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91 ハツヒノデの怪
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「結構暗いわね」
足元を懐中電灯で照らしながら歩く。踏み外すと土手の坂を転げ落ちてしまうので常に足元を見る。
「そうですね…」
辺りをキョロキョロと見渡している佐々木さんは怖そうで、私と1mも距離を開けない。
まだ日の出まで結構ある。
土手は長いので歩きながら見る場所を決めるのだが、位置的にはそこまでどこも大差ない。暗いのが良いならば奥に進むだけ。
正直進みたくない。
面倒だからではない。怖いのである。
ここでわっと驚かされたら数メートル後方に吹っ飛ぶ自信がある。
今にも横の暗闇の中から何かが出てきそうで、佐々木さんは私に頼っているが私も佐々木さんを頼っている。
水面を見つけるとつい時間を確認してしまう。4時44分に鏡を見ると何かが映るという怪談を恐れてだ。もうとっくに過ぎていたが。
「あ、あの委員長さん…」
佐々木さんが私の袖をつかむ。神経を張り詰めていた私ははっとして振り向いた。
「どうしたの、休憩?」
鞄を開けようとする。
「いえ、違います」
「その…ただ別に空耳かもしれないんですけど…」
袖を掴んだままキョロキョロとした。
「なんか、目覚まし時計の様な音がするんです」
「目覚まし時計?」
何かと思って耳を澄ます。
奥の方に、確かにジリリリと目覚まし時計の様な音がした。
「ああ、車で仮眠してる人もいるからね、その人達のだと思うよ」
少しビビった…。やめてよもう。
「そのはずなんですけど…」
「あの、私が土手に入った時からずっと聞こえてるんです、小さくて鈴虫かと思ってたんですけど」
この時期はいない。ならば何?
「それは…、多分」
聞き間違え、それしかないけどでも確かに今聞こえてる。澄ませば聞こえる程の小さな音だが、確実に。
それに土手に入ってからは既に100m以上は進んだ。土手の下に駐車してある車全ての目覚まし時計が鳴ってるはずもない。
「あの…気にしないで下さい、きっと別の音がそう聞こえてるだけです」
そう佐々木さんは言うが、袖を掴んでいた手は今は私の腕をしっかりと握っていた。
「…うん、進もうか」
背中がゾッとする。見られているような感覚に勝手になってしまう。一度気にしてしまうと、もう音は耳から離れなかった。
そうしてゆっくりと歩いていく。あれからもう50メートルは更に進んだはず。
しかし音は消えないどころか近くなっている。近付いて来ている。凄いスピードで、後方から迫ってくる。
「あ、あの委員長さん…音…音が…」
慌てている佐々木さんは腕にしがみつき、泣きそうな声でそう言った。この音は聞き間違えや気にしすぎではない。
「…わかってる」
「少しここで休憩しましょう」
土手の砂利道に座り込む。音が通り過ぎてくれるのを願う。佐々木さんも私の隣に座った。
「はい…は…い…」
腕から佐々木さんが震えているのがわかった。もう音ははっきりと聞こえている。
佐々木さんの首に手を回し、頭を抱き抱えた。
こうして強がっているものの、私の内心はパニックだった。こんな時に楽観視出来ない。音が目の前で止まり暗闇から何かが出てくるのを想像する。
誰か、ただの人であってくれ。鳴っている目覚まし時計を放置して持ったまま歩いているただの人であれ…。
「近いです…近い…!」
腕を掴む力が強くなってきた。
「だ、だ大丈夫…」
ほんとに近くなってる。10メートルもないんじゃないか?ほんっとまずいってやばいやばい…!!
「委員長さん…!」
真後ろでジリリと音がして、肩を強ばらせて強く佐々木さんを抱く。実際真後ろではなく下なのだが、はっきりと目覚まし時計の音が聞こえた。
そしてその音は通り過ぎて行く。
「ふう…ただのランナー…かな」
「委員長さん…」
顔を上げた佐々木さんの目には涙が溜まっていた。私だって泣きそうだった。
足元を懐中電灯で照らしながら歩く。踏み外すと土手の坂を転げ落ちてしまうので常に足元を見る。
「そうですね…」
辺りをキョロキョロと見渡している佐々木さんは怖そうで、私と1mも距離を開けない。
まだ日の出まで結構ある。
土手は長いので歩きながら見る場所を決めるのだが、位置的にはそこまでどこも大差ない。暗いのが良いならば奥に進むだけ。
正直進みたくない。
面倒だからではない。怖いのである。
ここでわっと驚かされたら数メートル後方に吹っ飛ぶ自信がある。
今にも横の暗闇の中から何かが出てきそうで、佐々木さんは私に頼っているが私も佐々木さんを頼っている。
水面を見つけるとつい時間を確認してしまう。4時44分に鏡を見ると何かが映るという怪談を恐れてだ。もうとっくに過ぎていたが。
「あ、あの委員長さん…」
佐々木さんが私の袖をつかむ。神経を張り詰めていた私ははっとして振り向いた。
「どうしたの、休憩?」
鞄を開けようとする。
「いえ、違います」
「その…ただ別に空耳かもしれないんですけど…」
袖を掴んだままキョロキョロとした。
「なんか、目覚まし時計の様な音がするんです」
「目覚まし時計?」
何かと思って耳を澄ます。
奥の方に、確かにジリリリと目覚まし時計の様な音がした。
「ああ、車で仮眠してる人もいるからね、その人達のだと思うよ」
少しビビった…。やめてよもう。
「そのはずなんですけど…」
「あの、私が土手に入った時からずっと聞こえてるんです、小さくて鈴虫かと思ってたんですけど」
この時期はいない。ならば何?
「それは…、多分」
聞き間違え、それしかないけどでも確かに今聞こえてる。澄ませば聞こえる程の小さな音だが、確実に。
それに土手に入ってからは既に100m以上は進んだ。土手の下に駐車してある車全ての目覚まし時計が鳴ってるはずもない。
「あの…気にしないで下さい、きっと別の音がそう聞こえてるだけです」
そう佐々木さんは言うが、袖を掴んでいた手は今は私の腕をしっかりと握っていた。
「…うん、進もうか」
背中がゾッとする。見られているような感覚に勝手になってしまう。一度気にしてしまうと、もう音は耳から離れなかった。
そうしてゆっくりと歩いていく。あれからもう50メートルは更に進んだはず。
しかし音は消えないどころか近くなっている。近付いて来ている。凄いスピードで、後方から迫ってくる。
「あ、あの委員長さん…音…音が…」
慌てている佐々木さんは腕にしがみつき、泣きそうな声でそう言った。この音は聞き間違えや気にしすぎではない。
「…わかってる」
「少しここで休憩しましょう」
土手の砂利道に座り込む。音が通り過ぎてくれるのを願う。佐々木さんも私の隣に座った。
「はい…は…い…」
腕から佐々木さんが震えているのがわかった。もう音ははっきりと聞こえている。
佐々木さんの首に手を回し、頭を抱き抱えた。
こうして強がっているものの、私の内心はパニックだった。こんな時に楽観視出来ない。音が目の前で止まり暗闇から何かが出てくるのを想像する。
誰か、ただの人であってくれ。鳴っている目覚まし時計を放置して持ったまま歩いているただの人であれ…。
「近いです…近い…!」
腕を掴む力が強くなってきた。
「だ、だ大丈夫…」
ほんとに近くなってる。10メートルもないんじゃないか?ほんっとまずいってやばいやばい…!!
「委員長さん…!」
真後ろでジリリと音がして、肩を強ばらせて強く佐々木さんを抱く。実際真後ろではなく下なのだが、はっきりと目覚まし時計の音が聞こえた。
そしてその音は通り過ぎて行く。
「ふう…ただのランナー…かな」
「委員長さん…」
顔を上げた佐々木さんの目には涙が溜まっていた。私だって泣きそうだった。
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