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第三部 宰相閣下の婚約者
792 嬉しい気遣い?
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「……で、どうするんだ」
どのくらいそこに立ち尽くしていたのか。
ファルコの声がけでようやく我に返る。
「ああ! えっと、そうね……フォルシアン公爵閣下の執務室に行こうかと」
ここは王宮の廊下だ。
イル義父様呼びを敢えて避けたことに気付いたのか、気付かなかったのか。
表情を隠すように「邸宅じゃなく?」とだけ聞いてきた。
「多分まだレンナルト卿たちがいると思うのよね」
そこで兄、ユーホルト・ダリアン侯爵に帰る挨拶をしておくとかどうとか、言っていたはず。
「ダリアン侯爵は、王宮でこき使われるらしいから、まあ置いておくとして……レンナルト卿に関しては、戻って鉱山の被害を確認して貰わないとだから、話は必要だろうと思って」
宝石が採れる鉱山と、資源として有用な鉱石が採れる鉱山とでは、そもそもの構成の違いもあって、鉱毒が漏れ出る可能性は低いはず。
ただ私も専門家ではないわけで、可能性がゼロだとは言い切れない。
まずは水や土を王都に送って貰い、アルノシュト伯爵領の該当地域のそれと比較して貰うところから始めることになるだろう。
ただアンジェスには、ギーレンのシーカサーリ王立植物園のような専門機関があるわけじゃない。
「イザクがいてくれる内に、採取してきた土や水を植物園に送るのが一番いい気はするんだけど、国を跨いでしまうから、そこはエドヴァルド様に要相談よね……」
「…………そうか」
ファルコが何を思ってそう呟いたのかは、私には分からない。
いざとなったら自分が行くといいそうな空気を感じるものの、多分暴走はしないだろうと思う。
既に彼は〝鷹の眼〟という一つの組織をその身に背負っているのだから。
「――ファルコ、ちょっと」
「!」
そこで不意に現れた影にちょっと驚いてしまった。けれど、声から言って〝鷹の目〟の一人、ハジェスだと思ったので、何とかこちらが声をあげることはせずに済んだ。
「……は?」
元からそうなのか、周囲に聞こえない話し方の工夫があるのか、ハジェスの声はほとんどこちらには聞こえてこない。
ただファルコが盛大に顔をしかめたので、何か面倒なことが起きたんだろうな、くらいには察することが出来た。
「あー……」
そしてハジェスの話が終わったところで、何故か二人ともの視線がぐるりとこちらに向けられた。
「関係あるとも言えるし、ないとも言えるが……ちょっと落ち着いて聞いて欲しいんだが」
「うん」
現時点で落ち着いている、なんて返しはファルコの表情を見て呑み込んでおく。
ええ、空気は読める女なので。
「レイフ殿下が襲撃を受けたらしい」
「え」
エドヴァルドなら取り乱したかも知れないが、レイフ殿下。
驚くよりも虚を突かれたと言った方が正しかった。
「原因は仲間割れ――で、いいのか? ナルディーニ侯爵家に雇われていた元特殊部隊のヤツが王宮の廊下で殿下に襲いかかったんだそうだ」
「!」
王族が王宮内部で襲撃を受けるなどと、もっての他だ。
護衛騎士の沽券に関わる。
「もしかして、レヴに何かあった? えっ、ひょっとしてリファちゃんとか⁉」
私に落ち着くよう釘を刺すなら、どちらか、あるいは両方に関係があると言うことになってしまう。
ハッと目を瞠った私に「だから落ち着けって」と、ファルコが両手を振った。
「護衛騎士が何人か斬られたらしいんだが、アイツと、たまたま王宮に来ていたらしい王都警備隊のヤツとで殿下を守りきったって話だ」
「王都警備隊……って、キーロ⁉ 来てたんだ」
裏工作型のレヴと違って、キーロがガチガチの実行部隊だったというから、それはキーロがいれば、レイフ殿下が無傷だろうというのは想像に難くない。
「ナルディーニ侯爵家、今回のやらかしで裁かれるのは確実だから、また自分の居場所がなくなる……って、なっちゃったのかなぁ……」
「俺らみたいなのは雇い主の立場に左右されやすいところはあるけどな。だけどナルディーニ侯爵家だろう? 金につられた線が濃厚だな。そうなると、自分の見る目のなさを嘆けって話にもなるな」
そう言うファルコも、隣のハジェスも微妙な表情だ。
同じ裏方の人間として、私とは違って何か思うところがあるのかも知れない。
「まあ、そっちはもう王宮の護衛騎士連中が対処してるらしいからいいとして、だ。その襲撃現場がこの先だったみたいだから、ちょっと回り道するぞって話だな」
「えっ、この先だったの⁉」
ギョッとなった私に、もう危険はないのだとハジェスが苦笑する。
「ただ床のあちこちに血だまりがあるから……」
その一言で、どうやらかつて血の匂いで気分が悪くなってしまった私に気を遣ってくれたらしいことが読み取れた。
「そっか……うん、じゃあ、そうしようかな」
血だまりとか、そんな激闘が展開されていたんだろうか。
一瞬背筋が寒くなったものの、考えれば考えるほど、そこを横目に通って行こうとは思えなくなってくる。
私は彼らの気遣いをありがたく受けることにした。
.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜
「あぁ、レイナちゃん。おかえりなさい」
そうして辿り着いたイル義父様の執務室には、エリィ義母様と、レンナルト卿がまだ帰らずにいた。
「少し前まで、お兄様がいらしたのよ。それで少しお話し合いを……ね?」
お話し合い、のところが妙に強調されていて、何だかレンナルト卿の顔色も悪い。
どうやら「エリィ義母様無双」が展開されていたらしかった。
「ダリアン侯爵は……?」
「何だか夫の部署の書類仕事を当面手伝うとかで、その前に弟にも事情説明を――となって、ここに立ち寄るという形をとったみたいなの」
なるほど、他にもっと重い罪を犯した人間はいるわけだから、さっさと実務につけとなったのかも知れない。
とは言え期限が三国会談の後、どこまでの拘束となるかがまだ明確ではないため、その間弟に領地を委ねると言いに来たということか。
伝言でもよかったのかも知れないが形式を重んじた、と。
「お兄様には『落ち着いたらお茶をしましょう』と言っておいたのだけれど……実際のところ、夫や宰相閣下がそうすぐには頷かないでしょうね……」
エリィ義母様、苦笑い。私もそこは否定がしづらい。
レンナルト卿は――ノーコメントということは、きっと同じようには思っているのだろう。
そこは敢えて深入りせず、私はレンナルト卿の方を向いて「じゃあ、もう領地にお戻りですか?」と話題を変えた。
「ああ。だけど鉱山の調査の件を聞いてからと思ってね。本当は、現地で直接指示を出して貰うのがいいのだろうけど、そうもいかないしね……」
「それは……そうですね」
アルノシュト伯爵領にさえ行ったことがないのに、それはさすがに憚られる。
とは言え、簡単に口頭で説明できる話でもない。
考えた末に、私はレポートの送付をレンナルト卿に提案した。
「商業ギルドを経由すれば、すぐ着きますし……アルノシュト伯爵令息の容態や、これまで分かっていることなんかもまとめてお渡しすれば、地元の方にも説明しやすいんじゃないかと……」
何せこの世界にとっては未知の症状だった公害。
水や作物のひそやかな汚染は、すぐに気付くものではない。
まずは鉱山周辺地域の村々への聞き取りから始めなくてはならないだろう。人手も、派遣費用もそれなりに発生するはずだ。
「ダリアン侯爵家も今回責任がないとは言えない。兄は兄の、私には私の責の果たし方があると、気を引き締めてやるだけのことだ」
ヤーデルード鉱山のケースを調査することは、銀の鉱山との違いを確かめる上でも貴重な機会になることは間違いない。
詐欺に関わってしまった贖罪としての協力でも、それは間違いなく今後の公害を抑える意味で役に立っていくだろう。
「姉上の生まれ育ったところでもあるわけだからね。いずれ二人で来てくれたら嬉しいよ。歓迎する」
その時は「叔父」と呼んでくれたら嬉しい。
レンナルト卿はそう言って、貸し出された簡易型転移装置を片手にこの場を後にした。
「あれは片道用なのよ。いずれ落ち着いたら、また貸し出しがあるでしょうからダリアン侯爵領を一緒に訪れましょうね」
「はい、ぜひ」
どこかの魔王さまの顔が一瞬脳裡に浮かんだものの、きっとそこはエリィ義母様が笑顔で押し勝つんじゃないかと、そんな気がひしひしとしてしまった。
「それじゃあレイナちゃん、帰りましょうか?」
「あっ、私は――」
「え?」
「すみません、王都商業ギルドに行って、国政に関わらない範囲での事情説明に行かないと……」
そもそも、投資詐欺に関する報告は王都商業ギルドから始まっているといってもいい。
ギルドにもギルドの決着のつけ方がある以上は、事の成り行きを何も伝えないというわけにはいかないのだ。
「そう……」
「あ、エリィ義母様は先に戻っていて下さい! これ以上巻き込んだら、私がイル義父様に叱られちゃいます!」
決して大げさなことは言わなかったはずなのに、エリィ義母様は何故か難しい表情を浮かべた。
「ここでレイナちゃんが一緒に帰らないと言うのも、それはそれで宰相閣下の機嫌が悪くなる気がするのだけれど……」
「…………」
聞こえません。
なんにも、聞こえません!
「大丈夫です、ちゃんと護衛もいますから!」
道連れかよ! と、ファルコが小声で叫んだことも無視です。
「そうねぇ……我が家の護衛よりは強いという話だから……まだいいのかしら……」
「はい!」
ハジェスも盛大に顔を痙攣らせている。
「じゃあ、あなたたちお願いするわね?」
「「…………」」
トドメのエリィ義母様の一言に、二人は諦めたように頭を下げた。
そうしてエリィ義母様と別れて、私は王都商業ギルドに向かうことにしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いつも読んでいただいて、エール等有難うございます!
コメントは全て拝見させていただいておりますが、返信はもう少しだけお待ち下さいm(_ _)m
来週はコミカライズ版「聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?」の連載も更新予定です。
併せてよろしくお願い致しますm(_ _)m
どのくらいそこに立ち尽くしていたのか。
ファルコの声がけでようやく我に返る。
「ああ! えっと、そうね……フォルシアン公爵閣下の執務室に行こうかと」
ここは王宮の廊下だ。
イル義父様呼びを敢えて避けたことに気付いたのか、気付かなかったのか。
表情を隠すように「邸宅じゃなく?」とだけ聞いてきた。
「多分まだレンナルト卿たちがいると思うのよね」
そこで兄、ユーホルト・ダリアン侯爵に帰る挨拶をしておくとかどうとか、言っていたはず。
「ダリアン侯爵は、王宮でこき使われるらしいから、まあ置いておくとして……レンナルト卿に関しては、戻って鉱山の被害を確認して貰わないとだから、話は必要だろうと思って」
宝石が採れる鉱山と、資源として有用な鉱石が採れる鉱山とでは、そもそもの構成の違いもあって、鉱毒が漏れ出る可能性は低いはず。
ただ私も専門家ではないわけで、可能性がゼロだとは言い切れない。
まずは水や土を王都に送って貰い、アルノシュト伯爵領の該当地域のそれと比較して貰うところから始めることになるだろう。
ただアンジェスには、ギーレンのシーカサーリ王立植物園のような専門機関があるわけじゃない。
「イザクがいてくれる内に、採取してきた土や水を植物園に送るのが一番いい気はするんだけど、国を跨いでしまうから、そこはエドヴァルド様に要相談よね……」
「…………そうか」
ファルコが何を思ってそう呟いたのかは、私には分からない。
いざとなったら自分が行くといいそうな空気を感じるものの、多分暴走はしないだろうと思う。
既に彼は〝鷹の眼〟という一つの組織をその身に背負っているのだから。
「――ファルコ、ちょっと」
「!」
そこで不意に現れた影にちょっと驚いてしまった。けれど、声から言って〝鷹の目〟の一人、ハジェスだと思ったので、何とかこちらが声をあげることはせずに済んだ。
「……は?」
元からそうなのか、周囲に聞こえない話し方の工夫があるのか、ハジェスの声はほとんどこちらには聞こえてこない。
ただファルコが盛大に顔をしかめたので、何か面倒なことが起きたんだろうな、くらいには察することが出来た。
「あー……」
そしてハジェスの話が終わったところで、何故か二人ともの視線がぐるりとこちらに向けられた。
「関係あるとも言えるし、ないとも言えるが……ちょっと落ち着いて聞いて欲しいんだが」
「うん」
現時点で落ち着いている、なんて返しはファルコの表情を見て呑み込んでおく。
ええ、空気は読める女なので。
「レイフ殿下が襲撃を受けたらしい」
「え」
エドヴァルドなら取り乱したかも知れないが、レイフ殿下。
驚くよりも虚を突かれたと言った方が正しかった。
「原因は仲間割れ――で、いいのか? ナルディーニ侯爵家に雇われていた元特殊部隊のヤツが王宮の廊下で殿下に襲いかかったんだそうだ」
「!」
王族が王宮内部で襲撃を受けるなどと、もっての他だ。
護衛騎士の沽券に関わる。
「もしかして、レヴに何かあった? えっ、ひょっとしてリファちゃんとか⁉」
私に落ち着くよう釘を刺すなら、どちらか、あるいは両方に関係があると言うことになってしまう。
ハッと目を瞠った私に「だから落ち着けって」と、ファルコが両手を振った。
「護衛騎士が何人か斬られたらしいんだが、アイツと、たまたま王宮に来ていたらしい王都警備隊のヤツとで殿下を守りきったって話だ」
「王都警備隊……って、キーロ⁉ 来てたんだ」
裏工作型のレヴと違って、キーロがガチガチの実行部隊だったというから、それはキーロがいれば、レイフ殿下が無傷だろうというのは想像に難くない。
「ナルディーニ侯爵家、今回のやらかしで裁かれるのは確実だから、また自分の居場所がなくなる……って、なっちゃったのかなぁ……」
「俺らみたいなのは雇い主の立場に左右されやすいところはあるけどな。だけどナルディーニ侯爵家だろう? 金につられた線が濃厚だな。そうなると、自分の見る目のなさを嘆けって話にもなるな」
そう言うファルコも、隣のハジェスも微妙な表情だ。
同じ裏方の人間として、私とは違って何か思うところがあるのかも知れない。
「まあ、そっちはもう王宮の護衛騎士連中が対処してるらしいからいいとして、だ。その襲撃現場がこの先だったみたいだから、ちょっと回り道するぞって話だな」
「えっ、この先だったの⁉」
ギョッとなった私に、もう危険はないのだとハジェスが苦笑する。
「ただ床のあちこちに血だまりがあるから……」
その一言で、どうやらかつて血の匂いで気分が悪くなってしまった私に気を遣ってくれたらしいことが読み取れた。
「そっか……うん、じゃあ、そうしようかな」
血だまりとか、そんな激闘が展開されていたんだろうか。
一瞬背筋が寒くなったものの、考えれば考えるほど、そこを横目に通って行こうとは思えなくなってくる。
私は彼らの気遣いをありがたく受けることにした。
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「あぁ、レイナちゃん。おかえりなさい」
そうして辿り着いたイル義父様の執務室には、エリィ義母様と、レンナルト卿がまだ帰らずにいた。
「少し前まで、お兄様がいらしたのよ。それで少しお話し合いを……ね?」
お話し合い、のところが妙に強調されていて、何だかレンナルト卿の顔色も悪い。
どうやら「エリィ義母様無双」が展開されていたらしかった。
「ダリアン侯爵は……?」
「何だか夫の部署の書類仕事を当面手伝うとかで、その前に弟にも事情説明を――となって、ここに立ち寄るという形をとったみたいなの」
なるほど、他にもっと重い罪を犯した人間はいるわけだから、さっさと実務につけとなったのかも知れない。
とは言え期限が三国会談の後、どこまでの拘束となるかがまだ明確ではないため、その間弟に領地を委ねると言いに来たということか。
伝言でもよかったのかも知れないが形式を重んじた、と。
「お兄様には『落ち着いたらお茶をしましょう』と言っておいたのだけれど……実際のところ、夫や宰相閣下がそうすぐには頷かないでしょうね……」
エリィ義母様、苦笑い。私もそこは否定がしづらい。
レンナルト卿は――ノーコメントということは、きっと同じようには思っているのだろう。
そこは敢えて深入りせず、私はレンナルト卿の方を向いて「じゃあ、もう領地にお戻りですか?」と話題を変えた。
「ああ。だけど鉱山の調査の件を聞いてからと思ってね。本当は、現地で直接指示を出して貰うのがいいのだろうけど、そうもいかないしね……」
「それは……そうですね」
アルノシュト伯爵領にさえ行ったことがないのに、それはさすがに憚られる。
とは言え、簡単に口頭で説明できる話でもない。
考えた末に、私はレポートの送付をレンナルト卿に提案した。
「商業ギルドを経由すれば、すぐ着きますし……アルノシュト伯爵令息の容態や、これまで分かっていることなんかもまとめてお渡しすれば、地元の方にも説明しやすいんじゃないかと……」
何せこの世界にとっては未知の症状だった公害。
水や作物のひそやかな汚染は、すぐに気付くものではない。
まずは鉱山周辺地域の村々への聞き取りから始めなくてはならないだろう。人手も、派遣費用もそれなりに発生するはずだ。
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詐欺に関わってしまった贖罪としての協力でも、それは間違いなく今後の公害を抑える意味で役に立っていくだろう。
「姉上の生まれ育ったところでもあるわけだからね。いずれ二人で来てくれたら嬉しいよ。歓迎する」
その時は「叔父」と呼んでくれたら嬉しい。
レンナルト卿はそう言って、貸し出された簡易型転移装置を片手にこの場を後にした。
「あれは片道用なのよ。いずれ落ち着いたら、また貸し出しがあるでしょうからダリアン侯爵領を一緒に訪れましょうね」
「はい、ぜひ」
どこかの魔王さまの顔が一瞬脳裡に浮かんだものの、きっとそこはエリィ義母様が笑顔で押し勝つんじゃないかと、そんな気がひしひしとしてしまった。
「それじゃあレイナちゃん、帰りましょうか?」
「あっ、私は――」
「え?」
「すみません、王都商業ギルドに行って、国政に関わらない範囲での事情説明に行かないと……」
そもそも、投資詐欺に関する報告は王都商業ギルドから始まっているといってもいい。
ギルドにもギルドの決着のつけ方がある以上は、事の成り行きを何も伝えないというわけにはいかないのだ。
「そう……」
「あ、エリィ義母様は先に戻っていて下さい! これ以上巻き込んだら、私がイル義父様に叱られちゃいます!」
決して大げさなことは言わなかったはずなのに、エリィ義母様は何故か難しい表情を浮かべた。
「ここでレイナちゃんが一緒に帰らないと言うのも、それはそれで宰相閣下の機嫌が悪くなる気がするのだけれど……」
「…………」
聞こえません。
なんにも、聞こえません!
「大丈夫です、ちゃんと護衛もいますから!」
道連れかよ! と、ファルコが小声で叫んだことも無視です。
「そうねぇ……我が家の護衛よりは強いという話だから……まだいいのかしら……」
「はい!」
ハジェスも盛大に顔を痙攣らせている。
「じゃあ、あなたたちお願いするわね?」
「「…………」」
トドメのエリィ義母様の一言に、二人は諦めたように頭を下げた。
そうしてエリィ義母様と別れて、私は王都商業ギルドに向かうことにしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いつも読んでいただいて、エール等有難うございます!
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