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1.フィルシールド誕生

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 - ・・・・・・ドタドタドタドタドタッ!・・・・・・ —

  ん?
  誰かがこっちへ向かって来ている。
  しかも、走ってるのかなぁ・・・・・・・・・。
  結構、足音が五月蝿うるさいなぁ。

「むぅッ!?うおぉ!アンリにサーシャも帰ってきていたのか!待っていたぞ!・・・・・・・・・むっ!?まさか、そこのアンリによく似ている、可愛いらしい赤子が、俺の子か!?フィルだな?そうだよな?な!な!」


  う、五月蝿い!
  そして、しつこい。
  ・・・・・・・・・むー、成る程。
  この人がこのベイルマート王国の現国王陛下であり、僕のお父さんでもあるソルトラルドさんかぁ。
  どうも、サーシャさんいわく、かなりの駄目人間らしい。
  サーシャさんも、なかなか辛辣だよね。まぁ、理解できる気もするけれども。

「ほわーぁ。な、撫でて良いか?いいよなぁ?俺の子だもんな!ふーむ、フィルは将来、アンリに似た美人になるのだろうか?ムッフフフ、楽しみだなぁ。」

  似た者夫婦だったんだねぇ。お父さんとお母さんの二人は。二人揃って、とてつもなく気が早い。

  そして、今、目の前にいるお父さんは、顔がダラーンと弛んでいる。それでいて、とても目がキラキラしている。
  すごーく嬉しそうだね、お父さん。
  でも、それに反比例するかのごとく、リーナさんの目が据わってきている。
  なんだか、物凄く怒っているみだいだけど。
  ハハハ、まぁ、御愁傷様ごしゅうしょうさま、だよね。

「へ~い~か?いつも “廊下は走ってはいけない” 、 “大きな足音をたてて歩かない” などのマナーをあれほど注意しているにも関わらず、こんなにも大きな足音をたてて走るなど、 “父親” として、そして、 “国王” として許されるものでは、御・座・い・ま・せん!」


  あぁ、早速怒られている。
  なんか、残念なお父さんだなぁ。

  さんざん聞かされていただけあって、失望とかはしてないけど・・・・・・・・・。
  でも、なんだか、なんだかなぁ・・・・・・・・・


「ぬ、ぬぁぁー!す、すまん、リーナ。だが、俺もフィルに会えるのを楽しみにしていたのだ。だから、今日くらいは許されても・・・・・・・・・。」

  メイドに言い訳する国王って、本当にいるもんなんだね。ちょっと、驚いてるかも?

  うーん、いや、意外に僕の中でも、あっさりとこの現実を受け入れられてる。
  んー、これが、駄目人間効果かなぁ?

  僕は、こうならないように気を付けないとなぁ。


「許されるわけないですよ?しかも、今回は子供の目の前でなのですから。ハァー、どうやら、陛下の存在は、第一王子殿下の教育上、とてつもなくよろしくない。・・・・・・・・・いいえ、ハッキリと言いましょう。とてつもない悪影響を及ぼすと想定されるので、接近を禁じましょう。これが、本件の陛下への罰とします。分かりましたね?」


  予想以上に重い罰だ!?
  ええっ、そこまでする!?
   “廊下を大きな足音をたてて走る” ことは、そんなに重罪だったの!?
  お父さんもう、泣いてるし。


  こ、怖い!
  リーナさん、怖い!
  メイドなのに主人に容赦ないよ。
  こういう人が、多いのかなぁ?この国。


  う、うー。よ、よし!
  リーナさんには逆らわない。
  うん、きちんと覚えたから!

  廊下も静かに歩くように気を付けないとね!
  僕は、絶対に怒られたくないから。

  ありがとう、お父さん。
  お父さんは、素晴らしい反面教師はんめんきょうしだよ!



「早速、素晴らしい反面教師はんめんきょうしの姿をフィル君に曝すことになったな、ソルト。フッ、無様だな。実に愉快だ。」



  サーシャさんがこの一週間で、見たことがないような、黒い笑顔を顔に貼り付けている。
  凄く、怖い。
  でも、お母さんが言うには、お父さんが相手で、かつ多数の目の前であるときだけの症状らしい。


「サ、サーシャ!?」


  何故か、お父さんが凄く驚いている。
  あれっ、いつもの事じゃないの?


「ふ、ふふふ。ハーッ、ハッハッハッハー。そうか、なぁ、サーシャ。リーナからの手紙は読んだか?」


  リーナさんからの手紙?
  そう言えば、そんなものが有ったような。
  確かあの追記をサーシャさんが・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・お父さん。その手の反撃は、 “意地が悪いなぁ” って、僕は思うよ。
  王様でも、流石にやって良いことと、悪いことがあると思うよぉ?


  サーシャさん、顔が、真っ赤だ。
  お母さんの家に居たときは、ほとんど見なかった珍しい顔なのに、今日だけで二回も見ているんだよね。
  サーシャさんは、僕のお父さんとお母さんに弱いんだろうなぁ。
  可哀想に。


「う、五月蝿い!誰が、そんなことを・・・・・・・・・。」


「えっと、手紙?リーナから?ねぇ、サーシャ?私は読んでいないのだけど?」

  あれ?
  お母さんはあの手紙、読んでいなかったんだねぇ。
  まぁ、ずっと休んでいたのだから、当然といえば当然なのかなぁ。

 そして、何故か今、お母さんにサーシャさんが慌てて手紙を渡している。


「うんうん、いいと思うわ。サーシャも一緒に川の字ね。フィルもいいと思うでしょ?」


  あぁ、うん。
  たぶん、この状況だと、僕が何を言っても、きっと肯定と捉えられるだろうから、もう、否定なんてするだけ無駄だよね。

うーうッサーシャ(さん)ウーアうッ頑張ろう!」

  お母さんが、満面の笑みを浮かべている。
  気がする。

「ほら、フィルも一緒がいいって。」

  ほら、やっぱり、肯定ととられた。
  そんなこと言ってないのに。
  いや、近いことは言ったのかな?

「いや、どう聞いても違っただろう!?ちゃんと聞いていたのか?アンリエッタ。」

  そう言えば、サーシャさんって、結構正しいニュアンスで僕の言葉を聞きとってくれるよね。
  凄いなぁ。
  本当に、ありがたい。


「じゃあ、なんて言ったのかしら?」


「うっ。そ、それは・・・・・・・・・。」


  あっ、僕が微妙なこと言ったから、サーシャさん、恥ずかしがっているみたいだね。
  んー、なんだか、 “いたたまれない” と言うか、 “申し訳ない” と言うか・・・・・・・・・。


「フフフ、冗談よ?それよりも、もう、夜も遅いからお風呂へ入りましょう♪リーナ、フィル用に赤ちゃん用湯船ベビーバスも用意してくれる?」


  ベビーバス?
  お母さんの家では、僕がお風呂に入る時は、使用人の人達が入れてくれてから聞いたことないなぁ。
  どんな物なのかな?
  ちょっと気になるなぁ。


「そうおっしゃると思っていましたので、既に用意してあります。準備が整っていますので、大浴場の方をご利用下さい。」


「大浴場・・・・・・・・・か。」


「フフッ、どうしたの?サーシャ。あっ、ソル君も一緒にお風呂へ入りますか?」


「むっ!それは良い案だな!では、入りに行こうじゃないか。」


 おー、お父さんも一緒かぁ。

「バカ!ソルト。何でお前まで入ろうとしているんだよ。」

  サーシャさんは、嫌なんだ。
  まぁ、それは・・・・・・・・・そうだよねぇ。
  お母さんが変わっているだけ、だよねぇ。

「いいじゃないか。昔はよく、三人で入ってたじゃないかよぉ。ハハ、今更だろ?」

  ふぇー、そうだったんだぁ。

  でもね、お父さん。
  たぶん、サーシャさんが嫌がっているのは、そういうところじゃないと思うよ?


「・・・・・・・・・だから、お前は嫌いなんだよ。」


  ほらね。


「何故だ!理不尽じゃねぇか!」


  えっ、何が?
  何が、理不尽なんだろう?


「ハァー、五月蝿いですね。ソルト君。その口、物理的に黙らせましょうか?」


  こ、怖い!
  やっぱり、怒ったリーナさんは怖いよぉ。

「うおぉっ!リーナ。お前の冗談ジョークは、冗談ジョークには聞こえないんだから、止めてくれよ!」

  な、成る程。
  確かに、ジョークだとしたら、笑えないジョークだよね。

「ジョーク、ではないのですが。それよりも、早く入浴を済ませて来てください。夕食が、冷えきってしまいますよ?」


「フフッ、さぁ行きましょう?」


  きっと僕は、大人になっても忘れないだろう。
  今のお父さんの、この真っ青な顔は。

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