聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
716 / 785
第三部 宰相閣下の婚約者

757 フォルシアン公爵家の恩鳥さんへ⁉

しおりを挟む
「あら、我が家の恩鳥さん……リファちゃん、だったかしら?」

 イル義父様から少し遅れて誓約ヴァールの間にやって来たエリィ義母様は、私を見て、シャルリーヌを見て、ざっと部屋の中を一瞥したところで――トーカレヴァが、肩にリファちゃんを乗せて壁際に下がろうとしていたのに気が付いたらしかった。

「ぴ!」
「あ、おい、こら!」

 トーカレヴァの肩の上でリファちゃんが挨拶のように羽根を両方羽ばたかせた所為せいか、じっとしてろと、慌ててリファちゃんの動きを止めていた。

「ふふ……レイナちゃんと遊んでいた、とかかしら? またゆっくり、我が家にもいらしてね」

「ぴぃっ!」

 今更ながら、リファちゃんはかなり人の言葉を理解していると思う。

 全部じゃないだろうけど、少なくとも「自分に話しかけられている」ことはちゃんと分かっているのだ。

「エ、エリィ? リファちゃんって……」

 イル義父様のこめかみがピクっと動いたのは、多分、確実に「嫉妬」じゃないかと思う。

 何でそう思ったか――何だかどこかで見た景色だと思ったからだ。

「……気のせいか宰相閣下と反応がそっくり……」

 私が内心で思っていたことを、シャルリーヌが傍で見事に掬い上げている。

 うん。
 間違いなくエドヴァルドはイル義父様の影響をかなり受けてると思う。
 公的なところではトーレン前宰相にしごかれたところはあるだろうけど、私的なところではむしろイル義父様の影響が濃い。

「あら、貴方も聞いていたのではなくて? どこかの傍若無人な王女殿下の魔の手から息子を救ってくれた、勇敢なのお話」

「え? あ、そう言えば王宮護衛騎士たちがなだれ込む直前に、部屋に飛び込んで王女の気を逸らしてくれた鳥がいたとか、どうとか……?」

 リファちゃんの「活躍」は一部伏せられていて、あくまでイル義父様の血でお義兄様ユセフを探し出したのは、リファちゃんはたまたま、少しお手伝いをしたていになっているのだ。

 それでも嘘は言っていない。
 少し「省いた」だけだ。

 だからリファちゃんにとってもそれは正解の一部であり、それが自分だとばかりにトーカレヴァの肩でキメポーズを取っているのも、間違いじゃないのだ。

「その、レイナちゃんと仲がいいそうなの。でもそう……そちらの方が飼い主なのね?」

「ぴ!」

 リファちゃんは、それも勢いよく肯定している。
 当の飼い主よりも先に。

「残念。ちゃんと飼い主さんとの絆があるのなら、我が家に引っ越していらっしゃいとは言えないわね?」

 エリィ義母様はそう言って、花もほころぶような笑顔をリファちゃんに向けていた。

 ……お義母サマ、私はちょっとイル義父様の心の中に嵐が吹き荒れないか心配です。

「ねえイル、あのも時々泊まらせてあげてもよろしくて?」
「え?」

「ユセフを助けてくれたで、レイナちゃんも可愛がっているのよ? 我がフォルシアン公爵家の大切なお客様ではありませんこと?」

「そ……そう、かも……知れない、ね?」

 イル義父様、しっかり! 語彙力が欠乏しています!

「あ、そうだわ、レンナルト!」
「えっ⁉」

 そしてここまで一言も口を挟めず、茫然と事の成り行きを窺っていたエリィ義母様の異母弟、レンナルト・ダリアン卿が、いきなり話の水を向けられて、弾かれたように顔を上げていた。

「鉱山にいるとは思わないけれど、採掘場から離れた山中とかだったら、この他にも生息していないかしら?」

「え……っと……?」

 レンナルト卿、大混乱。

 それは、そうだ。
 どうしていきなりヘリファルテ種の話になっているのか、理解が追い付かないに違いない。

「きっと、もう何羽かいた方がも喜ぶと思うのよ。戻ったら、探してみてくれないかしら?」

「あ……姉上……?」
「エ、エリィ……?」

 立ち尽くす男性陣二人に、エリィ義母様は「これぞ公爵夫人!」と言う綺麗な立ち姿勢で、それはそれは優雅な微笑みを披露して下さった。

「レイナちゃんは、とても優しい寛大な子だから、きっとそれでダリアン侯爵家の不手際は相殺されるんじゃないかしら……?」

「「「…………」」」

 エリィ義母様、目が怖いです!!

 いや、その方面にいるとは聞いたコトが――なんて呟きかけたトーカレヴァは、いつの間にかすぐ近くにいたノーイェルに片手で口を塞がれている。

 って言うか、ノーイェルさん、めちゃめちゃ空気読むの長けてない⁉

 そっか、トーカレヴァのそのセリフを遮ると言うことは、逆にダリアン侯爵領でヘリファルテを見たという目撃談がこれまでないということなんだ。

 、山まるごとローラー捜索をする羽目にでもなれば、それは充分に罰の一つになるとエリィ義母様は考えたのかも知れない。

 確かに、本当に「生息地でない」のなら、それは結構な罰と言えるだろう。

 ――イル義父様、エリィ義母様、レンナルト卿、三者三様の視線がこちらへと向けられる。

 私はこほんと咳払いをして、一呼吸を置いた。

「はい、リファちゃん……そのヘリファルテ、絶賛『つがい』募集中でして」

 リファちゃん! そこで「ぴ?」って、首傾げないで‼ 可愛いが過ぎて思考が逸れちゃう……!

「お見かけの際は、ぜひご一報を」

 多分、私がニッコリと微笑わらって見せたところで、エリィ義母様には遠く及ばない気はするけれど、何事も練習と言うことで、ハイ。

「そ……そうなんだね。分かったよ、兄にもそう伝えておくことにしよう」

 現状、兄侯爵の補佐であるレンナルト卿としては、それしか言いようがなかったんだろうと思う。

 ただエリィ義母様は「あら」と、意味ありげな視線を異母弟おとうとから夫の方へと向けた。

「今の話、兄に任せることが出来るのかしら……アナタ?」

「……っ」

 最愛の妻の微笑みのはずが、イル義父様は思い切りこめかみを痙攣ひきつらせている。

「私たちもね、レイナちゃん? この誓約ヴァールの間でまとめて説明をする方が、かえって早いと言われてここへ来ているのよ。兄が――ユーホルト・ダリアンが軍神デュールの間でどうなっていたのか、レイナちゃんは知っているかしら?」

 エリィ義母様、誤解です! とばっちりです!
 
 確かに同じお茶会の場にいて、物騒なお茶やら料理やら口にしていたのは知っていますけど、ダリアン侯爵家の長が交代するの、しないのと言った話には関与していません……!



 私は、後で「淑女らしくない」と叱られるかも知れなくても、ぶんぶんと激しく首を横に振ることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 1,464

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。