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第9章 魔王国編2

第257話 バンバンバンバン晩餐会

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「はあぁぁぁ、良い湯だなぁぁ」
晩餐会の前にひとっ風呂浴びに来たシーラ達。
「城の大浴場も良いですが、このように空の下で入る風呂も中々の物ですねぇ」
三人のクエルノ族は女性専用の露天風呂に入っていた。
周りを囲む塀には色とりどりの花が植えられて優雅な香りを楽しみ、先程までの緊張がほぐれて気持ちが楽になっていた。

「やっぱ、女王って威厳が有るわよねぇ、漂う雰囲気が違うもの」
「はい。姫様の仰る通りです。例え亡国の王族でも持って生まれた気品と言いますか、凛としたたたずまいが素敵でした」
「姫様もいずれお義母様のように立派な王妃様になられますよう、我らも蔭ながらお力添えに努めてまいります」
「ええ、頼みますね」

それぞれが先ほどの場面を自身に置き換えて妄想していた。
シーラは未来の王妃として。
召使い達はオリビアの様に、王妃の斜め後ろで全てを見渡し付き従う光景を、自身と未来の居場所として目標を定めていた。

パウリナからノタルム国での食事会の様子を細かく聞き取り、迎え入れるべく対応に追われる獣人族達。
念の為、ゲレミオのメンバーに親衛隊も同席してもらう。
獣人族としては、初対面の種族なので粗相の無いようにゲレミオの者に間に入ってもらう事となった。
それは獣人同士でも種族間で禁句や触れられたくない話題も有る為、迂闊に話しても解らないからだ。
その為、すでに打ち解けているゲレミオを側に座らせて対応させるようにした。

アンドレアの思考はプリマベラの影響が強かったが、パウリナの暴走で事が進み、リーゼロッテからも「成る様にしか成らないわよ」と言われ、だったらアルモニアよりも早く対応した方が優位に立つと考えているのだ。

この場合の優位性とは女性特有の見栄と自尊心だ。
何故ならば黒龍王の周りは女性上位の家族が多いだからだ。
それに、第一、第二夫人は現在妊娠中で”公”には知らされていないらしく、極秘にパウリナに指示を出していると教えてくれた愛娘だ。
どの国よりも先に国交を開く事が可能で、それが自国にどれだけの利益をもたらすかは未知数だが可能性を信じ即決したのだった。
その為、リーゼロッテ達も同席してもらいモンドリアン家との繋がりも見せつけるようにした。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


城に近づくにつれ、その巨大さと細かな細工に至るまでの造形美にクエルノ族は唸っていた。
(まさかこれほどまでとは、流石は陛下の居城だけある)
シオンが思う事も四天王が同様に感心していたがシーラは心で野心をいだいて居た。
(ああぁ私の城もこんなのが良いなぁ)

案内された会場には大きな卓が有り、黒龍王と群青の聖戦士であるパウリナが並んで座り、パウリナの横にはネル殿とアンドレア夫婦に各種族の代表が続き、黒龍王の横にはリーゼロッテとデイビットにオリビアと獣人達が並ぶ。
卓を挟んでシーラとシオンが並び召使いと四天王にゲレミオの仲間が腰かけていた。

バリアンテの国王である黒龍王から紹介され全員の挨拶を済ませると食事が次々と運ばれてくる。
パウリナは事前に念話で好き嫌いの有無を聞いていたらしい。
生憎好き嫌いは無いと言うシーラだが、初めて食べる物もあるからその場で教えて欲しいと、優しく気づかう姉を意識しているようだ。

バリアンテの料理は良く言うと野趣あふれる調理で様々な香辛料が効いた味付けが主体だ。
アルモニアはもう少し繊細な細工や手間がかかっている料理だ。
メディテッラネウスの料理は素材の味をそのままにした料理が多い。
言い方を変えると雑、ごちゃごちゃしてる、味が無いと三ヵ国の特色が有る。

しかし、ゲレミオの料理屋が出来てからは、それぞれの王宮料理も進化しているようだった。
中でもメディテッラネウスの料理は味の無さを調味料で変化を持たせて別物に進化しているようだった。
アルモニアはバリアンテから輸入される香辛料を使った調理が流行り、バリアンテは大皿料理から一品ずつ順番に出してくる手法に変わってきている。
とは言っても王宮での話だ。

スパイシーな味も多くの種類が有り、味の異なる香辛料を使った料理が出てくる。
そして、今では定番の冷やした飲み物だ。
果物の飲み物や酒精の入った物も全て冷やされて出てくる。
以前まではベロベロに酔ってから常温の酒精を飲むと、”うっ”と言って一気に汚物をばら撒いていたのが、冷たく冷やした酒精は”まだまだ飲める”と、街の料理店は嬉しい悲鳴だそうだ。

「美味しいぃぃっ! こんな美味しい料理初めてぇ!」
初めての料理に舌鼓を打つ。と言うよりもガッ付いて食べるようにしか見えないが獣人達にはそれがウケた。
自国の料理を頬張るシーラの姿に親近感が有った様だ。
それに「2人は最近会ったのでしょ?」と言うアンドレアの質問に「パウリナお姉様には本当に良くして頂いてます」とシーラが返事をした事もアンドレアには高得点になったようだ。
全ては出席者を事前にパウリナから聞き出し、召使いが戦略を立てていたのだ。

また、ネル殿も上機嫌だった。
以前シオンにポロッと口が滑って言った事が原因だが龍騎士隊の事だ。
「時に、モンドラゴン殿は龍騎士隊の隊長をされていると伺ったのですが、どのような隊なのですかな?」
そこからはネル殿の独壇場と成り、自慢話に変わって行った。
そこまで自慢されると聞かなければならない質問が出てくる。
「是非、飛翔する姿を見せて頂きたいですなぁ」
待ってましたとばかりに自慢するかと思ったが以外にも謙遜してきた。
「良かろう、では明日で良いかな?」
などと余裕ぶっているが本心は今すぐにでも見せびらかしたいはずだ。
(彼も成長したんだ)と料理を食べながら思っていた黒龍王だった。

クエルノ族達はバリアンテの料理を絶賛し、自国でも食べられるようにして欲しいと言い出す始末だ。
勿論ゲレミオとしては国民の胃袋を掴む事を第一目的にしているので、フォーレが万事進めているはずだ。
今回四天王には”味見役”としてクエルノ族の好みを吟味してもらう仕事も有る。

個人の好みにもよるが、バリアンテの料理と食材を食べて、旨い、マズイなど意見を出してもらい、出店予定の店の参考にする為だ。
その話を聞き付けたシーラが女性の意見も重要だと割り込んで来たらしいが仕方が無いだろう。
国が変われば味や好みも変わり、受け入れられる物と否定される物が有るのは当然だが、とりあえず屋台の串焼きは導入する事に決まっているそうだ。

食事中、重要な話しが有った。
リーゼロッテが発した言葉だ。
「あなた達の婚儀はいつになるの?」
婚約者として紹介したので、いずれその時が来るのだが具体的に知りたかった家族だ。
そもそもシーラは”まだ未成年”なので、父であるジャンドール王も婚約と言う言葉を使った訳だ。

クエルノ族にダークエルフ族とエルフ族などの長命種は150歳で成人とされているので、実年齢は聞いて無いがもう直ぐ成人だと言う。
また、シオンに聞いたがノタルム国では”成人の儀”などと言う面倒な儀式が有るらしい。

ノタルム国内の種族や、家族でも儀式の方法は違うらしい。
だが、ほとんどが何かしらの魔物を倒し部材となる物を取って来ると言う。
違うのは倒す魔物の種類や数らしい。
平民ならいざ知らず、シーラは王族だ。
どんな魔物退治を告げられるのか知らないが、龍人の加護と様々な力を授かったのでさほど心配はしていないエルヴィーノだ。
そしてほとんどの場合、儀式を決めるのは親兄弟だそうだ。
ジャンドール王がどんな難題を寄越すのか解らないが、是非とも頑張って欲しいと、自分は関係無いと思っている婚約者だ。


※Cerounodostrescuatrocincoseissieteochonuevediez


フォーレには戻って来るなり仕事をお願いした。
それはリカルドに角や魔族と言う言葉を使わずに、新たな国でゲレミオの参加者を迎え入れる為に”帝國の儀式”に出てくれと説明する事だ。
エマスコで連絡すれば済む事だが、晩餐会など所要が立て込んでいるので聞きたい事も有るだろうから、わざわざフォーレに出向いてもらったのだ。

イグレシアに行くならとリアムも一緒に王宮へ転移した。
転移室から出るとメイドが待機していたが気にも留めず歩いて行く。
フォーレの向かう先はリカルドの居る親衛隊の執務室だ。
普段はここで王国やゲレミオから送られてくる資料の整理をしているリカルド。

2人はノタルム国での事を話しながら何度か廊下を曲がり歩いていると、後ろに騎士達が付いて歩いている事に気づいたフォーレ。
目的場所も近いし、リアムの護衛だと思っていた。
そして親衛隊の執務室の廊下に差し掛かると、前方からタダならぬ気配を撒き散らしながら近づいて来る憤怒の炎を纏った女性が居た。

「あなたっ! 何処に行っていたのか説明してもらおうかしらっ!」

前面に激オコの妻、背面には逃げそうに成ったら取り押さえるように命令されている騎士達。
一瞬で全身から冷たい汗が湧きでているのが感じられたリアムだ。

「じゃ私はこれで」
そう言って執務室の扉を開けで安全地帯に逃げ込むフォーレだった。
室内から扉を抑えて、間違っても入って来ないようにするフォーレを見て、疑問に思ったリカルドだ。
扉越しからは言い争いの様な叫び声がするが、飛び火しない様に扉に力を入れて踏ん張っているフォーレ。
その行為は廊下の声が無くなるまで続いたと言う。
呆れて無視したリカルドだった。





こっちもバレていた。
どのように情報を得たのかは極秘で、今回のリアムが受ける罰は王宮からの外出禁止令一ヶ月。
転移も禁止だそうです。
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