悪役令息は未来を憂う

hina

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「リュシアン! 無事か!? ノア・デュアル・ラザーヴェイズ! リュシアンを離せ!」
「殿下、僕は殿下をお慕いしております! そこのリュシアンなんかよりもずっとずっと!」

駆けつけてきたカミルとディーンさんが僕からノアを引き剥がして取り押さえる。
暴れるノアの腕を背後からきつく締め上げて、ディーンさんは馬乗りになっている。

カミルが僕を抱きしめて、静かに息を吐いた。

「僕の気持ちを勝手に決めつけないで! 僕だってカミルのことが大好きなのに!」
「! リュシアン! 私はリュシアンを愛している。リュシアンだけだ。誰に何と言われても、誰から思いを告げられようと、リュシアンだけを……だからお前の気持ちに応えることはない、ラザーヴェイズ」
「どうして……なぜなんだ……」

僕は主人公なのに。
確かに小さい声でノアが呟いた。

ノアが痛々しくて、僕は声をかけられなかった。

この世界はゲームと似てるけど、現実だ。そのことに早く気がついてくれたらいいと、僕は切実に思った。







ノアに僕とカミルに対する接近禁止令が言い渡され、僕達は平穏な日々を手に入れた。

未来は不確定で、僕はカミルを諦めないでもいいかもしれない。
僕はピリピリしたフェロモンを出していないし、それによってカミルとの関係が駄目になることもない。
ノアのことを気にする必要がなくなって、僕は心に余裕が出来た。

「リュシアンの発情期が来たら、噛みたいな。番になろう。誰にも渡したくない」
「嬉しいですけど、番になるのは慎重に……」
「リュシアンの一生に責任を持つ。それはリュシアンに初めて会った時に決めていたことだ」
「初めて会った時? それって、Ωだとわかる前の幼少の頃なんじゃ……」
「初めて会った時からリュシアンからはほのかに良い匂いがしていた。私はその時運命を確信したんだ」
「え……」
Ωだとわかったのは十二歳の時だ。婚約したのもその頃。
それよりもずっと前から目をつけられていたのか……。

僕がΩじゃなかったら、どうだったんだろうか。
カミルは血を次代に繋げることも責務だ。子が出来ないとしたら、僕の出番はなかっただろう。

でも、子供……子供かあ……。

僕は顔を真っ赤にしながら、目の前の人を見つめた。
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