公爵に婚約破棄された……じゃなくて、公爵が婚約破棄されたので、転生幼女の私が保護します!

上下左右

文字の大きさ
4 / 24
第一章

第一章 ~『幼女は天才でした』~

しおりを挟む

 遭難してから数日が過ぎたが、リサは毎日欠かさずに魔法の訓練を続けた。

 最初は蝋燭サイズの小さな火を灯すことでさえ四苦八苦していたが、今では拳くらいの大きさの炎を生み出せるようになっていた。

「普通なら、基礎の火球を作るだけでも数ヶ月はかかるんだ。それを、たった数日で……」
「まだまだです。でも、できることは増えてきました」

 リサが笑顔で手のひらを掲げると、小さな火球が揺れる。そっと指を動かすと、火球が形を変え、空中にふわりと模様を描く。

「魔法をここまで制御できるなんて……」
「私、もっと、もっと上手くなりたいです!」

 二人は砂浜に並んで立つと、海に向かって炎を放つ。波の音が響き、時折、白い鳥たちが空を横切る中、炎が海に落下し、白熱した蒸気が吹き上がる。

「これなら応用に進むのも早そうだね」
「応用ですか?」
「例えば、炎を盾にする防御魔法とか、鋭い火の矢を作る攻撃魔法とか。魔力の形を変えれば、色んな使い方ができるんだ」
「学び甲斐がありそうですね!」
「でも、まずは基礎をもっと固めよう。焦ると魔力の流れが乱れるからね」
「はい!」

 その後もリサの訓練は続いた。炎が暴れて手を焦がしそうになったり、火球が暴走して地面を焦がしたりもした。

 だがリサは諦めなかった。何度失敗しても、顔を上げ、ハンスの助言に耳を傾ける。そんなリサの努力を見守りながら、ハンスはふと口を開いた。

「そういえば、もう一つ伝えるべきことがあったよ。実は魔力を体に巡らせると、耐久力や腕力が底上げされるんだ」
「そんな効果があるのですか!」

 リサは驚きに目を見開き、自分の腕をまじまじと見つめる。たしかに、最近体が妙に軽く、力が湧いてくる感覚があった。

「試してみよう」

 ハンスは浜辺の端に転がっている大きな流木の前へ移動すると、それをあっさりと持ち上げる。

「僕の腕力でも魔力があれば、こんなことができるようになる」
「私も同じことが?」
「訓練すればね」

 ハンスは流木をそっと砂浜に戻し、額の汗を拭う。砂浜に降り注ぐ太陽がリサの喉にも乾きを与えていた。

「そろそろ水分補給しましょうか」

 リサはミネラルウォーターをハンスに手渡す。ペットボトルの扱いに慣れたのか、器用に蓋を開けて、水分を摂取する。

「水も減ってきたかな……」
「心配しなくても貯めた雨水がありますから」

 リサは乗客が残した荷物の中から鍋を発見していた。鍋に溜めた雨水を移すと、慎重に炎の温度を制御しながら鍋の底を温めていく。すると、ぐつぐつと水が沸騰を始めた。

「これで、殺菌完了です。あとは冷ませば飲めるようになりますよ」
「リサは本当に頼りになるね」
「たまたま学ぶ機会が多かったおかげですよ」

 命に直結する飲料水を確保できたのはテレビ番組のおかげだ。心の中で感謝していると、ハンスが神妙は面持ちで次の課題を切り出す。

「あとは食料だね」
「乗客たちが持っていた食べ物、それに非常用食料もかき集めてみましたが……計算では、二人で節約すれば、あと一ヶ月は持つはずです」
「一ヶ月か……すまない。僕がいなければ、もっと食料を長持ちさせられたのに……」
「そんなことを言わないでください! ハンス様がいてくれたから、私は魔法を覚えられたのですから。それに一人だと、寂しくて心が折れていたでしょうから……」
「リサ……ありがとう」
「こちらこそ」

 リサが笑い返すと、二人の間に柔らかな空気が流れる。だが、その安堵の中にも、現実の厳しさは確かに存在している。

「ただ食糧問題は考えなくてはいけませんね。今の私たちでは、森へ行くにはまだ不安が残りますから」
「魔物に遭遇したら、今の実力では逃げ切れるか分からないからね」

 二人は良い策がないものかと思案を巡らせる。しばらくの沈黙が続いたあと、リサがぽつりと提案する。

「虫を食べるのは、どうでしょうか?」
「……虫?」
「私の故郷ではコオロギ食がブームになったこともあります。私も試しましたが、意外と悪くなかったですよ」
「そ、そうか……う、うん。たぶん……いける……と思うよ」

 ハンスは目を泳がせながら、頑張って前向きな言葉を絞り出す。その反応にリサはくすりと笑みを零す。

「虫は最終手段にしましょう。できる限り、別の食料を探します」
「ありがとう、リサ……」

 少し場が和んだその時、リサはふっと思い出したように手を叩く。

「良い食材を見つけました!」

 リサは砂浜にしゃがみ込む。そこには小さなカニが器用に足を動かして歩いている。ハンスもリサの肩越しに覗き込む。

「おお、本当だ……ちっちゃいけど、ちゃんとカニだね」
「この大きさでも、集めれば立派な食料になります」

 リサは嬉しそうに、そっと両手でカニを包み込むように掬い上げる。小さなハサミをバタつかせるカニを、リサは丁寧に持ち上げた。

「ほら、ハンス様も」
「よ、よし……」

 ハンスも恐る恐る手を伸ばし、近くを歩いていた別のカニをつまみ上げる。慣れない手つきだったが、なんとか捕まえることに成功する。

「やった!」
「この調子で、たくさん捕まえましょう!」

 二人は夢中になって、砂浜を探し回る。小さなカニたちが、砂の中に潜ろうとするたび、リサとハンスは素早く手を伸ばして捕まえていく。

「二十匹くらい集まりましたね!」

 シャンパンを冷やすためのアイスバケツを発見していたリサは、その中にカニを投入していく。カニたちはバケツの底で元気に動き回っていた。

「こんなに小さなカニでも、集まれば立派な食事だよね」
「早速、食べてみましょうか」

 鍋にカニを移し、火の魔法で加熱していく。じゅう、と小さな音を立てながら、カニたちが赤く色づいていく。

 香ばしい匂いが漂い、二人のお腹が鳴る。リサは焼き上がったカニを一つ取り上げると、ハンスに差し出した。

「どうぞ」
「ありがとう。いただくよ」

 ハンスは笑顔で受け取ると、口の中に放り込む。

「硬いけど……うん、十分に美味しいよ」
「では私も……悪くない味ですが、やっぱり味が薄いですね……そうだ、塩を使いましょう!」
「そういえば、魔法の練習のために作っていたね」

 海水を蒸発させて塩を作るには、緻密な魔力の制御が求められる。その修練の過程でできた塩を小瓶に残していた。

 白い結晶を指先でつまみ、焼き上がったカニにふりかける。そして再び、カニを口の中に放り込む。

「やっぱり、違いますね!」
「うん、塩の力はすごい……」

 二人は小さなカニを夢中で食べ続ける。潮風が優しく吹き抜けていくのを感じながら、リサたちは笑みを零すのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

処理中です...