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第二章 ~『モフモフと新しい家族』~

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 狼の鳴き声を頼りに辿り着いた場所は、薄暗い横穴の洞窟だった。ここがシルバーウルフの住処なのかと、恐る恐る足を踏み入れると、そこには見知った顔がいた。

「ミーシャ! どうしてここに⁉」

 驚きは彼女がいたことだけではない。傍には檻に入れられたシルバーウルフの子供の姿もあった。

 状況が飲み込めず、ジッと彼女を見据えると、観念したように口を開いた。

「これは私の商品ですわ」
「ま、魔物を売るのですか⁉」
「狂暴な魔物でも子供なら安全ですもの。ふふ、きっと今回も高く売れますわ」

 シルバーウルフの子供は愛らしい外見をしている。子犬と変わらない大きさで、牙も小さく、白銀の体毛はモフモフだ。愛玩用として需要があるのも納得できた。

「シルバーウルフが狂暴になったのはこれが原因じゃ……」

 ローランドは青ざめた顔で呟く。子供を奪った人間に報復するために暴れていたのだとしたら、諸悪の原因はミーシャ、つまりはルンベル家にあるといえる。

「私が悪いとでも言いたいのかしら⁉」
「違うとでも?」
「もちろん。なにせ証拠がありませんもの」
「でも話に筋は通っている」
「――ッ……凡人のくせに随分と生意気ですわね。私が領主になったら、この家から追放しますわよ?」
「構わないさ。生活費くらい自分で稼げるからね」
「……っ……か、覚悟しておきなさい!」

 ミーシャは負け惜しみのように語気を荒げる。その声は洞窟内に反響し、外にまで響いたのか、討伐隊を引き連れたユリアスがやってくる。

「三人とも、ここにいたのか……って、おいおい、まさか……」

 ユリアスは状況からすべてを察する。子供のシルバーウルフに近づくと、檻の扉を開けて、自由にしてやる。それから鋭い視線をミーシャへと向けた。

「まさか、ここまで馬鹿な娘だとはな」
「凡人のくせに、私を馬鹿にすることは許しませんわよ!」
「口で言っても伝わらないようだな」

 ユリアスはミーシャの頬に平手を打ち込む。白い肌が赤く染まり、彼女の目尻に小さな涙が浮かぶ。そして村人に向き直ると、勢いよく頭を下げた。

「この度は、私の娘が迷惑をかけた。命は金で弁済できないが、出来る限りの誠意は尽くそう」
「ど、どうして謝りますの! 相手は平民ですのよ!」
「相手の身分は関係ない。悪いことをしたなら謝るのが人の道理だ。それすら理解できないのなら、領主の器ではないということだ」
「な、納得できませんわ!」

 ミーシャは自分が原因で頭を下げる父親を認められず、洞窟から逃げ去ってしまう。村人たちは、そんな彼女を尻目にユリアスの謝罪を受け入れる。

「領主様は我ら村人に良くしてくれています。遺族たちも納得してくれるでしょう。どうか頭をあげてください」
「すまない。恩に着る」

 失われた命が戻ってくることはない。さらに村人たちもユリアスに非がないことは理解していたため、揉め事に発展することはなかった。

「他に困っていることはないか? 私にできることがあれば何でも言ってくれ」
「ならシルバーウルフの子供についてですが……」
「村には近づけないようにしたほうが良いな」
「助かります」

 村人の声には恐怖が混じっていた。襲われたトラウマが心に刻まれている証拠だ。子供だから害になることがなくても、存在そのものが恐怖の対象なのである。

「マリアンヌ、お前にシルバーウルフの子供の世話を頼みたい」
「わ、私がですか⁉」
「ローランドは教師の仕事があるからな。報酬は金貨一枚出す。どうだ?」
「私にできるでしょうか……」
「できるさ。その証拠にほら。お前に懐いているじゃないか」

 いつの間にか、シルバーウルフの子供はマリアに擦り寄っていた。聖女としての力に惹かれたのか、それとも彼女の内面に魅力を感じたのかは分からない。だが好かれることに対して、悪い気はしなかった。

「一緒に来ますか?」
「ワン♪」
「では、あなたの名前を決めましょう。そうですね……レオ様で如何ですか?」

 シルバーウルフの子供は尻尾を振る。気に入って貰えた証拠だった。

「レオ様、あなたは私の大切な家族です。これから仲良く暮らしていきましょうね」

「ワン♪」

 マリアはレオを抱きかかえる。モフモフとした毛の感触に包まれながら、新しい家族を歓迎する。

「お父様、お兄様、私は素晴らしい家族に囲まれて本当に幸せです♪」

 前世でのマリアは辛いことばかり経験してきた。だが現世では兄のローランドも、父のユリアスも、自分のことを愛してくれている。そこにレオという新しい家族が加わったのだ。

 家族さえいれば、ブスだと罵られても前向きに生きていける。彼女は幸せを噛み締めながら、愛されスローライフを満喫するのだった。
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みんなの感想(4件)

emi
2022.06.26 emi

ウィルは裏切りがひどすぎ。唯一尽くして目まで見えるようにしてくれた相手に、別れるだけならまだしも、殺すなんて。主人公優しすぎて出会ったら尽くしそうだし、合わないままウィルは不幸になったらいい。

解除
りりあ
2021.10.31 りりあ

1章の誤字報告です。
×特別性
○特別製
楽しく読ませて頂いております。
今後も製作活動頑張ってください♪

解除
cyame76
2021.10.31 cyame76

冷遇されていた王子なのに、回復したら掌クルーが凄い。スラム落ちでマリアともう出会う事ないといいな。
マリアは転生しても銀髪なのは残念だけど、家族愛があって良かった!!(*´▽`*)
でも、姉がな~
殺人妹がどこに転生したか楽しみです。

解除
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