最後に愛してくれる人を探したい

ミカン♬

文字の大きさ
10 / 34

10 ロザリア様のご来店

しおりを挟む
 すっかり体調が戻った私はお見舞いのお礼と返事を返して、お店にも顔を出せるようになった。
 そんなある日、店の奥の部屋で帳簿を見ているとマックスさんが「高位貴族様です」と助けを求めてきた。買い上げて頂いた商品を包んでいる間、貴族のお客様には応接室でお茶とお菓子を出して待って頂いている。

 応接室の前には護衛騎士が2人立っており私は武者震いした。
 扉をノックすると「どうぞ」と女性の声がして開けるとメイドを控えた美しい少女が座っていて、その顔には嫌悪感が滲んでいる。
 挨拶をするとソファーを薦められて私は腰を下ろした。

 アッシュゴールドヘアーの少女はローラング侯爵家のロザリア様でした。
セシリー様のお姉様のクレア様ですわね。先日は兄の気遣いが足りず肺炎になられたとかで、申し訳ありませんでしたわ」

 顎を上げて、全然申し訳なさそうにお顔で謝罪をされたわ。
「とんでもございません。アスラン様にはお手紙で訂正させて頂きました。単に私の不注意で風邪を引いてしまったのです」

「兄はそう思っていませんわ。それに何か私も誤解していると仰ったわ」

「義妹との噂ですね。虐めてなどいませんし、そもそも妹などと思ったこともございません。いずれは縁を切るつもりです」

「まぁ追い出すのかしら」

「いいえ、私が出ていくのです」

「まさか兄の妻の座を狙っていらっしゃるのでは!」

「ありえませんわ。身分差は心得ております。広い世界に目を向けようと思っているだけです。アスラン様にはこのお店を救って頂きました。それについては深く感謝致しております」

「貴方は真面まともな方のようね。失礼致しました」

「いいえ、きっと義妹がご迷惑をお掛けしているのでしょう。大変申し訳ございません」私は立ち上がって深く頭を下げた。

 扉がノックされて準備ができたと告げられ、バーンズ商店の馬車にも包装した商品がどんどん運び込まれ侯爵家までお届けすることになった。
 ローラング侯爵家の馬車に入りきらないほどロザリア様は高級品を購入してくれた。
「本日はお買い上げ頂いて誠に有難うございました」
 マックスさんと再び深くお辞儀をしてロザリア様を見送ったのだった。

 多額購入は好意ではない、アスラン様に近づくなという牽制だわ。
 風邪が兄のせいならばこれで許しなさい──と。
「ブラコンね、可愛いわ。ふふふ」


 馬車が見えなくなるとカイトが飛んで来た。
「ローラング侯爵家の馬車じゃん!」
「ええ、いろいろお買い上げ下さったの、有難いことだわ」
「セシリーの事で文句でも言いに来たと思ったぜ」
「まさか、うちなんか睨まれたら即日潰されるわよ」

セシリーはそんなこと考えてもいないわね。
まぁ、ロザリア様には歯牙にも掛けられていないだろうけど。

「あ、婚約の話だけど俺は諦めない。暖かくなったらデートしよう」
「カイト、私は店を継ぐ気は無いのよ」
「いいよ、店は関係ないから。じゃぁな」
 やだ、カイトにちょっぴりわ。

 そして傍でショックを受けているマックスさん。
「お嬢さん、お店を継がないって本気ですか⁉」
「ええ、父だってまだ若いのだから頑張って頂くわ」
「正直、奥様がいる限り私は期待していませんよ」
「私はもう搾取されるのは真っ平なの」

 父と義母の贅沢生活費。
 セシリーの結婚式の費用、支度金 持参金 三男を養子にした時のお礼金。
 ミリアも同じ、更に離婚慰謝料まで払わされたわ。

「お嬢さんが継がないのなら、考えさせてもらいますよ」
「マックスさんの自由にしてくれて良いのよ」
「本気なんですね?」
「父にはまだ内緒でお願いね」


 翌日にはナタリーが飛んで来た。
「ロザリア様が何故?」と質問の嵐だったが答える義理は無い。
「お店の事を口外出来ないしロザリア様のプライベートなお話なんて出来るはず無いわ。うちの店を潰す気なの?」

 なんでも馬鹿正直にナタリーに情報を流していた自分を呪いたい。
 どこかのお茶会で自慢げに話すナタリーの姿が目に浮かぶわ。

「クレアったらどうしちゃったのよ。親友でしょう!」
「お店の信用に関わるの、ごめんなさいね」
 真っ赤な顔でプンプン怒ってナタリーは帰って行った。

「塩を撒いておいて!」
確かに私はお店を愛してたけど、クロードの事だって愛していたのよ!

私は馬鹿だ、嫉妬して憎んでも今のナタリーには関係ないのに。


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)
恋愛
私、ノエルは左目に傷があった。 そのため学園では悪意に晒されている。婚約者であるマルス様は庇ってくれないので、図書館に逃げていた。そんな時、外交官である兄が国外視察から帰ってきたことで、王立大図書館に行けることに。そこで、一人の青年に会うー。  私は好きなことをしてはいけないの?傷があってはいけないの?  自分が自分らしくあるために私は動き出すー。ありのままでいいよね?

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

【完】真実の愛

酒酔拳
恋愛
シャーロットは、3歳のときに、父親を亡くす。父親は優秀な騎士団長。父親を亡くしたシャーロットは、母と家を守るために、自ら騎士団へと入隊する。彼女は強い意志と人並外れた反射神経と素早さを持っている。 シャーロットは、幼き時からの婚約者がいた。昔からのシャーロットの幼馴染。しかし、婚約者のアルフレッドは、シャーロットのような強い女性を好まなかった。王宮にやってきた歌劇団のアーニャの虜になってしまい、シャーロットは婚約を破棄される。

【完結】わたしの大事な従姉妹を泣かしたのですから、覚悟してくださいませ

彩華(あやはな)
恋愛
突然の婚約解消されたセイラ。それも本人の弁解なしで手紙だけという最悪なものだった。 傷心のセイラは伯母のいる帝国に留学することになる。そこで新しい出逢いをするものの・・・再び・・・。 従兄妹である私は彼らに・・・。 私の従姉妹を泣かしたからには覚悟は必要でしょう!? *セイラ視点から始まります。

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
恋愛
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

処理中です...