聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
679 / 785
第三部 宰相閣下の婚約者

720 ハイテンションな大人たち

しおりを挟む
 人数に見合った広間がなかったため、夜会やロッピアが開かれる大広間「軍神デュールの間」を、魔道具の実験も兼ねて認識阻害装置で仕切ってみよう――。

 確かそんな話になっていたんだったか。

 魔力ゼロ、認識阻害装置の方を認識できない私の場合どうなるんだろうと思いながら、エドヴァルドのエスコートで「軍神デュールの間」に足を踏み入れる。

「レイナ。……どこでこの広間が区切られているか分かるか?」

 エドヴァルドがそう聞いてくるからには、既にこの部屋には仕切りとしての壁が存在していると言うことなんだろうけど、もちろん私にはそんな壁は認識出来ない。

 問われて視線だけ動かしてみれば、部屋の真ん中よりは少し広めの空間を使う形で、長テーブルではなく丸テーブルが互い違いに並べられていて、各丸テーブルに5~6人分の椅子が置かれていた。

 丸テーブルのない空間には幾つか角型の足の長いテーブルがあって、そこにはこの後途中で出すと推測される軽食や茶器が置かれていて、準備が慌ただしく行われているのが見えた。

 さながら、バックヤードの見えるレストラン、即席の厨房のようだ。

 ただ、よく見れば丸テーブルがない空間、手前と奥と両方の壁際にだけ、区切りを細やかに主張する衝立があって、その衝立同士を結ぶように、等間隔に地面にが並べられていた。

 私は目を細めてそれらを確認して、うっかり「えっ」とも「げっ」とも受け取れる、淑女らしからぬ声を溢しそうになった。

「ええっと……まさかとは思いますが、両端にだけ衝立を置いて、間に害獣避けの罠を点々と置いたりなんかしたりして……」

 エドヴァルドから返って来たのは、真っ暗な沈黙だった。

「えぇぇ……」

 どうやらエドヴァルド自身は途中で一度会場の確認に行き、管理部の術者たちが何人も集まって、嬉々として設営に取り掛かっていた瞬間を目撃していたらしい。

 ――そして、最終的には全て「見なかった」ことにしてその場を後にしていた。

「どのみち忖度てかげんが必要な参加者などいやしないのだから、構うまい。貴女とボードリエ伯爵令嬢には予めそれを伝えておくのだから」

 唖然としている私を見て、さすがに沈黙ばかりを貫いているわけにはいかないと思ったのか、エドヴァルドがそんな風に口を開いた。

「そうかも知れませんけど……」

 まったく説明にもフォローにもなってないと思うのは私だけでしょうか、宰相閣下。

「しかも、誰かが無駄な抵抗で暴れたとして、うっかり罠の稼働範囲に足を踏み入れたら、さぞ愉快な光景が拝めるんだろうな――と、どこかの高貴な男フィルバートが言ったようだ」

「愉快……」

「貴女がギーレンの王宮であの装置を使って侍女を吹っ飛ばした話は、護衛騎士ノーイェル経由で陛下だの管理部だのに語り継がれ、それぞれに恐ろしく盛り上がったようだ」

 ついでに言えば〝鷹の眼〟に限らず護衛全般というか〝影の者スクゥーガ〟全般にもフィト起点であっという間に情報が拡散した……と聞いて、私は思わず頭を抱えた。

「えっ、私が悪いんですかコレ⁉  下手をしたらこの後誰か宙に舞うんですか⁉」

「誰もそこまでは言っていないが……各方面からを期待されていることは確かかもな」

「うあぁぁ……」

 唸る私にエドヴァルドが微かに口元を綻ばせた。

 鉄壁宰相の微苦笑をたまたま目撃した何人かがギョッと目を見開いていたけれど、当の本人は自覚があるのかないのか、その辺りまるで無頓着だった。

 しかもその周囲に聞かれたくないとばかりに耳元に口を寄せながら、内容は全く甘くない話を囁いてくる。

「貴女とボードリエ伯爵令嬢と、まああと何人かに用意されたあのテーブルは、見ての通り一番罠の稼働範囲に近い。更に言えば二人の席が一番近いんだ。もしも誰かに飛びかかられたりするようなら、初手で何とか左右どちらかに避けてさえくれれば、自動的に相手が罠にかかる動線を敷いてあると聞いている。もし貴女がた自身が動けなかったとしても、護衛騎士の誰かが腕を引くようにと言い聞かせてある」

「……なるほど」

 一見有難いようでいて、実はそれは往生際の悪い誰かが最後の足掻きとばかりにこちらに襲いかかって来ると言う「フラグ」になってやしないかと、思わず私は顔を痙攣ひきつらせてしまった。

 まあもう、今更私が何を言ったところでどうしようもないのだけれど。

「席は全員決まっているんですね」

 私とエドヴァルドが同じテーブルにつかないとは聞いていたものの、どう言った席になっているのかと私はそれぞれのテーブルに視線を投げる。

「そこはまあ……大きな声では言えないんだが……」

 各テーブルに配された椅子の前には、家紋が描かれた紙片がそれぞれに置かれているのだと言う。

 私とエドヴァルドは同じイデオン家の家紋が置かれることになるとは言え、ボードリエ家のそれと並べることで、私とエドヴァルドがそれぞれ違う位置に座ると言うことを表したということらしい。

 夜会にしろちょっとしたパーティーにしろ、大抵は暗黙の了解的に家格基準で上座から席を用意されているのがスタンダードだと聞いていたから、ここから既にお茶会のイレギュラーさが表れていた。

「私の……と言うか陛下のテーブルと、貴女のテーブルとにはは振る舞われない。手伝う者たちが万が一にも間違わないように、そう言う区別の付け方にしたんだ」

 どうやら陛下自身は「今後のためにも一口くらい……」と言っていたのを、さすがに医局が全力で止めたとのことだった。

 今後なぞあった日には、周囲の侍従や侍女、医局員の首が(物理的に)飛ぶ、と。

「と言うことは、その他のテーブルは、どう言う配置かは知りませんけどその『お振る舞い』はもう決定なんですね……」

「まあ、ないとは思うが他のテーブルの物にはくれぐれも口をつけないで欲しいとだけ言っておく」

 しかも座席ごとに、茶葉に混じる薬の比率をわざと変えてあるとの噂もあるらしい。

 何故「噂」なのかと言うと、エドヴァルド自身はその瞬間を目撃した訳でも、茶葉のマイナーチェンジに成功しているとの話も聞いていないからだそうだ。

 確かに、工芸茶もどきの茶葉の中に閉じ込められている痺れ薬の強弱を変えられるとか、事実なら「やりすぎ」の域だ。

 そんなことが出来るなら、いずれ痺れ薬以外の薬も閉じ込めてみようなどと言う話にだってなるに違いない。

「医局も管理部並みにアブナイ人がいるってことですよね……」
「言っておくが管理部も医局も、陛下の指示なくして動くことはないからな」

 なおヤバイのでは?

 さすがにそこは口には出せないけど。



 そうこうしているうちに、私が座るべき丸テーブルの前に辿り着いていた。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。