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40.ミカルのおすすめ(1)
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マリアーノはサーシャの胸を人差し指でぐっと突いた。
「サーシャはイデオン様といまだにお友達みたいな関係なんでしょう?」
「そ、そんなこと――」
「それはね。やっぱりサーシャに色気が足りないからだと僕は思う」
そう言ってマリアーノは赤い唇を突き出し、流し目でこちらを見てくる。サーシャはちょっと背筋が寒くなるような感じがした。
「それはそうかもしんないけども……」
(――ていうかマリアーノのそれが色気だって言いたいの……?)
「ほら、その言葉遣い! こっちに越して来てからサーシャはなんだか変な喋り方だし、立ち居振る舞いも田舎臭くて洗練されてないし。服は部屋着みたいで質素なうえにその変な匂いのマント!」
(だから……。これはいい匂いなんだってば!)
「悪い? 別にそんなのどうでもいいべさ」
「だーめだめだめ。それじゃあイデオン様は発情できませーん」
「は、発情って……やめてよマリアーノ」
「だからぁ、恥ずかしがってる場合じゃないの。とにかく当日のメイクは僕に任せて。とびきり色っぽく仕上げてあげる。着る物は僕が持ってきた衣装を貸してあげるから心配しないでね!」
マリアーノは言いたいだけ言ってさっさと部屋を出ていった。
(一体なにがなんだか……色気? そんなに色気無いべか……)
サーシャは姿見で全身を眺めてみた。転生後のこの顔のつくりは間違いなく整っていて綺麗だ。しかし髪の毛は洗いざらしでところどころ跳ねているし、唇は乾燥してひび割れかけている。肌も水分が足りずに粉を吹いていた。
「もしかして僕――ヤバいんでない?」
(庭いじりに夢中になってて、身だしなみなんて気にしたこともなかった。もしかしてイデオン様が僕のこといつまでも抱いてくれないのって色気が無かったから……?)
サーシャはマリアーノの言葉が実は馬鹿にできないのではないかと気づいて青ざめた。
◇
「――って言われてちょっと僕もハッとしたんだよね」
「そうでしたか……」
サーシャは翌日コンサバトリーでアンとスーにマリアーノから指摘されたことについて相談してみた。
「サーシャ様はもちろんそのままで十分お美しいのですよ?」
「ええ。それは本当に。ですが、その上で一言申し上げさせて頂くとすれば……たしかに、ちょっと身だしなみに気を遣ってみるのもよろしいかもしれませんわね」
「そ、そっか……」
やはり侍女たちもそのように思っていたのだ。するとこれはイデオンも呆れている可能性が高い。
「ねぇ、僕どうしたらいいべか?」
「それは、私達にお任せくださいませ。スキンケアから――」
「衣装まで、私達がダンスパーティー当日までに完璧に仕上げて差し上げますわ」
「ありがとう! それで、何をどうすればいい?」
僕が尋ねるとアンとスーは二人で話し合いを始めた。あーでもない、こーでもないと意見を交わしているがサーシャはスキンケアの話だということ以外何を言っているかさっぱりわからなかった。
置いてきぼりになって呆然としていると、隣の椅子に座っていたミカルが立ち上がってサーシャの袖を引っ張った。
「え? ミカルくんどうしたの? そっち行きたいの?」
「……」
ミカルは無言で頷いた。一体どこへ行くのか、サーシャの手を引いてコンサバトリーから王宮の廊下へと入って行く。
「どこ行くの? トイレ?」
ミカルは首を横に振って歩いていく。するとサーシャが普段訪れることを禁じられている西棟のある部屋にたどり着いた。ドアを開けると、室内には子ども向けの椅子やテーブル、小さなサイズのベッドが並んでいた。壁紙は淡いグリーンで、可愛らしい木馬の柄だった。
「ここって……もしかしてミカルくんのお部屋?」
ミカルはこくこくと頷いた。
「うわぁ、こんなめんこいお部屋なんだぁ」
サーシャはここに来て初めて見る子ども部屋の様子に心を躍らせた。
「あ、このちゃんこいベッドで寝てるんだね。椅子も子どもサイズだ~」
家具のサイズ感に気を取られていたサーシャの袖をミカルが引っ張って、部屋の奥にあるドアの前に立たされた。
「え、ここを開けろってこと?」
ミカルは大きく頷いた。ドアの中はウォークインクローゼットになっており、ミカルがずんずん進んでいく。
(なんだろう、ミカルくんの服ば見せてくれるのかな?)
そしてミカルはある服の前で立ち止まった。
「え、これ?」
「サーシャはイデオン様といまだにお友達みたいな関係なんでしょう?」
「そ、そんなこと――」
「それはね。やっぱりサーシャに色気が足りないからだと僕は思う」
そう言ってマリアーノは赤い唇を突き出し、流し目でこちらを見てくる。サーシャはちょっと背筋が寒くなるような感じがした。
「それはそうかもしんないけども……」
(――ていうかマリアーノのそれが色気だって言いたいの……?)
「ほら、その言葉遣い! こっちに越して来てからサーシャはなんだか変な喋り方だし、立ち居振る舞いも田舎臭くて洗練されてないし。服は部屋着みたいで質素なうえにその変な匂いのマント!」
(だから……。これはいい匂いなんだってば!)
「悪い? 別にそんなのどうでもいいべさ」
「だーめだめだめ。それじゃあイデオン様は発情できませーん」
「は、発情って……やめてよマリアーノ」
「だからぁ、恥ずかしがってる場合じゃないの。とにかく当日のメイクは僕に任せて。とびきり色っぽく仕上げてあげる。着る物は僕が持ってきた衣装を貸してあげるから心配しないでね!」
マリアーノは言いたいだけ言ってさっさと部屋を出ていった。
(一体なにがなんだか……色気? そんなに色気無いべか……)
サーシャは姿見で全身を眺めてみた。転生後のこの顔のつくりは間違いなく整っていて綺麗だ。しかし髪の毛は洗いざらしでところどころ跳ねているし、唇は乾燥してひび割れかけている。肌も水分が足りずに粉を吹いていた。
「もしかして僕――ヤバいんでない?」
(庭いじりに夢中になってて、身だしなみなんて気にしたこともなかった。もしかしてイデオン様が僕のこといつまでも抱いてくれないのって色気が無かったから……?)
サーシャはマリアーノの言葉が実は馬鹿にできないのではないかと気づいて青ざめた。
◇
「――って言われてちょっと僕もハッとしたんだよね」
「そうでしたか……」
サーシャは翌日コンサバトリーでアンとスーにマリアーノから指摘されたことについて相談してみた。
「サーシャ様はもちろんそのままで十分お美しいのですよ?」
「ええ。それは本当に。ですが、その上で一言申し上げさせて頂くとすれば……たしかに、ちょっと身だしなみに気を遣ってみるのもよろしいかもしれませんわね」
「そ、そっか……」
やはり侍女たちもそのように思っていたのだ。するとこれはイデオンも呆れている可能性が高い。
「ねぇ、僕どうしたらいいべか?」
「それは、私達にお任せくださいませ。スキンケアから――」
「衣装まで、私達がダンスパーティー当日までに完璧に仕上げて差し上げますわ」
「ありがとう! それで、何をどうすればいい?」
僕が尋ねるとアンとスーは二人で話し合いを始めた。あーでもない、こーでもないと意見を交わしているがサーシャはスキンケアの話だということ以外何を言っているかさっぱりわからなかった。
置いてきぼりになって呆然としていると、隣の椅子に座っていたミカルが立ち上がってサーシャの袖を引っ張った。
「え? ミカルくんどうしたの? そっち行きたいの?」
「……」
ミカルは無言で頷いた。一体どこへ行くのか、サーシャの手を引いてコンサバトリーから王宮の廊下へと入って行く。
「どこ行くの? トイレ?」
ミカルは首を横に振って歩いていく。するとサーシャが普段訪れることを禁じられている西棟のある部屋にたどり着いた。ドアを開けると、室内には子ども向けの椅子やテーブル、小さなサイズのベッドが並んでいた。壁紙は淡いグリーンで、可愛らしい木馬の柄だった。
「ここって……もしかしてミカルくんのお部屋?」
ミカルはこくこくと頷いた。
「うわぁ、こんなめんこいお部屋なんだぁ」
サーシャはここに来て初めて見る子ども部屋の様子に心を躍らせた。
「あ、このちゃんこいベッドで寝てるんだね。椅子も子どもサイズだ~」
家具のサイズ感に気を取られていたサーシャの袖をミカルが引っ張って、部屋の奥にあるドアの前に立たされた。
「え、ここを開けろってこと?」
ミカルは大きく頷いた。ドアの中はウォークインクローゼットになっており、ミカルがずんずん進んでいく。
(なんだろう、ミカルくんの服ば見せてくれるのかな?)
そしてミカルはある服の前で立ち止まった。
「え、これ?」
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