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◇
「おかえりなさいませ、旦那様」
「颯、綺麗だ……!」
「旦那様、教室内でのスキンシップは規則で禁止です」
「なんでそんな規則があるんだ……」
他の人がお触りOKだって思ったら困るから、いくら直弥さんでも甘い顔は出来ない。
抱きしめようとしてきた直弥さんから一歩下がって、僕はにっこり笑った。
今日は文化祭。僕のクラスはメイド&執事喫茶を開店中。
僕は執事の格好で接客を担当している。
物珍しいΩに会えるからか、お客さんは途切れず来ている。
αだと思われる男子生徒の友人二人とやってきた直弥さん達を席に案内してメニューを渡すと、直弥さんだけじゃなく、友人さん達からもじっと見られた。
「リアルのチョコくんは綺麗系だね。あ、俺レンジだよ。分かる?」
「俺は白坂! 会えて嬉しい」
「あ、FTOでお会いしましたね! 青陽の生徒だったんですね!」
「うん。あ、チョコくん……じゃなくて、颯くんがこの学校に通ってるって直弥が言ってて、そんな偶然もあるんだって思ったよ」
「僕も直弥さんが同じ学校に通ってるって知って驚きました」
「颯、三番にこれお願い!」
「ん、了解」
忙しそうに衝立の向こうに戻っていく制服姿の孝治から紅茶とコーヒーがのったトレーを渡される。
「ゆっくりしていって下さいね」
「颯くん、今の子は?」
三番に向かおうとしたところをレンジさんに引き止められて、首を傾げた。
「孝治ですか? 僕の親友でクラスメイトです」
「そうなんだ。ありがとう。引き止めてごめんね」
「いえ。じゃあ僕は接客に戻りますね」
「颯、後で写真撮らせて」
「やです」
「じゃあ隠し撮りする」
笑いながら返すと、直弥さんも笑いながら不穏なことを言う。
「わかりました……一枚だけですからね?」
「えー。少な過ぎる」
「直弥、颯くんを困らせるなよ」
「颯は素直じゃないんだ」
「はいはい」
呆れるレンジさんを見やったあと、僕は一礼して三番席に向かった。
冷めないうちに届けなきゃ。
◇
直弥さんは三年生だから、文化祭でも出し物はしない。
去年は謎解き脱出ゲームをして、大盛況だったらしい。
αが仕掛ける謎解きって凄く難易度高そうだ……。
僕は執事の格好のまま白い手袋だけを外して、教室から出て少し離れた場所に立っていた直弥さんの腕に抱きついた。
そのまま、直弥さんの腕に顔を擦り付ける。
「どうした、颯」
「直弥さん達、目立ってた」
「そうか?」
「うん。クラスメイトもお客さんの女の子も直弥さんのこと見てた」
「俺には颯だけだよ」
直弥さんが僕の髪にキスを落とす。僕はゆっくりと息を吐き出して、直弥さんの腕を離した。
「僕も、直弥さんだけ……」
「分かってる」
正面から抱きしめてくれる直弥さんの腕は温かくて、優しかった。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「颯、綺麗だ……!」
「旦那様、教室内でのスキンシップは規則で禁止です」
「なんでそんな規則があるんだ……」
他の人がお触りOKだって思ったら困るから、いくら直弥さんでも甘い顔は出来ない。
抱きしめようとしてきた直弥さんから一歩下がって、僕はにっこり笑った。
今日は文化祭。僕のクラスはメイド&執事喫茶を開店中。
僕は執事の格好で接客を担当している。
物珍しいΩに会えるからか、お客さんは途切れず来ている。
αだと思われる男子生徒の友人二人とやってきた直弥さん達を席に案内してメニューを渡すと、直弥さんだけじゃなく、友人さん達からもじっと見られた。
「リアルのチョコくんは綺麗系だね。あ、俺レンジだよ。分かる?」
「俺は白坂! 会えて嬉しい」
「あ、FTOでお会いしましたね! 青陽の生徒だったんですね!」
「うん。あ、チョコくん……じゃなくて、颯くんがこの学校に通ってるって直弥が言ってて、そんな偶然もあるんだって思ったよ」
「僕も直弥さんが同じ学校に通ってるって知って驚きました」
「颯、三番にこれお願い!」
「ん、了解」
忙しそうに衝立の向こうに戻っていく制服姿の孝治から紅茶とコーヒーがのったトレーを渡される。
「ゆっくりしていって下さいね」
「颯くん、今の子は?」
三番に向かおうとしたところをレンジさんに引き止められて、首を傾げた。
「孝治ですか? 僕の親友でクラスメイトです」
「そうなんだ。ありがとう。引き止めてごめんね」
「いえ。じゃあ僕は接客に戻りますね」
「颯、後で写真撮らせて」
「やです」
「じゃあ隠し撮りする」
笑いながら返すと、直弥さんも笑いながら不穏なことを言う。
「わかりました……一枚だけですからね?」
「えー。少な過ぎる」
「直弥、颯くんを困らせるなよ」
「颯は素直じゃないんだ」
「はいはい」
呆れるレンジさんを見やったあと、僕は一礼して三番席に向かった。
冷めないうちに届けなきゃ。
◇
直弥さんは三年生だから、文化祭でも出し物はしない。
去年は謎解き脱出ゲームをして、大盛況だったらしい。
αが仕掛ける謎解きって凄く難易度高そうだ……。
僕は執事の格好のまま白い手袋だけを外して、教室から出て少し離れた場所に立っていた直弥さんの腕に抱きついた。
そのまま、直弥さんの腕に顔を擦り付ける。
「どうした、颯」
「直弥さん達、目立ってた」
「そうか?」
「うん。クラスメイトもお客さんの女の子も直弥さんのこと見てた」
「俺には颯だけだよ」
直弥さんが僕の髪にキスを落とす。僕はゆっくりと息を吐き出して、直弥さんの腕を離した。
「僕も、直弥さんだけ……」
「分かってる」
正面から抱きしめてくれる直弥さんの腕は温かくて、優しかった。
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