虫と女嫌いの宮廷魔導師と恋するアプレンティス【AP版】

端月小みち

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第十七話 給仕と抱擁 ②

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──ん、ちょっと胸がきついかな……

 金色の髪を後ろでお団子に結い上げ、綿布でできた質素な黒のメイド服に袖を通しながらマーガレットは独り呟いた。

 メイド服の上からでもはっきりと強調される豊かな胸を、フリルの付いた白いエプロンで覆い、頭にちょこんとキャップを着けたマーガレットは身支度を済ませると、急いで硬くなったパンを三切れほど水で喉へ流し込み、エイダの待つ地階の料理場へと下りて行った。



「──ほやゃぁぁっっと! ホレホレっ、やぁ、包丁よぉっ! ぶっといかぶらはぶつ切りだー♪  木杓は鍋をかき回せーっ♪ グルグルグルッと引っ掻き回せ~っと!!♪ 」

 片手を添えた小太りの腰を左右にクリクリと動かしては、老魔女はノリノリの口調で呪文を口ずさみ、まるで楽団の指揮者のように手に持つ杖を機敏に振っている。

 エイダの指揮に合わせて、包丁や調理道具たちも自由自在に調理場の中を動き回っていた。

──ひゃぁっ! すごい、エイダお婆さん……

 魔法の力による、慌ただしく活気に満ちた不思議な光景を暫し声もなく眺めていたマーガレットに、エイダは振り返りもせずに言う。

「朝からボヤボヤしてはならんじゃで、マギー? 旦那様のお言い付け通り、ビシビシと鍛えちゃるでのぉ! お嬢様気分はもう捨て去ることじゃでぇ──ほやゃぁぁっっと! そりゃそりゃぁっと!♪ ……」

 パンの生地が独りでバンバンと小気味の良い音を立てて調理台の上で跳ね躍り、その上をめん棒がグリグリ、ムリムリとのし廻るのを見ながら、エイダはマーガレットの方をチラリと見た。

「さぁ! 大広間の床掃除と暖炉磨き、それから火おこしをしてくるのじゃで、マギー! 」

「うへぇぇっ……! わたしの屋敷いえでもメイドさん達が毎朝やってくれてたあれかぁ……あれ、すごい大変そうだったわ……」

「ほれほれ! 何、ぶつくさ言っておるのじゃえ!? モップとバケツ、他の掃除用具もそこの勝手口の脇の棚にあるじゃろう? 水汲み用の井戸は裏庭じゃ。窓から見えるじゃろう? ──さぁさぁ! はようにかんかぇっ!? 」

「ふぇぇぇ……はい、は~~い……」

「『はい』は一回じゃっ! マギーっ! 」

「はっ、はいっっ!! 」


※◇※◇※◇※◇※

「──エイダお婆さん、やっと終わったよぉぉっ……」

 これまで一度もしたことがない作業で、跳ね掛かったバケツの水で袖や裾をびちゃびちゃに濡らし、頬を煤だらけにしながも、マーガレットは何とか言い付け通りに仕事を終えて、調理場の椅子にヘロヘロと座り込んだ。

「ホッホッ……お疲れじゃったのぉ、マギー」

 調理場のかまどから漂ってくる焼きたてのふんわりと甘いパンの薫りが、マーガレットの鼻腔をくすぐってくる。

「ふわぁ、いい匂い……わたし、お腹が空いちゃったぁ」
──グルグルキュウ~~~~っ!!

 すると、お腹が大きな鳴き声を上げ始めた。マーガレットは慌ててお腹を押さえて顔を赤らめる。

──やだわ! なんてはしたない……

「オッホッホッホッ! ……マギーには昼食までまだまだ仕事があるでなぁ、悪いがもうちっと我慢じゃ……これも修行の内じゃでのぉ……」

「はぁぁぁ……エイダ、この屋敷には他に使用人はいないの? 」

「あぁ、そうじゃよ。王様が最初気を遣って何人か人を寄越そうと言ってはくれたんじゃけんどぉ……旦那様は大層人見知りするお方じゃで、沢山の知らない人間に囲まれたくはないと言って全て断っちまったのさ。この屋敷は旦那様一人にはちと広すぎるぐらいじゃが、毎晩のように人を招待してパーティーをする訳でもないのじゃでこれまで通りこの婆一人で何とかお世話はできるかのぉ……」

「ふ~~ん……」

──人見知りかぁ、サイラスってどこか普段少し影があるのよね……

「──さぁさぁ、大広間のテーブルに食器はもう並べ終わってるで、朝食をワゴンに載せて持ってお行き! 旦那様を大広間にお呼びして、婆の代わりに朝食の給仕をしてくるのじゃ……くれぐれも旦那様に粗相のないようにするのじゃぞぇ? 」

 老魔女はさらに容赦もなく、マーガレットにその日の用事を言いつける。

「──それから、給仕が終わったら、食器を洗ってピカピカに磨き上げて食器棚に仕舞うんじゃ! その後は旦那様の寝室の掃除とベッドメイクじゃ、窓も丁寧に拭き上げるのじゃぞぇ! 」

「うへぇぇぇ……は~い。エイダ……」

「そうじゃとも……婆は空いた時間で魔法薬を作れるのじゃわい。マギーは魔法が使えないから効率がちぃと悪いけんど……こうして婆が杖を振る仕事が少しでも減るのは助かることじゃでのぉ……しっかり精を出すのじゃぞぇ 」

 厳しく躾けるエイダの眼差しは、傍からは分かりにくい、ひょんなことから自分の教え子になった小娘への愛情を時折滲ませていた。

※※※※※※※※※※

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