悪役令息は未来を憂う

hina

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「お父様も抑制剤に関してはあれこれ言ってくるよ。まったくαは困ったものだね」
「お母様……」

お母様は薄茶の髪と水色の瞳の僕と顔立ちが似た男性Ωで、お父様から溺愛されている。

お父様とお兄様に発情期や抑制剤のことを面と向かって聞けなかった僕はお母様を頼った。

「幸運なことに、私は発情期の周期が乱れたことがないから、そんなに飲んだことはないけど、番になってフェロモンはお父様にしかわからないと言っても、産後はいつ発情期が再開するかヒヤヒヤしてたよ」
「大変だったんだ」
「まあ、Ωは通る道だから。リュシアンも頑張りなさい」
「でも僕、本当にカミル殿下と結婚するのかなあ……」
「ん? どういうこと?」
「あ、いえ。なんでもありません」

僕は首を左右に振って、ソファに座ったまま膝の上の拳をぎゅっと握った。
余計な心配はかけたくない。

「悩んでることがあるなら、いつでも言いなさい。それからこれをあげるから、いつも身につけていて」
「これ?」
「そう」

お母様は襟を開いてペンダントを引っ張り出して外した。

「ロケットの部分に私が使っている抑制剤が入っているから、もしもの時に使いなさい」
「! ありがとう、お母様!」

僕に近づいてペンダントをつけながら、お母様がそっと囁く。
一見ロケットには見えないデザインで、これなら怪しがられることもなさそう。

「大事にするね」

僕がロケットを握って微笑むと、お母様も笑顔を返してくれた。







「どうして僕をいじめないの!? 僕をいじめてくれなきゃシナリオが進まないじゃないか! イベントもおきないし!」

僕は今、何に立ち会っているんだろう。
掴まれた腕にノアの指が食い込んで痛い。

ノアは……転生者?

朝。学園に登校して授業の準備をしていたら、ノアがやってきて、僕をひとけがない校舎裏まで連れ出した。

そして今。


「それに殿下の前でピリピリしたフェロモンを出してくれなきゃリュシアンと殿下の関係が壊れないのに!」

「僕は発情期がまだだからそんなフェロモンは出せないけど……」

ああ、そうだった。
まだ思い出せていない部分もあったんだ。

「それもおかしいんだ! どういうことなんだ!」

「僕に聞かれてもわからないよ……」

ノアも転生者だったとしたら、これからどうなっていくんだろう。
僕だけが前世の記憶を持っていると思っていたから予想外で。

僕はノアに対してどう反応するのが正解なんだろう。


これは何の試練なんだろう。
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