仮 参

淀川 乱歩

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其の九 淫獄転生 其の参 稚児愛玩 其の破恥

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 ……人間界は日本の或る小学校、刻は黄昏(たそがれ)、季節は晩秋、其の少年は放課後の無人の校舎を、忘れ物を取りに、二階の自分の教室に向かって、駆けていたのです。
 ……沈みかけた、赤い夕日が少年の駆けている廊下の、奥深くまで射し込み、廊下に面した教室の窓の外では、運動部の子供達の元気な声が、遠く聞こえていたのでした。
 ……少年は、何か奇妙な、まるで白昼夢の中の様な違和感を感じて、奇妙な胸騒ぎに襲われ、懸命に教室へ急いだのです。
 ……其れは、少年が二階への階段を上り、丁度一階と二階の中間に有る、階段の踊り場を通り抜け様とした其の刻、何時もは存在してい無い大きな姿見が、少年の姿を映していたのでした。
 ……其の、大人の身長程の縦長の全身鏡(かがみ)の中、何故か少年は全裸で映っていたのです。
 ……そして、少年が其の鏡に手を伸ばして、触れ様とした瞬間、鏡の中から青白い手が突き出し、少年の伸ばした手の手首を鷲掴みにして、強い力で少年を鏡の中に引き込んだのでした。
 ……其れは、童飼鏡の仕業で、妖怪童飼鏡は現実の世界を複写した、自分の鏡界の中に、神隠しにした人間の子供達を閉じ込めて愛玩童、つまり性的玩具(ペット)として淫らに可愛いがっていたのです。
 ……鏡界とは、現実の世界とは左右が裏返しの、刻の制止した結界の中の世界で、永遠の黄昏刻の赤い夕日の中で、全裸の少年少女達が、毎朝、自宅から学校に登校し、無人の教室で一人授業を受け、夕方に無人の町を自宅に帰る毎日を、永遠に繰り返していたのでした。
 ……そして、そんな鏡界の中では、全裸の子供達は不老不死で、同じ一日を永遠に繰り返し続けていたのです。
 ……普通に、暮らしている幻影の中で。
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