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41. ミカルのおすすめ(2)
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ミカルが指さしたのは、クローゼットの一番奥にあるトルソーだった。綺麗なブルーのドレスが着せられている。結婚式のときにイデオンが着ていた軍服と同じ色のようだ。デコルテと袖の一部がレースになっていて、腰には白地に金の刺繍入りの帯のようなものが巻かれていた。
「これって……もしかしてミカルくんのお母さんのドレス?」
「……」
小さな雪豹獣人はこくんと頷いた。
「そっかぁ。お空の色みたいで綺麗だね、とっても」
サーシャが褒めたのでミカルは笑顔になり、片方の手でレース素材の袖を持って反対の手でサーシャの手を引っ張った。
「え、もしかしてこれを僕に着てってこと?」
彼はそうだというように自信満々な様子で頷く。
「ああ~……っと、ごめんね。これは女の人の服なんだ。僕は男だからドレスはちょっと着られないんだよねぇ」
「……」
サーシャがそう言うとミカルは首を傾げ「だめなの?」とでも言うように悲しげに眉を寄せた。
(うわわ、どうしたらいいべか。僕がダンスパーティーで着る服や肌の手入れのことで困ってたからミカルくんが一番お気に入りのドレスを勧めてくれたんだよね)
サーシャはしゃがんでミカルの手を取った。大切なお母さんのドレスを貸してくれようとする彼の優しさにじんわりと胸が温かくなる。
「ありがとうミカルくん。気持ちはとっても嬉しいよ。したけど僕がこのドレスを着るのはちょーっと難しいんだ。僕が困ってるから見せてくれたんだよね?」
納得いかない顔で頷くミカルを抱きしめる。
「――本当にごめんね」
ミカルの尻尾はしおしおとうなだれるように床に垂れた。それを見ているだけでどうにも切なくなってしまう。
(僕が女の人だったらなぁ。したっけミカルくんのお母さんに少しでも近づけたかもしれないのに――それにもしかして僕が女の人だったらイデオン様はもっと僕を好きになって子どものことも積極的になってくれてたんだべか?)
自分がオメガという性別であり、この世界では男同士でも結婚・出産ができると知ってからあまり性別について深く考えてこなかった。
せっかくのドレスを着てもらえないとわかったミカルはしょんぼりしてしまった。手をつないで廊下に出ると、アンとスーが息を切らせて駆けてきた。
「サーシャ様! こちらにおいででしたか。話に夢中になって気づいたらお二人の姿が見えず心配していたんですのよ」
「あ、ごめんね。ミカルくんに連れて来てもらったんだ」
「さようでございましたか」
「うん。実はミカルくんのお母さんのドレスを僕にって見せてくれてね」
「まぁ、そういうことでしたのね」
ミカルは自分が何か間違ったことをてしまったと思ったようで、恥ずかしそうにサーシャの後ろに隠れた。
「ありがたいけど、ドレスだったもんだから僕は着られないんだって話したところでさ」
そう言うとアンとスーが顔を見合わせてお互いに手を取り合った。
「それですわ!」
「サーシャ様、イェシカ奥様のドレスを男性でも着られるように私達が仕立直しいたします」
アンとスーが言うには、この国のドレスは裾を直せば男性が着てもおかしくない形にできるのだという。
たしかに先程見たドレスは、裾がストンと落ちる形で広がっていない。結婚式のときにイデオンが着ていた軍服は膝下までの長さのコートのような形で、中にズボンとロングブーツという出で立ちだった。
「足首が隠れる今のドレスの丈を膝下までつめて、下には男性用のキュロットとブーツをお召しになればほとんどそのまま着ていただけます」
「もちろん、それでミカル様がよろしければですけれど……」
アンとスーが言うので僕は背後にいるミカルに尋ねる。
「ミカルくん。さっきのドレス、少し長さを調節したら僕も着れるかもしれないって」
ミカルはこちらを見上げた。
「少しスカートの下のところをカットすることになるんだけども、それでもいいべか?」
すると幼い獣人はぱっと笑顔になって頷いた。
「これって……もしかしてミカルくんのお母さんのドレス?」
「……」
小さな雪豹獣人はこくんと頷いた。
「そっかぁ。お空の色みたいで綺麗だね、とっても」
サーシャが褒めたのでミカルは笑顔になり、片方の手でレース素材の袖を持って反対の手でサーシャの手を引っ張った。
「え、もしかしてこれを僕に着てってこと?」
彼はそうだというように自信満々な様子で頷く。
「ああ~……っと、ごめんね。これは女の人の服なんだ。僕は男だからドレスはちょっと着られないんだよねぇ」
「……」
サーシャがそう言うとミカルは首を傾げ「だめなの?」とでも言うように悲しげに眉を寄せた。
(うわわ、どうしたらいいべか。僕がダンスパーティーで着る服や肌の手入れのことで困ってたからミカルくんが一番お気に入りのドレスを勧めてくれたんだよね)
サーシャはしゃがんでミカルの手を取った。大切なお母さんのドレスを貸してくれようとする彼の優しさにじんわりと胸が温かくなる。
「ありがとうミカルくん。気持ちはとっても嬉しいよ。したけど僕がこのドレスを着るのはちょーっと難しいんだ。僕が困ってるから見せてくれたんだよね?」
納得いかない顔で頷くミカルを抱きしめる。
「――本当にごめんね」
ミカルの尻尾はしおしおとうなだれるように床に垂れた。それを見ているだけでどうにも切なくなってしまう。
(僕が女の人だったらなぁ。したっけミカルくんのお母さんに少しでも近づけたかもしれないのに――それにもしかして僕が女の人だったらイデオン様はもっと僕を好きになって子どものことも積極的になってくれてたんだべか?)
自分がオメガという性別であり、この世界では男同士でも結婚・出産ができると知ってからあまり性別について深く考えてこなかった。
せっかくのドレスを着てもらえないとわかったミカルはしょんぼりしてしまった。手をつないで廊下に出ると、アンとスーが息を切らせて駆けてきた。
「サーシャ様! こちらにおいででしたか。話に夢中になって気づいたらお二人の姿が見えず心配していたんですのよ」
「あ、ごめんね。ミカルくんに連れて来てもらったんだ」
「さようでございましたか」
「うん。実はミカルくんのお母さんのドレスを僕にって見せてくれてね」
「まぁ、そういうことでしたのね」
ミカルは自分が何か間違ったことをてしまったと思ったようで、恥ずかしそうにサーシャの後ろに隠れた。
「ありがたいけど、ドレスだったもんだから僕は着られないんだって話したところでさ」
そう言うとアンとスーが顔を見合わせてお互いに手を取り合った。
「それですわ!」
「サーシャ様、イェシカ奥様のドレスを男性でも着られるように私達が仕立直しいたします」
アンとスーが言うには、この国のドレスは裾を直せば男性が着てもおかしくない形にできるのだという。
たしかに先程見たドレスは、裾がストンと落ちる形で広がっていない。結婚式のときにイデオンが着ていた軍服は膝下までの長さのコートのような形で、中にズボンとロングブーツという出で立ちだった。
「足首が隠れる今のドレスの丈を膝下までつめて、下には男性用のキュロットとブーツをお召しになればほとんどそのまま着ていただけます」
「もちろん、それでミカル様がよろしければですけれど……」
アンとスーが言うので僕は背後にいるミカルに尋ねる。
「ミカルくん。さっきのドレス、少し長さを調節したら僕も着れるかもしれないって」
ミカルはこちらを見上げた。
「少しスカートの下のところをカットすることになるんだけども、それでもいいべか?」
すると幼い獣人はぱっと笑顔になって頷いた。
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