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第五話 甦りの魔術 ②
しおりを挟む「……本当にキーガン様の命を蘇らせることができるのですか? 」
「あぁ、できる……それができる魔導師は俺が知る限りでは、この全世界でも俺の他には一人しかいないさ。貴女は運のいいことだ……」
魔導師の、何故かどこか寂しさを滲ませた、しかし、確と自信のあるその物言いを聞くうちに、マーガレットの怒りは次第に鎮まり、それと共に顔が綻んでいくの感じた。
「……お願いします。魔導師様……サイラス様、取り乱してごめんなさい……」
マーガレットはまだ僅かでも自分の気持ちが救われる手立てがそこにあることを今心底ありがたいと思った。唯一それが失意の底に沈んだ今の自分を勇気づけてくれるのだ、そう強く感じた。
──でも、この少しほっとした今の気持ちの根本って一体なんなのでしょう?
マーガレットの心には、まだ何かはっきりと整理の仕切れていないわだかまりがある。
──でも、これだけは言える。今、キーガン様が死んでしまったらきっとわたしは一生後悔する……
それは、漸く気づいた彼への愛のため?
……それとも……
彼の愛に応えられないことを正直に伝えられなかった償いの気持ち?
──わたしは……
「──おいっ、こらっ! 聞いてるのか?」
「──は、はいっ、ごめんなさい」
「──いいか、話をよく聞け……これは魔術の中でも最高難度のものだし、俺の体力も相当に疲弊する。それにこの魔術は無条件に成就するものではないんだ」
「えっ、あの……それは一体どういう? ……何かを犠牲にしなければいけないという意味ですの? 」
「その通りだ……俺が奴の命を甦らせた時、その復活を願う者の記憶が奴の頭から一切消え失せることになる……」
「じゃあ、キーガン様がもし生き返っても……」
「そうだ……貴女は奴にとっては全く見ず知らずのただの娘ということになる……どうする? それでも婚約者としてやり直したいか? 」
「それは……」
マーガレットは懸命に自分の気持ちを整理しようと俯き、押し黙った。
「…………」
それから暫く考え込んだ後、マーガレットはサイラスの顔を見上げてニコリと微笑んだ。
「ええ……それでも、お願いしますわ。サイラス様……何にしたって生きててもらえさせいたら、わたしはそれだけで心が救われた気がするの……」
「分かった……勿論、その後は俺についてきて貰うがよいか? 」
「……はい」
「ならば……」
サイラスは、キーガンの首に刺さった矢を引き抜き傷口に手を添えながら、かなりの長い時間、魔術の詠唱を続けていた。
マーガレットには理解のできない不思議な呪文の韻律をキーガンへの結論の出ない想いと重ね合わせ、マーガレットは魔導師の傍に座って祈り続けた。
「───ええぃっ!! 」
サイラスが唱え終わり、最後に胸に置いた手を大きく右脇へ払った瞬間、
「──ぐふっ! ふぅぅっっ!! 」
っと、まだ瞼は閉じたままキーガンの口から深い溜め息が漏れ出た。
「あぁっ、キーガン様っ!! 良かったぁ!! 」
しかし、思わずキーガンに近寄ろうとするマーガレットにサイラスは腕を伸ばしてそれを制した。
「──さぁ、もうこれ以上ゆっくりしている時間はない。奴は暫く横になっていれば直に一人で立ち上がり、歩けるくらいには回復するだろう」
「えぇっ……でも、心配よ……」
「──もうそれに貴女の記憶はキーガンの頭の中からはすっかり抜け落ちている。今更奴と話をしても仕方あるまい? 心配するな。こんなガタイのいい猛者だ。野生の熊だって恐れをなしておいそれとは近づけまい……」
「ええ……分かった……いいわ」
「──ねぇ、サイラス? でも、向こうでは決して乱暴なことはしないとお誓い下さる? 」
マーガレットはその青色の澄んだ瞳を、まだ若い魔導師の暗紫色の瞳に向けた。
「あぁ、それは俺が保証する。誓う」
「分かったわ……」
「──キーガン様、いつかまたお会いできた時には……」
マーガレットはその先を言い淀んだ。
「──でも、どうか必ずお元気で……」
マーガレットはキーガンに手を振り、その後、静かにその手をサイラスへと差し出した。
「──ひゃうっっ! 」
サイラスは貴婦人の手を取ると再びゾクゾクッと背筋を震わせた。それから、二人はその場からふっと消え去っていなくなった。
※◇※◇※◇※◇※
「…………」
「──くそっ、魔導師か……ヴェネスの手の者だな……お前の顔、しかと覚えたぞ……だが、その脇にいた女は……確か……いや、誰だ? 思い出せん……」
薄目を開けたキーガンが、半身を起こしながら、消え行ったサイラスとマーガレットのいた場所をいつまでも悔しそうに見詰めていた。
※※※※※※※※※※
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