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番外編

ハンベル・ブヨーゼフの断末魔(1)

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「な、なんだこれは!?」


 ハンベル・ブヨーゼフは、王立司法裁判所から届いた爵位剥奪通知書に目を通し驚愕する。

 その通知書には、王の外戚となりブヨーゼフ上級伯爵家を公爵位に家格を上げることを企んでいたハンベルにとって、最大の敵である現国王ソルトラルドと、己の従妹に当たるベイルマート王国の最高司法官を務めるセルシェーダを始めとした、ベイルマート王国貴族の爵位剥奪権を持つ高位の政務官たちの連名で発行されていた。

 その通知書は、正規の書類どころか、貴族の重犯罪に対する逮捕状並の、豪華な重要通告書になっており、ブヨーゼフ上級伯爵家を本気で潰しに来ていることは、明らかだった。




 だが、ハンベルには分からなかった。

 確かにソルトラルドは、自分を政敵に近しい存在だと見ていると予想していた。

 だが、実の従妹に当たるセルシェーダが、母親の実家を潰そうとする理由が思いつかなかったのだ。



 そもそも、ハンベルは愚鈍なソルトラルドより、平凡だが文官気質なリズベルトや王の器であると確信していたセルシェーダが王位に就くと信じて疑っていなかった。
 そして、新たな王の外戚としての権威が確実に手に入ると思い込んでいた。

 だから、リズベルトがデュランセル上級伯爵家に婿入りしたことには、少々ガッカリしていた。
 だが、それ以上に、セルシェーダがライディオット公爵家に嫁ぐことが決まったという話は、ハンベルにとって正に青天の霹靂だった。


 聞いた当時は、「有り得ない!」という言葉が、ハンベルの頭の中をすぐに埋めつくした。


 ソルトラルドとえば、愚鈍な王子という認識で、ハンベルは、「ソルトラルド王子は、セルシェーダ王女の半分程の優秀さも持ち合わせていない」という周りの噂をまるまる信じ込んでいた。

 故に、ソルトラルドの立太情報は、己の政敵によるブラフだと信じて疑わなかった。


 その結果、ハンベルはソルトラルドの立太式を無断欠席するという愚行を犯してしまった。


 そうして狂い続けたハンベルは、自身の従妹が次期国王に成らないことが確定したようなものであると気づいた瞬間、前代未聞のとんでもない愚行を犯した。
 ハンベルは元より、短絡的な言動の目立つ人物ではあったが、幼少の頃より折り合いの悪かった父親が溺愛していた実妹だけでなく、第三王妃に当たる叔母の両者から、ブヨーゼフ伯爵家の一員としての資格を剥奪し、家から追放もしたのだ。


 その愚行により、ハンベルは王都を追放された。が、当の本人は己の政敵が有利な状況にあるが故に、王都を追われたのだと勘違いしているために、欠片も反省することなく、愚行を繰り返す日々を続けていた。


「気に入らん。認めん、認めんぞ私は。このようなところで、私の大いなる野望が潰えるなど、絶対にありえんのだ。」


 そう騒ぎ立てるハンベルの姿、を使用人たちは呆れたような顔をして見ている。そんなことにすら気づけていないのだから、ハンベルには、貴族としての資格すらないと感じている、屋敷内警備に就いている騎士たちは、ハンベルの弟であるシルベスタがまだ幼いことを悔しく思っていた。
 シルベスタや追放されたハンベルの妹レミリヤは、先代ブヨーゼフ伯爵が早々に「愚凡」と見切りをつけ、後継者候補から外されたハンベルとは違い、多才で社交的な性格をしており、屋敷の使用人や騎士だけでなく、領民たちからもかなり慕われていた。
 そう言った面から、多くの領民が次期当主にはシルベスタを望んでいた。
 だが、現実とは残酷なもので、ハンベルが21歳、レミリヤが14歳、シルベスタが7歳の時に、先代ブヨーゼフ伯爵は先王をも蝕んだ病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。

 そこで出たのが継承問題だった。

 ベイルマート王国の法では、18歳を超えた後継者がいない場合は、15歳以上の女性後継者、または10歳以上の男性後継者が当主の座に就ける。つまり、あと一年ほど待てば、レミリヤが女伯爵としてブヨーゼフ上級伯爵家を継承するのだろうと、使用人も騎士も領民も考えていたのだ。がしかし、その一年の間に、後継者としての資格を剝奪されていたはずのハンベルが、勝手に書類を纏め、新たなブヨーゼフ上級伯爵の地位についていたのだ。

 そのことを知った領民からは、幾度となく反乱を起こされ、その状況を領地の騎士たちは黙認し続けた。
 そして、その事実に怒ったハンベルは、何人もの領民と騎士を見せしめに処刑していた。

 その後も、税の横領、商人の持ち込み品の窃盗などの罪を繰り返し引き起こし、多くの領民たちからの信用も底を尽きたころ、ブヨーゼフ上級伯爵家の取り潰しに関係する通知書が王立司法裁判所から届いた。

 その通達の情報には、ブヨーゼフ伯爵領の領民の全てが喜んだ。

 というのも、執事が中抜きしたためにハンベルの元まで届かなかった書類の中には、ハンベルから伯爵位を剥奪し、シルベスタに新たな伯爵位を与える、といったものや、ハンベルから取り上げた領地をシルベスタに割譲するといった内容が記載されていたのだ。
 そして、その情報は使用人たちから領民たちに、素早くリークされていったのだった。
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