う意図でのメニューだったらしい。
慣れないフォルシアン公爵邸で過ごすのだから、新たにインスピレーションが沸くかも知れないメニューや、特許権が絡んで気を遣う様なメニューは避けて、食べ慣れた物を……と、その時にエドヴァルドは言ったんだそうだ。
そんな風に料理の説明を受けながら、途中までは食事が進んでいたんだけれど、ある程度それぞれのお皿にあった料理が減ったところで「……さて」と、邸宅の主であるイル義父様が口火を切った。
「さっき話が途中になったけど、邸宅に詐欺集団を招き入れて、コンティオラ公爵令嬢を囮に投資の現金を渡したところで現行犯逮捕――この作戦は、邸宅の主も承認した、と言うことで良いのかな」
コンティオラ公爵、と話しかけらたところで、公爵の肩がピクリと動いた。
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