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第三章 ~『消えたケーキの謎』~
しおりを挟む自宅へ帰宅した美冬は、玄関の鍵を開けて、家の中へと入る。電気の点いていない薄暗い室内は夏彦が帰っていないことを主張するかのようだった。
「まだ家には帰っていないみたいね」
リビングの電気を点ける。ソファに座るよう、西住を促すと、美冬は一人台所へと向かう。
「何か食べるモノ残ってないかしら」
空腹を埋めるために冷蔵庫を開ける。中には仕舞っておいたケーキの箱くらいしかない。
「おまけで貰ったシュークリームだけでも食べようかしら」
箱からシュークリームを取り出すべく開封するが、そこで異変に気付かされる。本来あるはずのケーキが消えているのだ。
「に、西住くん、これ!」
「どうかしたの!?」
「ケーキが箱から消えているの。もしかして夏彦が食べに戻ってきたのかも!」
「その可能性は高いね」
「うふふ、でもよほどお腹が空いていたのね。二つも食べるなんて♪」
美味しかったから手が止まらなかったのかもしれない。買ってきた甲斐があったと、口元が綻ぶ。
「あれ? でもおかしいわね。夏彦は家の鍵をリビングに忘れていたはずなのに……」
鍵の収納ボックスを見ると、裏庭の鍵も含め、すべての鍵が残されていた。戸締りされていないのかもしれないと、鍵の施錠をチェックするが、そのすべてがしっかりと閉められていた。
「待って。やっぱり変よ。私が帰るまで、この家には鍵がかかっていたのよ。鍵は家の中にあったから外から使うことはできないし。ねぇ、これって……」
「密室だね」
誰も侵入することのできないはずの家に忍び込み、ケーキだけを食べる方法について思慮するが、密室を打破する方法は思いつかない。
「まさかこれもあやかしの仕業?」
「その答えは明智さんが知っているはずさ」
「どうして由紀が?」
密室と消えたケーキの謎になぜ明智が関わってくるのか。彼に問うも、躊躇うように口をパクパクと開閉を繰り返す。
「明智さんに電話してみれば、すべて分かるさ」
「……西住くんがそこまで言うのなら」
美冬はスピーカーモードにして、明智に電話をかける。数回のコール音が鳴り、彼女は通話に出る。
「美冬、どうかしたの?」
「あのね、由紀。西住くんから話があるそうなの」
「西住が!?」
西住からの話と聞き、明智が電話越しでも驚いているのが伝わってくる。ゴクリと唾を呑む音も響いた。
「単刀直入に聞くよ。明智さん、そこに夏彦くんがいるよね?」
「い、いるはずないじゃない」
「嘘だね。そこにいるはずだ」
「何か確証があるの?」
「確証と呼べるほどのものじゃないよ。けど君が匿っているなら話がすべて繋がるんだ」
「……その話とやらを聞かせて頂戴」
「単純な話さ。君は東坂さんとの話の中で僕と仲良くすると、あやかしの呪いにかかると口にしていたよね。でもそれは普段の君らしくない。なにせ今までの君は、あやかしなんて存在しないと、否定してきたからね」
「急にあやかしを信じるようになったから私が怪しいと?」
「いいや、それだけだと不十分さ。本命は夏彦くんの家出の理由だ。賢明な彼が何も考えずに行方を眩ませるとは思えない。そこには意図があるはずだ」
「…………」
「君の、いや、君たちの狙いは僕と東坂さんの仲を引き裂くことにある。そのためには呪いに信憑性を持たせなくてはならない」
「…………」
「ここからは僕の想像だけど、夏彦くんを捜索しても発見できない理由をあやかしの仕業にするつもりだったのかな。それから呪いを解くために僕と縁を切るべきだと説得し、距離を置いたところで彼が発見される計画だった。どうかな、僕の推理は?」
「……チープなシナリオね」
「呪いを信じている相手にしか通じない子供騙しだね」
「…………」
「直接会って話がしたい。構わないかな?」
「いいわけないでしょ。私に用はないのよ」
「なら僕の方から向かうよ」
「え?」
西住はリビングを飛び出し、廊下を歩く。その足取りに迷いはない。
「西住くん、由紀の家へ向かうなら玄関は逆方向よ」
「玄関の場所は僕も把握しているさ」
「ならどうしてこっちに?」
「それは目的地に着いてからのお楽しみさ」
「目的地?」
「夏彦くんの部屋さ。昔と変わらないなら、確かこっちだよね」
幼少の頃に西住は東坂邸を訪れていた。その時の記憶を頼りに、夏彦の私室へと辿り着く。
「失礼するよ」
西住は扉を勢いよく開く。だが薄暗い室内は窓も閉じられ、カーテンも閉められているためか、月灯りさえ入ってこない。ボンヤリとしていて視界が悪い部屋を見渡すが、ベッドと机があることくらいしか判別できなかった。
「西住くん、さすがに勝手に部屋の中に入るのはマズイわ」
「東坂さんの意見はもっともさ。その気遣いを明智さんは利用したんだ。だよね?」
西住は部屋に足を踏み入れると、扉によって隠れる死角に目を向ける。入室することで初めて気づける部屋の隅には、明智と夏彦がひっそりと潜んでいたのだった。
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