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第三十話  そのポーター、賢者(?)は馬鹿だと確信する

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 誰が誰とキスをするって?

 冷静になればなるほど、自分の聴力を疑いたくなってくる。

 同時に変なことを口にしたハルミの人間性も疑いたくなってくる。

 だが、それを自分の頭の中で考えていてもラチが明かない。
 
 なので、きちんと言葉にして当の本人に伝えてみた。

「ねえ、ハルミ。どうして僕が君とキスをしないといけないの?」

「ですから、僕が神様にもらったサポートスキルの発動条件が〝僕が勇者さまと認定した人〟とキスをすることなんです……もう、いくら勇者さまとはいえ何度も言わせないでください」

 いやいやいやいや、思いっきり初耳なんだけど。

 それにいくら何でもスキルの発動条件が曖昧すぎないか?

 何だよ〝ハルミ・マクハリが勇者と認定した人間とのキス〟って……。

 そんなもの君次第で何十、何百の勇者さまとやらが誕生しちゃうじゃないか。

 僕がハルミに対してそのことを指摘すると、ハルミからは「でも、それが条件なのでしょうがないです」という簡単な答えが返ってきた。

「だからボクとキスをしてスキルを発動させましょうよ。それしか勇者さまがここから出る方法なんてありません。だって今の勇者さまは山賊たちを倒したときのような力が使えないんでしょう? カーミさんの言葉をボクはちゃんとここで聞き耳を立てて聞いていたんですから」

 偉そうに言うな。

 そして一体いつから君はそこで聞き耳を立てていたんだ?

 君のその言葉を素直に受け取ると、間違いなく僕たちがこの牢屋に入る前から木箱を足場にして空気穴を覗ける状態にしていたということだよね?

 だって僕たちがこの牢屋に入れられたあと、空気穴からは外で木箱を積んでいる音がまったく聞こえなかったんだから。

 となると、君はまだ誰もいない牢屋に当たりをつけて木箱を積んでいたってことだよね?

 まさか空気穴を覗いてしばらくしても誰も牢屋に入ってこなかったら、僕たちが入れられた牢屋を見つけるまで何度も木箱を移動させてた?

 だよね? そうしないと僕たちが入れられた牢屋を見つけられないもんね?
 
 僕はそのこともハルミにおそるおそる訊いてみると、ハルミは「まさか一発で当たりを引くとは思いませんでした」とへらへらと笑った。

 このとき、僕は本物の馬鹿というものを目の当たりにした。

 ねえ、自称・賢者のハルミ……たまたま最初に木箱を積んだのが僕たちがいた牢屋だったからよかったものの、そんなことを何度もしていたらさすがに外の警備の人に見つかるとは考えなかった?

 そうなったら君も捕まって、自分も死刑になるかもとかは思わなかった?

 ……うん、ごめん。

 きっと思わなかったんだろうね。

 僕は大きなため息を吐くと、ハルミに「もういいから、君はそのまま宿に帰って寝なさい。そして僕たちの前に金輪際現れないでね」と伝えた。

 ええー、とハルミが小さな叫び声を上げる。

「待ってください。どうしてそんな薄情なことを言うんです? それに僕のサポートスキルなしでここからどうやって出る気ですか? このままだと勇者さまたちは処刑されちゃいますよ」

「カンサイさま、ハルミちゃんの言う通りです。このままだと私たちは朝日を待たずして処刑される運命しか残されていません。だったら、ここはハルミちゃんの言葉を信じてみては?」

 ローラさんが子犬をなだめるような口調で言ってくる。

「私もローラの意見に賛成です。カンサイさま、このさいハルミの力に賭けてみてはいかがです?」

 クラリスさまも優しい口調で言ってくる。

 僕は渋面のまま両腕を組んだ。

 2人の言いたいこともよくわかる。

 僕の【神のツッコミ】スキルが今は使えないとわかった以上、処刑される前に脱獄するにはハルミのスキルに頼るのもアリではないかと言っているのだ。

 それはわかる……わかるけど、2人は大事なことを見落としているよ。

「ハルミ、君のサポートスキルとやらが必要かもしれないことはわかった。そして、そのサポートスキルを使うためには君と僕がキスをしないといけないこともわかった……だけど、その前に君に訊きたいことがあるんだけどいいかな?」

「もちのろんです。何でも聞いてください」

「そうか、だったら訊くけど……」

 僕は一拍の間を置いて質問する。

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