5 / 8
5 再会
しおりを挟む高野山の工芸展カフェで働きだして1か月が過ぎた。3月だと言うのにまだまだ寒くて雪が降る日も多々ある。
上司は高知さんという年配の女性で可愛がってくれる。先月までは中年男性が出向で来ていて「可愛い女の子が希望だったのよね~」と女上司は言ってくれた。
出だしは良好で働き甲斐がある。
店のお客の多くは年配者で恋とは無縁だ。時々冬也を思い出して体が疼くことがあるが、そこはまぁ・・・自分で慰める。
人間だもの、何を恥ずべき事があろうか!
早く夏が来て欲しいなどと同僚と話していると店内がザワついた。
入口に───冬也が入ってきた!
黒のスプリングコートに下はGパンにショートブーツ、足が長いから何でも似合う。
ちくしょう!やっぱり恰好いい。
いやいやなんで高野山に冬也?納骨に来たのか?美女と寺院巡り?
慌ててスタッフルームに逃げ込んだ。サボるわけにはいかないし困った。べつに会うくらい平気だけど一方的にお別れした気不味さがある。
「どうしたの?」
高知さんに声かけられて「下痢なんです」とトイレに駆け込んだ。
数分後店に出たら冬也はいなかった。
「凄いイケメンが来たのよ。コーヒー飲んですぐ帰ったわぁ」
「良い目の保養になったね」
女子達は口々に冬也を褒めてくれる。ちょっと嬉しい。
閉店まで冬也は姿を現さず私は平常に戻った。やはり観光なのか?春寒の高野山も趣があって良いもんだ。
仕事が終わってアパートに帰りレトルトカレーを温めているとピンポンが鳴った。ドアスコープを見ると冬也が立っている(なんでよ?)まさか尾行してた?
何度もピンポンと鳴らされて仕方なくドアフックを掛けたまま開けて、顔半分出した。
「ケイちゃん、めっちゃ寒いんだけど」
「お奨めは夏かな、出直して下さい」
「入れてくれないの?」
「都合のいいセフレは卒業しました」
「セフレ?・・・俺、真面目にケイちゃんを愛してたよ?」
「愛?!」
「本気で愛してたよ!」
「ちょ!やめてよ、近所に聞かれたらどうするの」
「部屋の中で話そう」
上手いこと言って押し倒して有耶無耶にされそうだ。
「冬也・・・他の女性とエッチしてる時点でやっぱりダメだ」
「あんなのスポーツと同じだ」
「ちゃうわ!」
なんでこんな子に育ったんだよ・・・悲しい。
「冬也とは考え方が違い過ぎる、私は普通の女だから君の圏外よ」
「俺を好きだって言ったじゃないか」
「うん、でも結婚するなら他の人が良い。浮気されたら悲しいもの」
「浮気しないよ!まさか結婚するの?!」
「そりゃいつか結婚するけどエッチがスポーツ感覚な男は嫌だ。街中でキスする男は嫌いだ。スマホばっかり見てる男は大嫌い。嫉妬する自分も嫌い。だから冬也とはもうお別れ!さようなら」
「ケイちゃん!」
ドアを閉めるとダンダンと叩く音が聞こえたがキッチンに戻ってコンロの火を止める。冬也と別れて凝った料理をしなくなった。レトルトや冷凍食品で済ませる日も多い。
「冬也に美味しい物食べさせてあげたかった。なのに食事中もスマホいじってさ・・・そういうとこだよ」
カレーを食べ終わって野菜ジュースを飲んで、もう1回ドアスコープを見ると冬也は消えていた。
諦めたかな。でもなんで出向先がここって判ったんだろう? 知ってそうな人に聞いて回ったのかな?
なんとなくお喋りな母の顔が浮かんだ・・・
翌日は仕事を終えて帰宅すると部屋の前に冬也が待っていた。
何が『愛』だ・・・今更だよ。
「ケイちゃん話を聞いて」
「もう嫌いだから。来ないで」
伸ばされた手を振り払うと冬也は後ずさりした。
「俺、ケイちゃんに嫌われるなんて考えもしなかった。だから俺のスタイルで生活してた。ケイちゃんだって何も言わなかったじゃないか」
冬也の顔色が悪い、真っ白だ。
「私なんかただのセフレって思ってたもの。私が悪いのかな」
「セフレじゃないから!」
「もういいから帰ってよ」
鍵を開けてドアを開くと冬也はドアを掴んだ。カタカタとドアが震える。
「悪いとこ直すから、チャンスを下さい」
真剣な顔しても冬也との付き合いはストレスがたまるから無理だよ。
「無理。もう冬也が嫌いだもん。いっぱい綺麗な人いるじゃない。こんなブス相手にしないでいいよ」
「ケイちゃん・・・」
「ねぇ私の誕生日知ってる?」
「・・・忘れた、ごめん」
「マカダミアナッツとアロハシャツ嬉しかったよ有難う!冬也顔色悪いから早く帰った方が良いよ」
何も言わなくなった冬也を残してドアを閉めた。ハッピーフライデーが台無しだ。推しの新しいDVDを買ったのになんで泣けるんだ、冬也の馬鹿。
風呂に入って冷凍パスタをチンして食べた。今から紅茶を淹れてチーズケーキを食べながらDVDを見よう。時計を見ると20時を過ぎていた。
窓のカーテンを開けて外を見ると結構雪が降っている。
(寒い・・・もう冬也は帰ったよね?顔色悪かったな)
こんな夜に来るとか卑怯だ。気になるじゃん。
ドアスコープを見ても・・・いない・・・念のためドアを開けた。
(あれ…開かない)
押してもドアがビクともしない、なんだこれ?
以前ドアが開かないって美恵に呼ばれた事あったな。あの時は傘が斜めに倒れて引っ掛かってた。
いや、傘は置いてない。
「冬也?そこにいる?ちょっと!ねぇ!」
警察を呼んだ、まさか自害なんかしてないよね。ハラハラしながら5分ほど待つと警察が来てドアの前で倒れている冬也を発見!
「冬也!」
生きてた。救急車で運ばれて病院へ。
「低体温症です」
医者からもう少し放置していたら命が危なかったと聞かされてゾッとした。
~~~~~~~~~~~~~~~
傘が引っかかってドアが開かないなんてある?と疑問に思われたかもしれませんが、作者は実際マンションで経験致しましたので、あるんです。(なんで開かないんだよ~と気持ち悪くて真っ青になりました)
47
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる