愛してもいいですか?

hina

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どこからか良い香りがする。甘いけど清涼感のある花のような香り……。
鼓動が早くなって、下腹部が疼く。

「ヤバ……」
「颯くん? フェロモンが!」
「緊急用の抑制剤は!? 一先ずオメガの校舎に戻ろう!」


九月に入り、全校集会で体育館に行くための道中の校庭で、僕は発情状態に陥った。
「なんで? 発情期まではあと一週間もあるはずなのに」
涙目になって、荒い呼吸を繰り返しながら、刺すタイプの抑制剤を取り出す。

「アルファのフェロモンじゃない? 残り香がある。颯くんと凄く相性が良いんだろうね……」

龍之介がくんと香りを嗅いで、孝治は震える僕の手を支えてくれる。

「行こう」

無事に抑制剤を打って、二人に肩を借りる。

相性の良いアルファが同じ学校にいるなんて、信じられない。
相手はどんな人なのか、もしその人が僕に気付いたらどうなるのか怖かった。
何より、直弥さんに何て言えば良いんだろう。

僕は熱に浮かされながらも、心は沈んでいくようだった。








「発情期でした。ご心配をおかけしました」
「え、そう言う事はもっと早く教えてくれ」
「今回は急に来たので事前にお知らせ出来ませんでした」
「俺が付き合いたかったけど、無事に乗り越えられたなら……いいか」

直弥さんは複雑そうな顔をしている。
まだリアルの連絡先は交換していないし、急に来た発情期でFTOにもログイン出来なかったので、六日ぶりくらい。
直弥さんはログインしなくなった僕に何かあったんじゃないかとだいぶ心配したらしい。

「発情期が急にって大丈夫だったか? 周りにアルファが居たりとか……」
「は、運良くなかったんですけど、アルファも通う校内で発情しちゃったので、ちょっと危なかったかもしれませんね」
「よし、今すぐ俺とリアルで会って番おう」
「なぜそうなる」

FTOの僕の個人ホームでたっぷりミルクのカフェオレをわきに、握られた両手を解くことも出来ずに、向かいに座った直弥さんを見つめた。

「首輪はしっかりしたものだろうな? あー、俺がプレゼントしたい。俺の指紋で開くように設定したい」
「両親に買ってもらったゴツいのしてますよ。心配いりません」

直弥さんは何かを考え込むように首を軽く傾げた。

「……俺もさ、アルファやオメガが通う高校の生徒なんだけど、颯が通う高校ってまさか都内?」
「え、あ、はい……」
「青陽? 魁星? あとオメガ寮がある高校ってどこかあったかな……」
「その……青陽に通ってます……」
「え……俺も青陽だよ! 颯! 会おう。明日の放課後、校門の前で待ってる」
「ええっ!? 本気ですか?」
「当たり前だろ。ずっと会いたかったんだ。それとも会わないでいられるのか? こんなに近くにいるのに」
「でも、フェロモンが……」
「会って確かめればいいだろ? 待ち合わせに来なくても俺から会いに行くからな」
「う……。わかりました! 会います!」
多分、もう逃げられない。

なら、潔く。

僕は覚悟を決めて頷いた。



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