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1.フィルシールド誕生

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 大浴場って言うくらいだから、温泉とか銭湯とかのサイズの湯船があるお風呂場をイメージしていたけど・・・・・・・・・うわぁ!?何!?これ?

  目の前に広がっているのは、水泳の競技とかでしか見かけることがないような、50mプール並みの、巨大な湯船が設置された浴場だった。
  他にもスパリゾートとでも言えそうなレベルの設備が完備されている。

  この規模で、なのかぁ。
  これだけのものを、王家だけで保有してても良いのだろうか?
 教えてくれそうなサーシャさんを見つめて、教えてアピール。

  あっ!目が合った。
  じーーー・・・・・・・・・

「んんっ!わ、分かったから。えっとだなぁ、と言っても、この浴場はな、ベイルマート王家の固有財産ではあるが、使用人や城を出入りする役人・貴族が利用したりすることもあれば、城でのパーティーの招待客や他国の使者や王家の者が来国したときなどに、開放されたりもする。まぁ、そういう場所だからなのか、年々豪華になっているんだよ、ここは。」

  ふぇー、そうなんだぁ。
  説明ありがとう、サーシャさん。

  ところで、聞いた側の僕が問うのも変なんだけど、何で僕の疑問とか言いたいこととかが、こんなにも正確に伝わっているのかなぁ?
  どうしても、やっぱり発達の問題で、まだ僕の喋っている言葉は、発音が悪いのに。

  もしかして、サーシャさん、エスパー系のスキルとか持っているのかなぁ?


「どうしたんだぁ?サーシャ。そーんなことよりも、早く行こうぜ!ハァッハッハッハッハー、風呂が俺を呼んでいる!」


「馬鹿、調子に乗りすぎだ。」


  お父さん、さっきまでとは一転して、リーナさんがいなくなってから、ノリノリだ。
  僕のお父さん、っていうか、この国の王様は、結構な、お調子者だったんだね。
  そりゃ、サーシャさんのお兄さんみたいな自由人が、大公家っていう大貴族家の当主をしている訳だよ。

  もしかして、この国の貴族は、多かれ少なかれ、性格が濃いのかな?
  お母さんやサーシャさんだってそうだし、お母さんのお兄さんもなんだか性格が濃そうだったし・・・・・・・・・。
  まだ、決めつけるには早いかな?
   “類は友を呼ぶ” って言うけど、そうであっては欲しくないかなぁ。


「♪~♪~♪~!フィル、身体を洗うから、じっとしてくださいね。フフフ、直ぐ終わりますからね。安心して下さい。」

  お母さんの方も、とてつもなくご機嫌だ。
  風呂場じゃなかったら、きっと、スキップでもしてそうな雰囲気だなぁ。


  これが、“赤ちゃん用湯船ベビーバス”か。

  それは、大人の女性でも、簡単に両手で抱えて持つことが出来るような小さな椅子のようなものだった。
  掛け流しタイプの湯船らしく、背もたれの上部からお湯が流れている。
  座面部は少し深く、お湯を貯めることができる。
  そして、おそらくだが、お湯は魔法で用意しているのだろう。
  排水口らしきものも見かけられない。


「ふぅー、むーうううーいいお湯だ~


「あぁ~~~、いい湯だぜぇー。生き返る。」


  お父さん、ちょっとおっさんくさい。
  って、ハッ!ぼ、僕も似たような事言ってる!?

  ど、どうしよう。
  僕まだ生まれたばかりなのにぃ。
  いや、精神はもう立派に大人だった・・・・・・・・・ような気もする。


「・・・・・・・・・フィル君も可哀想にな。」


  僕の内心に気付いたサーシャさんに慰められる。
  間違いなくさっきの声も聞かれていたよねぇ。
  ハァー。


  そんな僕の様子に気付いていないのか、気づいた上で無視しているのか、お母さんは呑気に背泳ぎをしていた・・・・・・・・・ん?背泳ぎ? 
  ! 
  いや、ダメでしょ!
  お風呂で泳いじゃ。


  僕の様子を見守っていたサーシャさんは、僕の異変(?)に気付くと、僕の視線を辿る。
  そうして、お母さんが泳いでいるところを見付けると、叱りに行ってしまった。
  サーシャさん、苦労しているんだなぁ。




  サーシャさんは、ずいぶんとお怒りのようだった。
  まぁ、そうだよねぇ。

 僕は気付かなかったけれど、どうやら、奥の方ではお父さんがクロールのような泳ぎ方でお風呂の中を泳いでいたらしい。

  何してるんだろうね?本当に。

  こんな人たちが、一国の国王夫妻で良いのだろうか?
  お母さんの実家で読んでもらった本によると、ベイルマート王国って、この世界ではかなりの大国らしいんだけどなぁ。
  この件で、僕は、『立派でまともな第一王子になる』と心に誓った。
  これ以上、サーシャさんや使用人さんたちの眉間の皺を深くしてはいけないと思ったのだ。




  大浴場を出ると、お母さんたちは何処かへと行ってしまった。
  僕はというと、使用人さんの一人に抱っこされて、一人豪華な別室へと連れていかれた。


「フィルシールド殿下、今、御夜食のミルクをお持ちいたしますので、少々お待ちください。」


  そういえば、お風呂に入った後に、夕食を食べるという話をしていた気がする。
  なら、お母さんたちは食堂へ行ったのかな?


 しかし、赤ちゃんがミルクを飲むために、こんな部屋は作らないよね。
  ・・・・・・・・・ってことは、やっぱりここは、僕の部屋なのかなぁ?

  でもなぁ、ちょっと豪華すぎだと思うんだよねぇ、この部屋は。
  仰々しいというか派手というか。
  ・・・・・・・・・ハァー、第一王子でなくとも、王族の部屋だもんね。
  見栄を張らないといけないんだろうなぁ、国の威厳のためにも。



「殿下、ミルクをお持ちしました。」


  黄昏ていたら、ミルクが届いたようだ。

  ん?
  あれ、これは・・・・・・・・・?

「こちらは、牛体鬼ミロスオーガーの変異種のミルクになります。あれの姿形はなかなか気色悪いのですが・・・・・・・・・いえ、失言でしたね。そのようなお顔をされなくても・・・・・・・・・これは、殿下に害のあるものでは御座いません。そのようなものが用意される筈がありませんから。ご安心を。」

 やっぱり、顔に出てしまったかぁ。
  サーシャさんが先日、見せてくれた魔物図鑑で見ていたけど・・・・・・・・・牛体鬼ミロスオーガーって確か、鬼の頭と鬼の(というよりは人系の)足を持ちながら、牛の胴体を持つよく分からない魔物だったっけ。


「ですが、牛体鬼ミロスオーガーのミルクは一般的に、牛頭竜ミノサウルスのミルクと並ぶ高級品ですよ。味も良く、栄養価も高い。その上、魔物本体である牛体鬼ミロスオーガー牛頭竜ミノサウルスと比較して、生きた状態での捕獲が簡単ですので牧場が少ないながらも存在します。」


  な、成る程。
  そっか、そうだよねぇ。

  それに、育てるにしたって、魔物なんだから、きっと大変だよね。

  うんうん、もらっている側としては、文句なんか言っちゃダメだよね。
  いただきます!

  ゴクゴク・・・・・・・・・ゴクッ!ぷはー。

  うん!美味しい。
  牛頭竜ミノサウルスと同じくらい高級品なんだから、美味しいと思っておこう。


  あれ?
  なんだか、使用人さんの目元がうるうるしている、と言うか、赤くなっているんだけど、どうしたのかな?


「ウウッ、クッ、殿下は本当に、本当にいい子ですねぇ。グスンッ、幼少期の現陛下の好き嫌いには随分と苦労させられましたが。ウッ、ンッ、我ら一同、きっと、皆、喜ぶことでしょう。」


  好き嫌いしないだけで泣かれちゃった!?

  お父さんは、いったい何をしたんだよ!

  んもー。
  どれだけ苦労掛けたら、ちょっとしたことで感動されるようになるのかなぁ?
  むぅー、僕には分からないよぉ。


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