悪役令息は未来を憂う

hina

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「リュシアン、顔が真っ赤だな。照れてるのか? 可愛い」
「か、可愛くなんて……」
テーブルの向こうから手を握ろうとしてくるカミルの手を避けながら、もう片手で頬を押さえる。

「ああ、そうだ。週末、時間が取れたから、デートに行こう。どこか行きたいところはあるか? したいことや食べたいものは? 考えておいてくれ」
「えっ、あ、はい」

デートかあ。久しぶりだなあ。

僕はわくわくしながら、食後の紅茶を口に含んだ。







「ああ、綺麗だ。リュシアン」

週末。馬車の中でぴったりと身体をくっつけられながら、僕は密やかに心臓を高鳴らせていた。

近い。近過ぎるっ。

「カミル、離れて」
「どうして?」
「どうしてって……僕達は未婚のαとΩだし」
「だが、婚約している」
「嫌いになるよ?」
「ごめん。愛してるよ」

と言いながら、額に唇を寄せるカミルは本当に分かっているのだろうか。

さっきからカミルのフェロモンが香ってきて、頭がくらくらしていた。
淹れたての珈琲みたいな香り。僕はチョコレートみたいな香りだと言われる。

未熟なΩでもαの匂いはわかるんだよなと思いながら、並んで座るカミルから距離を取る。

今日の僕は侍従達とお母様の見立てで、カミルの瞳の色の服を着ている。
秋にしては色が薄いんじゃないかと思ったけど、絶対喜ぶからの声に負けてしまった。

カミルは一目見て、笑顔になっていた。

まるで僕が全身で好きって言ってるみたいだななんて気が付いたのは、その笑顔を見てからだった。

乗せられるのは危険だ。

でも濃い紫色の服を着てるカミルを見て、色は同じだなとちょっと気分があがったりして。言わないけど。



「今日は手を繋いで歩こう。楽しみだな」
「ぼ、僕も……楽しみ」
「ああ、リュシアン。嬉しいよ」

手を取るくらいは許してあげようと思いながら、ずっとドキドキしたままの心臓がバレませんようにと願った。







「美味しいー! 幸せ」
城下町のお店で季節のフルーツタルトを食べている。

カミルと食べるお昼でも、家での夕食でもデザートは出るけど、Ωだからか量は食べられないので、いつも少量しか食べないから、がっつり甘いものを食べるのは久々だったりする。
週末もお茶の時間はあったりなかったりするし。

やっぱり、今の季節のフルーツは美味しい。
クリームも甘さ控えめでタルトがサクサクで、ほっぺたが落ちる。

「カミルも一口食べてみる?」
「リュシアンが食べさせてくれるなら」
お行儀は良くないけど、デートだもんね。
これくらいはしても良いよね。

「ん、美味しい」
「だよねっ」

若い女の子が集まるお店だからか、カミルは注目を集めているけど、そんなことが気にならないくらい、僕は甘いものを堪能した。
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