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二年目◆初夏 【レイニー・デイ】
しおりを挟む雨の日は視界がブレる。
そろそろ眼鏡の度を合わせに行かないとな、なんて考えながら傘を畳んでいると、「オッハヨーゴサイマスッ」といつでもどこでも元気なちびっ子が飛び込んできた。
こいつのテンションがlowな時はないのか。
「お早う。……なんだ、凝った頭してるじゃないか、可愛いな」
木内の肩を少し越えたくらいの髪が二つに分けて編み込まれ、スッキリと纏められていた。
それを見て感心したような声を上げた俺に、にんまりしたご機嫌な笑みが返ってくる。
「でっしょー! ほらほらなんじょーさん見て見てっ」
ぐるんとまわれ右をして後頭部を示して。
編み込まれ、おさげにされた髪の先を留めているのは、先日俺が木内の誕生日にやったバレッタ。
「うちの妹がねー、今“カリスマヘアスタイリストごっこ”にハマってて、してくれたのー! 上手でしょっ」
「お前の妹っていうと、まだ小学生だろ? 器用だな」
乱れなくキッチリ整った編み込みをしげしげ眺めてると、後ろを向いた姿勢のまま、オデコをさらして木内が俺を見上げた。
「そうなんだよ、うちの茜ったら可愛いし器用だしこまっしゃくれててベリキューなんだからー!」
妹がよほど可愛いらしい木内は褒められて嬉しいのか興奮し、頭突きをかましてくる。
せっかくの髪型が崩れるだろうが馬鹿。
「今日雨でしょ? あたしの髪こーゆー日はふくらんで大変なんだよ。結ぶのに苦労してたら、してくれたの」
「ああ、そういや俺も湿気の多い日はクセがキツくなるな」
どれどれ? と木内が手を伸ばしてくるのに、屈んで触らせてやった。
なんじょーさん髪伸びたね、と言う木内に、切りに行く暇が無いんだよ、とぼやいていると。
「……おいそこの迷惑コンビ」
「しね南条限定」
入り口の半分を塞ぐ形になっていた俺たちに、呆れたような苦情の声が掛けられる。
ていうか何やら不穏な発言されませんでしたか、女史?
「おはよーごさいますです神代さんっみどりちゃんっ」
「おはよう鈴ちゃん」
毎度のごとく、女史はしっとりした笑みを木内に向けたあと、レーザービームのようなまなざしを俺に。
もう慣れたのでそれは無視し、神代に挨拶する。
「悪い、邪魔だったな」
「そうじゃなくてだな…………お前、その無自覚ぶりなんとかしないと、のちのち困るぞ?」
意味不明な友人の言葉に首を傾げる。
ため息をついた神代の視線の先には、女史に頭を見せびらかしている木内。
彼女のハシャイだ声を聞きながら、時間を見つけて眼鏡を買いに行こう、ともう一度思った。
(初出:拍手小話)
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