あやかし古書店の名探偵

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第一章 ~『燃やしたい本』~

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「ただいまっ」

 飛び込むように自宅に帰宅した美冬は額に汗を浮かべながら、目当ての物を探すためにリビングに顔を出す。テレビを鑑賞していた弟の夏彦と目が合った。

「おかえり、姉ちゃん。そんなに慌てて、どうしたんだ?」
「燃やしたいモノがあるの。ライターがどこにあるか知らない?」
「本当にどうしたんだよ!?」
「とにかくいますぐ必要なの!」
「仕方ないな」

 夏彦は渋々ながら立ち上がると、戸棚からライターを取り出す。

「ありがとう。ならそれを渡して――」
「何を燃やすかは知らないが、心配だし、俺も付いていくよ」
「別にいいのに……」
「駄目だ。この条件が飲めないならライターは渡さないぞ」
「仕方ないわね……お姉ちゃんと少しでも一緒にいたいのなら、素直にそう言えばいいのに♪」
「ははは、ほら、とっとと行くぞ」
「笑って流さないでよ!」

 美冬はライターを受け取ると、夏彦と共に土蔵《どぞう》へと向かう。鍵を開けて、中に入ると、勢いよく階段を昇った。

「相変わらず、すげー本の数だな」

 視界一杯に広がる本の山に、夏彦は圧倒される。そんな彼を尻目に、『宮川舎漫筆《きゅうせんしゃまんぴつ》』を掴み上げる。

「なんだよ、その本?」
「これはね、呪いの書なの」
「はぁ?」
「でも安心して。すぐにこの世から消し去るから」

 そこで夏彦は、美冬がライターを求めていた理由を察する。

「待て待て、まさかとは思うが、その本を燃やす気か?」
「よく分かったわね」
「ここで火を付けたら土蔵《どぞう》ごと丸焼けになるだろうがっ!」
「いくら私でもそんな馬鹿な真似しないわよ。ちゃんと庭で燃やすわ」
「さすがに姉ちゃんでもそれくらいの分別はあったか……」
「……夏彦って私のことを年上だと敬ってないわよね?」
「もちろん」
「ひどいっ」
「なにせ姉ちゃんは過去にも色々とやらかしているからな。小学生の頃だが、焼きバナナを作ろうとして、ボヤ騒ぎを起こしたこともあったよな」
「うっ……そ、それを言われると何も言い返せないわ」
「とにかくだ。本を燃やす前に事情を説明してくれ」
「仕方ないわね」

 ゴホンと咳払いすると、美冬は意を決して自分に起きている現象を告白する。

「実は私、この本のせいで呪われたの」
「姉ちゃん、まさか……変な宗教にでも嵌ったのか?」
「え?」
「姉ちゃんの空っぽの頭だと騙されるかもしれないが、人は宙に浮けないんだぜ」
「知っているわよ、それくらい」
「なら呪いってなんだよ?」
「それは世にも恐ろしい呪いなの……聞いて震え上がらないでね」
「いいから、さっさと教えろ」
「実はね、呪いのせいでモテモテになっちゃったの!」
「はぁ?」

 夏彦は呆れたように冷めた目を向ける。

「それのどこに恐怖する要素があるんだよ?」
「夏彦! あなたは分かってないわ! モテるのはね、決して楽じゃないのよ!」
「そ、そうか……」
「好きでもない人が言い寄ってくるし、歩いているだけで怪しい男の人に声をかけられるし……とにかく呪いを解くためにはこの本を燃やすしかないの!」

 鬼気迫る表情で本を焼くことを宣言するが、第三者の夏彦は客観的な立場で話を聞いていた。

「あのさ、その本はじいちゃんの遺品だよな。本当に燃やしていいのか?」
「そ、それは……でも呪いを消すためには……」
「そもそも燃やすと呪いが解除されるのか? バチが当たって、呪いが強まることはないのか?」
「ならどうすればいいのよ!」
「売ればいいだろ」
「え?」
「だからさ、売ればいいんだよ。手元から離れて呪いが解除されたらラッキーだし、欲しい人に本が渡るなら、死んだじいちゃんも納得するだろ」
「その考えは盲点だったわ。さすがね♪」
「最初に燃やすって考えに至る姉ちゃんの頭がオカシイだけだと思うぞ……」
「ひどいっ」
「本を売るなら駅前に古書店があったはずだ。しかもそこは幽霊や妖怪関連のオカルト書を専門に扱っているそうだから、呪いについても相談できるかもな」
「オカルトね……」

 美冬は研究室で西住に助けられた時のことを思い出す。彼もまたあやかしなどのオカルトに精通していた。

(書店さんに相談して解決しなかったら、西住くんにも相談してみようかしら……)

 自分でも意識しないままに、西住に対して頼り甲斐を感じるようになっていた。

「おーい、姉ちゃん。ぼーっとしてどうしたんだ?」
「ちょっと西住くんについて考え事を……」
「西住……もしかしてそいつ――」
「ち、違うの。別に西住くんとはただの友達で。れ、恋愛感情はないの」
「…………」
「と、とにかく私、本屋に行ってくるから」

 耳まで真っ赤にしながら、美冬は土蔵《どぞう》を飛び出す。その背中を夏彦は寂し気な目で見送るのだった。
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