君と笑った

もしかしてポコ

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第八話

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全部、俺のせいでいい
 

十月の風は、骨まで冷やすようだった。

制服の下で身体が震えるのは、寒さのせいだけじゃなかった。

蓮に、もう会えないかもしれない。

そんな予感が、ずっと胸を締めつけていた。

 

蓮は、学校に来なくなった。

理由は誰も知らない。担任も、友人も、誰も本気で探そうとはしていなかった。

彼が最初から“ここにいなかった”みたいに、皆、静かに話題を逸らしていく。

でも私は知っていた。

蓮は逃げているんじゃない。何かを終わらせに向かっている。

 

ある朝、ポストに一通の手紙が届いていた。

差出人はなかったけれど、文字を見ただけで蓮だとわかった。

震えた手で封を切ると、そこには短い言葉だけがあった。

『次にやることは決めた。全部、俺のせいでいい。君だけは、どうか』

その瞬間、私は走っていた。足の感覚も、時間も、何も覚えていない。

ただ、あの場所へ行かなきゃいけないと思った。

 

向かったのは、廃工場の裏。

最初に蓮が、暴力という感情を私に見せた場所。

そこに、蓮がいた。

制服のまま、手には封筒と何かの書類を持っていた。

「来ないでって、思ってたのに」

私を見ると、蓮は微笑んだ。あの春の日のように、淡く、儚く。

「何を、するつもりなの?」

「証拠を揃えた。足跡も、指紋も。いくつかの現場には、もう俺の名前が刻まれてる」

「……どうして」

「君が、ここから戻れるように」

 

私は近づき、彼の手から書類を奪い取った。

目を通した瞬間、息が詰まった。

――現場写真、目撃証言の改ざん案、偽の供述書。

どれも、彼が本当に“全てを引き受ける”準備をしていた証だった。

「どうして……そんなことまで」

「君には、生きてほしいんだ」

「私は、もう普通には戻れない」

「戻らなくていい。生きてくれれば、それでいい」

 

私は叫んだ。

「蓮がいない世界に、生きる意味なんてない!」

「俺は、君の中にいられれば、それでいい」

蓮は一歩近づき、私の頬に手を添えた。

「俺が笑ったせいで、君は変わってしまった。
 だから最後に、俺が全部背負う」

「違うよ……私は、自分で選んだ。蓮のせいにしないで」

「それでも、君を壊すのは、もう嫌なんだ」

 

沈黙が流れる中、遠くで電車の音が響いた。

どこかへ行けというように。

蓮は静かに言った。

「君がこれ以上壊れてしまう前に、俺が終わらせる」

私は、彼の胸に顔をうずめた。

「終わらせないで……お願い……」

蓮の手が、私の髪をそっと撫でた。

その温度を、私は一生忘れられない。

「君と笑った日々だけが、俺の救いだった」

「じゃあ、死なないで」

「死ぬわけじゃない。ただ、君の前から消えるだけ」

彼の声は、決意に満ちていた。

――私は、泣けなかった。泣いたら、彼が本当に消えてしまう気がした。

だから私は、笑った。あの日みたいに、彼だけのために。

そしてその瞬間、蓮も笑ってくれた。最後の、微かな、優しい笑顔だった。
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