あやかし古書店の名探偵

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第二章 ~『秋葉の登場』~

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「それじゃあ、俺たちは帰るぜ。またな」

 謎を解いた山崎兄弟は、あやかし古書店を後にする。嵐が過ぎ去った後のように静まり返る店内で、時計の秒針の進む音が強く耳に残った。

「帰ったね」
「それに何も買わなかったわね。これじゃあ、西住くんがタダ働きじゃない」
「道楽でやっている仕事さ。別に構わないよ。それよりも問題は、あやかしの方さ」
「鬼さんがどうかしたの?」
「まだ君に取り憑いたままだ」
「えええっ、問題を解決したのに!?」
「他にも何かあるってことだね」

 鬼の望みがすべて叶った時、未練を亡くしたあやかしは美冬の元から去る。残り続けているのなら、それは心残りがあることを意味する。

「もしかしてあの頭痛がまた私を襲うのかしら?」
「そうならないためにも原因を探らないとね」
「でもどうやって……」
「それは――」
「邪魔するぞ!」

 勢いよく店の扉が開かれる。随分と荒っぽい客だと視線を移す。

「誰かと思えば、秋葉くんじゃない!」
「東坂。それに西住も……まさかここはお前の店なのか?」
「僕がこの店の店主さ」
「やっぱりな。店の雰囲気が西住とそっくりだ」

 秋葉はキョロキョロと店内を見渡す。その目には好奇の色が宿っていた。

「それで、この店では何を扱っているんだ?」
「……何の店か分からずに入店するのは止めた方がいいわよ。冒険するのはゲームの世界だけにしておきなさい」
「俺をゲーム中毒者として扱うのを止めろ! それに俺も来たくて来たんじゃない! 頭が痛くなって、足が勝手に動いたんだ」
「秋葉くん……」
「嘘だと思うかもしれないが、本当の話なんだ!」
「信じるわ。私にも似たような現象が起きたのよ」
「東坂にも?」
「あなたをこの店に導いたのは、実はね……あやかしの仕業なの!」
「そうか、あやかしの仕業なのか……」
「恐れるのも無理ないわね。なにせあやかしだもの」
「ああ、とても怖いぜ……現実と空想の区別ができない東坂の頭がな」
「えええっ、この流れで梯子外すの!」
「まぁいいや。あやかしの仕業だとして、俺に何が起きているのか教えてくれ」
「実は……」

 美冬は自分にも頭痛が起きてあやかし古書店へ訪れたことや、鬼が何かに怒っていることを説明する。

 秋葉は美冬から説明を受けると、目をキラキラと輝かせて、キョロキョロと周囲を見渡す。

「いつも以上に挙動不審だけど、どうかしたのかしら?」
「言い方! それに俺は冷静沈着な男だ。鬼がいるなんて言わなきゃ、こんなに興奮してない」
「もしかして鬼が好きなの?」
「大好きだ!」

 ポケットからスマホを取り出した秋葉は、可愛い鬼の女の子の人形写真を映し出す。

「可愛いだろ、俺の嫁の鬼娘ちゃんだ」
「お嫁さん? でもこれ人形よ」
「そんな真面目に返されても困るんだが……とにかくこのフィギュアは俺の宝物なんだ!」
「どこかで見た覚えがあると思ったら、この人形、研究室に置いてあるものよね。暇があればニヤニヤと眺めていたのも、愛着の現れだったのね」
「違う! 全然違う!」
「愛着がないの?」
「違う。そうじゃない。あのフィギュアは別物だ」
「でも同じに見えるわよ」
「目の部分を見てみろ。研究室に置いてあるフィギュアは通常版だから赤目だ。でもこの写真のフィギュアは違うだろ」
「目が黄色ね」
「鬼娘ちゃんは怒ると目が黄色になる設定なんだ。怒りん坊鬼娘ちゃんフィギュアは世界で十体しかない貴重品なんだぜ。だけどな……悲劇が起きたんだ……」
「悲劇?」
「これを見てくれ」

 画像をスクロールして、別の写真を表示する。そこには鬼娘の人形の首から上が破壊された無残な姿が映し出されていた。

「これは酷いわね……でももしかしたら、これが鬼さんの怒っている理由なのかも」
「僕もこれが正解だと思うよ」

 話を聞いていた西住は確信めいた表情でそう断言する。

「偶像を破壊されたあやかしが怒ることは珍しくない。祠を破壊された妖怪が復讐する話を聞いたことあるでしょ」
「昔話で耳にしたことがあるかも」
「あやかしにとって信仰の元になる偶像はそれだけ大切なんだ。特に秋葉くんは並々ならぬ思いを鬼娘の人形に抱いていたみたいだからね。あやかしが怒ったとしても無理はないよ」
「いいや、それは違うぜ、西住」

 秋葉は西住の解釈を否定する。

「鬼娘ちゃんフィギュアは、呪いによって壊されたんだ」
「呪い?」
「でないと説明がつかないことが起きたんだ」
「その話、詳しく聞かせてもらえないかな?」
「構わないが……聞かせたところで何かが変わるとも思えないが……」
「ふふふ、きっと変わるわ。なにせ西住くんは名探偵だから」
「東坂さん、僕は名探偵なんかじゃないよ。ただあやかしが見えるだけの書店員さ」

 西住は謙遜するように笑みを浮かべる。あやかし古書店の名探偵の次なる事件が始まろうとしているのだった。

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